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都市・建築動向 / ロンドン・パリ・マルセイユ・リスボン・バレンシア / 2023夏

2023年6月〜8月中旬にかけての約2ヶ月間、ヨーロッパ4カ国の各都市に行ってきました。目的は色々あったけれど、一番大きかったのはセカンドホームベースの下見。良い物件は見つかりませんでしたが、今後のキャリアパスについても考えさせられる良い旅でした。

10年ぶりのロンドンや、友人が多い6年ぶりのパリも含めて、駆け足で巡ったなかで見えてきた都市・建築・街づくり・アート・デザイン関係の動向などを忘れる前にここにまとめておきます。やったこと、行った場所、会った人の情報に加え、カジュアルなトレンドメモのような形で読んで頂けたらと思います。

この記事で読めるもの:

  • イギリス、フランス、スペイン、ポルトガルでの2023年夏展覧会 / アート系イベントレビュー

  • 今都市・建築界隈で流行っていること、話題になっていること(リンクや書籍などの紹介あり)※あくまでも個人の独断と偏見ベースです。

  • 事例として知っておくと役立つスポット情報

最近、海外事例やトレンド調査に関してお仕事として依頼をいただくことが増えました。安くはない渡航費・宿泊費含め、今まで築いた人間関係などを含め自分の足でかせいでいる情報を惜しげもなくここで披露してます。投げ銭として、コーヒーを一杯私に奢ってくださるような気分でドネーションいただけますととても嬉しいです。

※因みにここに書かれている情報の一部や今まで&これからの都市リサーチに関する情報はシンプルな紙媒体としても印刷し、今後名刺代わりに、お会いした方々に差し上げようかなと思ってます。ぜひ直接お茶しましょう。

私杉田真理子のプロフィールや各種リンクはこちら👉https://linktr.ee/MarikoSugita


パリ


滞在期間:2023年5月29日〜6月5日

やっていたこと

  • 知人の繋がりで、パリの著名なアーティストインレジデンスであるCité internationale des artsに滞在中ほぼ毎日通う。南アフリカ出身のアーティスト・Zanele Muholiがちょうどレジデンスにきており、彼女のトークをヴィラ九条山の元ディレクター・Charlotteに誘われて見に行く。オープンスタジオで、台湾出身のキュレーター・Fang Yen Hsiang吉田ゆうさんなどと知り合いになる。かなり大きなアート組織だけど、気軽にディレクターやアーティストとおしゃべりできて、風通しが良い。

  • Charlotteに誘われ、モンマルトルにある2棟目のCité internationale des artsを訪問。レジデンス中の、ベトナム出身のリサーチャー&キュレーター・Chương-Đài Võと共に、庭でランチをする。その時に出会ったベトナム系フランス人アーティスト、フレデリックの、息をするように制作する風景に感動する。

  • ポンピドゥーセンターでノーマンフォスターの展示に行く。60年以上に渡る彼の取り組みを振り返る展覧会で、かなりの見応え。構造ビル、空港、橋などの大きな構造物から宇宙にまで想像力を馳せた彼の建築には、畏敬の念も抱きつつ、自分にはちょっとマッチョすぎるなと若干一歩引いた目でみてしまった。

  • アーティストの友人の姉の彼氏がやっている本屋After 8 Bookに遊びに行く。ちょうどブックリーディングをやっており、参加。

  • 建築系の展覧会を頻繁に行なっているPavillon de l'Arsenalで、パリにおける動物の存在に注目した展覧会・Animal Parisを見にいく。動物を飼ったり、怖がったり、避けたり、そもそも意識もしていなかったり。想像以上に、私たちは都市生活において、動物たちとも共生をしている。この展覧会では、古代から現代に至るまで、フランスの首都がどのように築かれてきたかを、動物というレンズを通して語るもの。そもそもの着眼点が面白い、素晴らしい展覧会だった。

  • 1年に一度の夜のアートフェス・Nuit Blancheの一環で、パリ中のアート施設を忙しく訪ね歩く。特に圧巻だったのは、シェアアトリエやギャラリーが集まるアート施設・POUSHのオープンハウス。まるで大学の学祭のような雰囲気で圧巻だった。Aubervilliersというなかなか面白そうなエリアにあるCentre d'art Ygrec-ENSAPというアート施設も良さげ。

