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Boundary (境界)と携帯電話 #24

最近、難民支援NPO用のスマホ(私専用)をゲットした。オフィスが空いていた時は、オフィスの電話があるから、自分の携帯から難民のメンバーに電話をかける必要は一切なかったのだが、在宅になってからは、自分の携帯から非通知で電話をかけていた。なぜ非通知かと言うと、「難民メンバーにスタッフのプライベートな情報は決して渡さない」という原則があるからだ。我々は第二の家族のような関係ではあるけれど、アクティビティ以外では外で会ったりはしないし、勤務時間以外に電話をかけたりもしないし、スタッフのプライベートナンバーで連絡をとったりもしない。そこにBoundary=境界を設けないと、難民メンバーにとってもスタッフにとっても、幸せな結果にはならないからだ。難民メンバーはいつでも連絡をとってきてしまい依存的になったり期待値が大きくなるかもしれないし、スタッフもずっと仕事漬けになりメンタルがおかしくなるだろう。特に、福祉の仕事は、人の人生・不幸ごと・苦しみを背負いがちなので、普通の仕事以上に、職員はどこかできちんと境界を引くことが大事なのである。

この”Boundary”はうちの団体の中での頻出用語でもある。一番初めのボランティア・インダクションセッションでも時間を割いて説明されたし、採用の時の面接でも、この考え方にまつわる質問をされた。それ以外にもご飯のときや、ランチにでかける時などに、心理士のスージーの口からBoundaryという言葉を、もう何百回聞いたかわからない。個人情報を交換しない、ということの他にも、いろんな場面でBoundaryという言葉は使う。例えば、挨拶の時にハグするかどうかも、個々人の”Boundary=境界”に関わる問題である。

ということで、ロックダウン以後の在宅勤務から、私は非通知設定でいつも電話をしていたのだが、最近特にメンバーに電話をかける機会が増え、テクストでよいような内容も常に電話をかけなければいけないのとか(ショートメッセージだと電話番号がバレてしまうため)、等々不都合があり、とてもストレスだった。そこで、帰国が見えているとはいえ、やっぱり電話があった方がいいなと思い、ダイレクターのエリーに言ったらいとも簡単に携帯を送ってくれた。早く言えばよかった。

が、携帯電話を持って気付いた。これはきちんと管理をしないと私のBoundaryが脅かされる懸念が高い。難民メンバーは基本的にそんなにメールを使わないから、大体メールのレスポンスは早くなく、私ものんびり返事していたし、勤務日以外にメールが来ても、絶対に返事をしなかった。

それが、Whatsapp(Lineのようなもの。こっちの人がみんな使っている無料アプリ)でメッセージを送ると、相手から勤務日以外にもメッセージが来て、つい開けてしまうと既読がつくから、申し訳なくて返してしまう。それに、食料のサポートもしているので若干緊急性も高く(余裕持って食料が足りなくなる前にスタッフに連絡してもらうようにしているものの)、勤務日に連絡がつかなくて、勤務日じゃないその次の日に連絡がついたりすると、仕事してあげたい気になってしまう。そして今日まさしくそれが起きた。結局今日の午後は複数のメンバーの食料サポートでつぶれてしまった。

携帯電話は電源を切るのが一番で、私の勤務日はこの日とこの日だと、きちんとメンバーに伝えないといけない。

身を削って援助とか、24時間四六時中クライアントのことを考える、という仕事スタイルは、決して持続可能な形ではないように思う。もちろん、福祉セクターの中でも、24時間緊急体制を敷かないといけない場合もあるけれど、我々のNPOはその類の仕事ではない。スタッフのプライベートの犠牲の上に成り立つような仕組みは極力避けるべきで、その”美しい犠牲”みたいなものをNPOセクターに強いるような社会通念は取り去るべきだ。(その悪しき社会通念が、日本のNPOセクターの給料の低さ、人件費出ない問題にも繋がってるんだと思う)

何人かのメンバーに電話をかけて、お互いに近況を確認できて喋れたのは嬉しかった反面、Boundaryをきちんと設定することの重要性を痛感した1日だった。

写真は、うちの食料棚。お茶コレクション(奥にもたくさんある)。

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