父の遺産は〇万円?:2021年10月19日(相続税を考える日)
昨年、父が他界してからそろそろ一周忌になる。
父は、心臓に水が溜まる病気を患い、不整脈を起こすことも度々あって身体の中に除細動器を埋め込んでいた。
年を取って皮膚が薄くなった父の胸には四角い箱がポコッと飛び出していて、「機械の身体だ」と苦笑いをしていたことをよく覚えている。
最期は母と私、妹と甥っ子たちに見守られながら呼吸器のスイッチが切られ、呼吸が止まった父。悲しんでばかりもいられず、亡くなった次の日からは葬儀屋さんとの打ち合わせや準備に追われ、骨になった父を家に連れて帰るまでは本当にあっという間だった。
父は、「自分の葬式代だ」と言って母に預金通帳を渡していた。
遊び好きで賭け事をしたり、友人によくご飯をおごったりしていた父、葬儀を終え、方々に父の残した預金通帳や共済保険からお金を払い終えると、母から私と妹に封筒が渡された。
封筒の中には1万円が入っていた。
父の遺産だった。
「マイナスでなくてよかったね」と3人で声を出して笑った。
10月19日は相続税を考える日。日付は「そう(10)ぞく(19)」(相続)と読む語呂合わせからで、2015年の1月からの税制改正により相続税が増税されることを受けて記念日とされたそうだ。
相続税がかかるのは基本的に3,600万円からだそうで以下は0円。
うちの父の場合も母、妹と私が1万円ずつ、合計しても3万円だったのでもちろん相続税は0円だ。
不動産の名義などは色々と理由があって母と私たち姉妹になっているし、父は本当に最期は身一つの人だった。
以前、私の父は仕事が好きだったということをnoteを書いたことがある。
父は仕事と同時にいわゆる「男の付き合い」も好きな人だった。なので、自分が働いて稼いだお金は、家にいれる分と孫へのお小遣い以外はほとんど自分で使っていたのだ。
父とは反対で銀行家だった祖父、そして祖母の遺産相続は大変だったそうなのだけど、祖父母が亡くなった当時の私は子どもだったので、そのあたりのことはよく分からない。
ただ、3人兄弟だった父がその後に叔父さん達と疎遠になったことからも、きっと何かよくないことがあったのだろうと思っている。
父の場合は、母、妹と私の3人でちょうどよく3等分。
揉めもせずに大変あっさりと遺産相続は終わった。
遺産相続というと、よくテレビドラマなどでは遺産が原因で殺人事件に発展したり、一族が骨肉の争いを繰り広げたりというストーリーがあるけれど、現実で当事者になってみるとあっさりだ。
東洋経済の記事では「遺産額が少ないほど相続争いは起こりやすい」という記事もあったのだけど、うちの父の場合は正直少なすぎて争いにもならなかった。
遺産は亡くなった人が残した財産のことを指す言葉だ。
父の場合、残したお金という形の遺産は少なかったかもしれない。
でも、その代わりに自身が生きているうちにお金を沢山使ったのが父だった。
子どもの頃にピアノが習いたいと言えば教室に通わせてくれたし、欲しい本があればお小遣いをくれて本屋に連れて行ってもらった。大学の学費も出してもらって卒業までの生活費も実家からの援助があった。
私と妹が社会に出るまで、千万単位でのお金を使ってもらっている。
私が今ここにいて、生きて仕事があることも、全部父が働いてくれて稼いで使ってくれたお金が元になっているのだ。
そして、父自身もきっと自分のためにお金を使っていた。
父から最後にもらった「1万円」は、私にとって父が今までしっかりお金を使って生きてくれていたのだな、ということを確認することができた出来事だった。
相続という言葉には、「受け継ぐこと」という意味もある。
お金に関する考え方は人それぞれで、もちろん自身の死後に子どもや孫へお金という形で財産を残したいという人もいるだろう。
ただ、生きているうちに生きている自分や人のためにお金は使っておけば、亡くなった後も揉めることもないし、相続税もかからずに、「人」に対して財産を受け継ぐことができる。
父の遺産は色々ひっくるめて、今の私自身なのだと思う。
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