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1番読み返している本「ボッコちゃん」から。「生活維持省」

確か学生時代にブックオフで買った「ボッコちゃん」という本。裏にはまだ値札もついています。

いろんなところに持ち歩き、表紙が破れても補修し、ずっと一緒にいる本です。

この本を手に取った理由は、小学生の時にも同じタイトルの本を読んでいたからだと思います。

小学生の時に読んだ同じタイトルの本は、子ども用に読みやすいようになっていたので、全くの別物ですが…。

今回はこの本に収録されている「生活維持省」という作品に触れたいと思います。

ざっくり言うと、主人公とその同僚が、皆が社会で快く過ごしていくために生活維持の仕事をする話です。

「生活維持省」のおかげでこの時代では快適な生活を過ごしていますが、以前はこんな世界でも事故や事件、争いは起き、自分で命を絶つ者もいたようです。

「生活維持のためには、本当にこの方法が正しいのだろうか」と考えさせられます。

ショートショートなので、長く説明することができないのですが、是非読んでほしい作品です!!

ここからネタバレを含む記事になりますが、1番最後の展開は書きません。

これを読んでからでも作品を読めると思います✨



ここからネタバレありです↓



ここは人口が爆発的に増えた世界。

人口の増加で治安は悪く、さらに立ち並ぶマンションの狭い部屋に押し込められたような生活は、とても快適に過ごせやしない。

それではダメだ!と政府はランダムに決められた人の命を絶つように生活維持省の人に命じます。

そうしてランダムに人を減らしていくことで人口の増加は抑えられ、快適に過ごすことができるというわけです。


「生活維持省」の人は、一般市民からは「死神」と呼ばれているようです。

快適な生活のために人の命を絶つ仕事をしていますから、確かにそう呼ばれる理由はわかります。

ただ、忌み嫌っていても、それに抵抗もできないようでした。

自分の娘がターゲットに選ばれてしまった母親は、最後の抵抗をします。

「自分が代わりになれないのか」
「どうして人の命を絶つようなことをするのか」

そう生活維持省の人に訊いても、

「それをすると他の人の言い分も聞いてあげないといけなくなる」
「この仕事をしなくなったらまた人が増え、今のような快適な生活ができなくなる」

と、この世界では真っ当なことを言い返されてしまいました。

この仕事がなくなることで、自分が快適に過ごせなくなると考えると、あまり言い返すことはできません。


案の定、この娘さんは生活維持省の手によって帰らぬ人となります。

歌声と木イチゴのはいったかごの持ち主に、ねらいをつけた。どこからか飛んできた柔らかいアブの羽音が、ひき金をひくまでの少しの時間を埋めていた。

この文から、いかにこの時代で長く生き抜くことが難しいのか、ということが読み取れます。

死ぬ時はランダムですし、いつ死ぬかは運任せだと思います。

毎日が快適に過ごせる反面、毎日が死と隣り合わせのこの世界。果たして幸せなのかどうか…。


ここからは、この話に出てきた母親についての考察をしようと思います!


娘は、残念ながら社会の生活維持のために犠牲になってしまいました。

この「社会維持」は、「皆が広大な土地でのびのび暮らすことができ、事故や犯罪や争い、病気や自分の手で死を選ぶことがない生活ができる」という意味が込められています。

「いまでは、すべての悪がなくなっている。強盗だとか詐欺だとか、あらゆる犯罪が。それに、交通事故や病気だってなくなった。かつては、自殺なんかをするやつもいたんだってな。考えられないことだ」

このように、主人公が同僚に向かって言っています。

「すべての悪がなくなっている」。ただ、それは生活維持省の手が身近に届いていない人の話です。

娘を奪われた母親は今まで通り快適な生活を送れるでしょうか。

この母親は娘との幸せを引き換えに、この快適な生活をのびのびと送れるのでしょうか。

こうやって生活維持省から家族を奪われた人は悲しみながら苦しみながら生活をしているはずです。

生活維持省の「仕事」のために犠牲になった人と、悲しんだり苦しんだりしているその家族。

そのたくさんの人たちがいてこそ快適な生活が保たれる。

ここは、本当に恐ろしい世界です。


最後に…

もともと、この話を読んだのは学生の時でした。

その時は「うわ〜怖!でも後味の悪さといい何か気味が悪いけど好き!」くらいにしか考えていませんでした。

でも、周りで子供を産む人も出てきた現在、少しだけ母親の先のストーリーまで考察することができるようになりました。

星新一作品は昔から愛されていますし、私は小学生の時から読んでいます。

自分がどの世代の時に読むかで考える内容がぐっと変わってくるのも、星新一作品の魅力だと思います。

ショートショートで読みやすいので、いつでも読めるのも魅力の一つです✨

そして勧めやすいというのも魅力です(笑)

書店に行った時は是非、星新一コーナーで足を止めてみてください☺️


ここまで読んでくださり、ありがとうございました🍀


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