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個人が個人と向かい合うのに、タグ付けは要らない。

先日、青森市のNPO法人「SAN Net青森」の理事長をつとめる根本あや子さんに取材させていただきました。

根本さんはとてもチャーミングな方。とあるイベントでお話する機会があり、それからじっくりお話する機会をいつか作りたいと、ずっと片思いしていました。

わたしは人の個性、多様性、生き方、働き方…そしてそれらを支援する人たちの活動に興味関心があり、自分自身も偏った視点は持たないよう心がけているつもりですが、「そう思いたい」のと「実際思うこと」は違います。

わたしたちが暮らす街は、本来はもっと雑多で、猥雑で、さまざまな思想を持った人が入り混じっていて、だけどそれで成り立っていたはずでした。
今の街は、もしかしたらきれい過ぎるのかもしれません。そうせざるを得ない何かがあったのかもしれません。均一化した今の社会では、個性や能力を発揮しようとすると叩かれるような、出るくいは打たれるような面もあります。

わたしは根本さんとお話しながら、「普通ってなんだろう」「誰が線を引いてるんだろう」「どうしてその線が必要なんだろう」ということが終始頭を駆け巡っていました。
この記事によって、なにか考えたり思ったりする人が1人でも居たらいいなと思い、ここに記します。

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青森県青森市のしんまち商店街は、青森駅からまっすぐ伸びる、青森市の中心商店街。通り沿いには色とりどりの花がプランターに植えられ、道行く人の目を楽しませてくれます。
そんな花壇のお手入れと水やりをしているのは、しんまち商店街で20年にわたって精神障害者の居場所作りの支援活動を続ける、NPO法人SAN Net青森(さんねっとあおもり)の会員のみなさん。その理事長である根本あや子さんに、お話をうかがいました。

市民による、市民のための精神障害者支援 SAN Net青森の活動

根本さんが夫と二人で設立したNPO法人SAN Net青森は、精神障害を持つ方への就労支援を目的とした地域サービスセンターを運営しています。精神障害とひとことに言っても、その種類はさまざま。鬱、リストカット、コミュニティ障害、過食・拒食、薬物依存、発達障害など、さまざまな困難と向き合う人の社会復帰や就労に向けたサポートをしています。

青森県出身の根本さんは、大学卒業後福祉関係の専門学校へ通い、そこで福祉の仕事と出会います。横浜市役所の福祉事務所で生活保護などのケースワーカーとして働きますが、40歳を前にして公務員を退職し、東京都で女性の薬物依存のためのハウス運営に関わるなど、女性にとっての社会復帰・回復を精力的に支援してきました。
その後夫とともに青森にUターンするも、精神障害者へのサービスが他の障害者支援に比べて少ないことに気づき、自分たちで行政でも当事者家族でもない「市民による市民のためのサービス」をしようと立ち上げたのがSAN Net青森でした。

精神科に入院していた方が、退院していきなり社会に馴染むということはなかなか難しい。病気だった原因には、人間関係に困難を抱える人もいます。身体障害者や知的障害者への福祉が整いつつあるなか、精神障害者への保健サービスはまだまだ少なく、困難を抱えている人たちが社会のなかに行く場所がなくなってしまわないようにと、1999年、青森市のしんまち商店街のなかに、精神科に通院している人が自由に立ち寄れるオープンスペースを開きました。それが地域サービスセンターの前身となる居場所づくりの活動です。

根本さん「その頃青森市は、刑務所がある都道府県になければいけない更生保護施設の設置に地域住民が反対し、施設設置できずにいる状況でした。この近くには保育所があるからダメ、この辺を前科者にウロウロされると困る・・・そんな風に、ちょっと人とは違うとか、理解できない人を排除してきれいにしようとする人が多かったものですから、街なかで精神障害者の支援なんて、と言われそうで、最初は看板も大きく出さず、ひっそりと活動していました。」

小さいながらも場づくりの活動の輪を広げていくことで、徐々に通院中の障害者の方が集まり、談話するようになったといいます。そして、ただ集まるだけでなく、何かできることがあればやってみよう、ということで、あるとき商店街で困っていることをSAN Net青森で手伝うことになったそうです。

商店街で困っていることはわたしたちが引き受けよう

根本さん「最初は商店街で植えている花の水やりでした。花を植えたはいいけど、お店の人がなかなか水やりしてくれなかったんですね。なので、通り沿いの花を回って水やりをお手伝いするようになりました。それから、商店街で買い物をして、荷物を持ち帰れない方のための宅配サービス。お店でお客様の住所と荷物を預かっておいてもらって、わたしたちが16時になったらお店へ伺って集荷して、お客様のご自宅に届けるというものです。青森市内は300円で宅配するんです。」

この宅配サービスは特にお年寄りなどの利用者に喜ばれているそうで「ありがとう、とても助かる」と、スタッフに直接声掛けをしてもらえることが根本さんも何より嬉しいのだそう。障害者自身が社会の役に立っている実感を得ることで、肯定感や自信につながるそうです。また、このような支え合いの活動が商店街に元気をもたらし、元気がなかった商店街の活性化に一役買うことができているのも、この取り組みのステキなところです。

障害者に限らず、だれもが支えあっている

根本さんはこれらの活動を通して街に住む人々や社会の意識を変えていきたいと話します。

根本さん「支援する、支援される。だれもがどちらの要素も持って生きているんですよね。どちらが偉いとか、どうやって生きたら正しいということは無い。だれもがいつどうなるか、わからないんですよ。だから、理解できない人や行動を、すべて排除してきれいにしようというのは、違うのではと思います。障害者も、罪を犯した人や依存者もそう。社会から追い出すのではなく、共生していくために、世の中には多様な人がいるということをまず理解することが必要です。当たり前とか、普通だとか、そういう固定化した価値観で、自分自身を苦しめないでほしい。」

現在SAN Net青森の地域サービスセンターには24名の登録があり、精神障害を持つ方がそれぞれのペースにあった働き方で自分にできることをしています。
精神障害は、誰にでもなり得るもの。コミュニティ障害も、拒食も、自殺未遂も、依存も、いつ誰に起きてもおかしくないことです。障害者だからと線引きをするのではなくて、手が足りない人には手が空いている人が手伝う、というふうにできることを支え合える場があれば、お互いがお互いのセーフティネットになって支え合えるのだと思います。
最近は子どもが、拒食や自殺未遂などで精神病院に入院することもあるそうです。「こうならなきゃ認めてもらえない」「わたしが生きていたらいけないんだ」と思いつめてしまうのには、多様性を認めない社会にも原因があると根本さんは話します。

どんな人にも悩みがあり、困難があり、それを持ち合わせて生きているけれど、SAN Net青森の活動には、それを1人で背負わぬようにと、荷物おろして休んでもいいんだよという温かさがあふれていました。

SAN Net青森の活動が人が手を繋ぎ合ってできた網のようにどんどん広がっていき、社会のセーフティネットとなって、1人で苦しむ人のところにまで届くことを願っています。

関連情報:特定非営利活動法人SAN Net青森 公式HP http://www.npo-sannet.jp/

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日本人はとくにカテゴリ分けが好き、というのは前にも書きました。(宇宙人は本当に人なのか)

タグ付けも、同じような意味ですね。結局、考えつく岸は一緒です。

※この記事は、悪人を解き放て!とか、犯罪者を野放しにしろっていうのか!という記事ではありません。それと、精神障害者と犯罪者を一緒くたにして捉えているわけではありません。わたしは犯罪は個性ではないと思っています。


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