  • アーティストによる不法占拠から始まった59 Rivoliに行くも、あまりの観光客の多さにゲンナリする。

  • 今回のパリ滞在では、アフリカ系の移民が多いGoutte d'Orを中心にフィールドワークをする。パリにおけるアフリカの文化に焦点を当てたクリエイティブセンター・Little Africaや、イスラム系の文化施設・Institut des Cultures d'Islam、クラフトビールムーブメントの先駆け的存在であるBrasserie de la Goutte d'Orなどを訪問しメンバーとお話させてもらった。Little Africaが発行する、"アフリカ的パリガイド"で紹介されていた本屋2つ、アフリカ系の作家を中心に扱うPresence AfricaineLharmatanを訪問。

  • パリのリソグラフスタジオをいくつか訪問する。リソグラフスタジオに行けば、大抵面白いローカルクリエイターを発掘することができる。今回訪れたのは、Quintal Atelier、Studio Fidèleの2件。

  • 建築家・Benjamin Aubryとランチをする。リチャード・セネットが立ち上げたリサーチプロジェクト、Theatrum Mundiの紹介などをしてもらう。

  • Bercy Street Workoutという面白いプロジェクトを見学しに、Bercy公園を訪問する。東南アジアなどでよく目にする公共ジム(?) に、アフリカ系のマッチョな男性を中心としたコミュティが集まり、爆音で音楽をかけながら皆んなでワークアウトしたりその様子を動画で取り合ったりしている。Tiktokは、@ms1k3 。公共空間をどのように使いこなすのか、文化によって特徴が全然異なり面白い。

  • アトリエが集中していることで有名なBelleville地区のオープンスタジオデーに参加し、いくつかスタジオを回る。無茶苦茶小さな個人スタジオにもこの日は入れるので、パリのアーティストの普段の姿を見るのにとても良いイベント。

都市・建築・街づくり関係者が知っておくべきトレンドなど

  • 後述のロンドンでも思ったけれど、全体として、マルチスピーシーズ関係のコンテンツが多い印象。動物、植物、虫、微生物など、人間以外の多様な生物の視点から都市や空間のあり方を考えるマルチスピーシース都市論なるものの可能性が徐々に開かれ始めているように思う。先述のAnimal Parisは都市と動物、そして動物と人間との関係性を浮き彫りにしたもの。私自身、今年の3月にデザインスタジオfor Citiesとして「アニマル・スケール・シティ」というワークショップを山梨県で開催した。ちなみに、世界初の国際的な都市計画の会議は1898年で、街中の馬糞をどうするかということが中心的な話題の一つだったらしい。都市は人間のものだけではなく、人間が共生する動物たちも、都市の登場人(?)物として昔から存在していた。マルチスピーシース都市論なるものは、東京大学総括プロジェクト機構特任講師の山崎嵩拓さんによるアーバンネイチャー(都市における人と自然の関わり合い)などの研究が面白い。今後、個人的にも探求していきたいテーマ

  • 『美術手帖』2023年4月号で「ブラック・アート」特集がでて、日本でも徐々にその存在感を発揮し始めたが、フランスでもブラック・アート(ディアスポラなどアフリカ系のアーティストによるアートの実践)のじわじわくる興隆を感じた。アフリカとの関係性は元々深いフランスだけれど、先述の南アフリカ出身アーティスト・Zanele Muholiが言っていたように、「フランスはいまだにブラックネス(Blackness)にアレルギー反応がある」。そんななかで、アフリカ系アーティストの発表の場や、ディアスポラに関する作品を見る機会が今回は多かった。そもそも最近、ストレートの白人男性の作品にはそもそももう興味がない、という雰囲気がアート界にどことなくある。注目を集めているのは、セクシャルマイノリティや文化・民族的マイノリティの発するメッセージだ。都市・建築界にも、いずれ"白人男性の作った作品にはあんまり興味がない"という時代がやってくるのだろうか。ブラック・アーキテクチャー、ヒップホップ・アーキテクチャー、クィアスペース研究などが関連分野として注目に値しそうだ。未だに白人男性が大好きな日本社会だが、意識的にマイノリティのデザイナーをプランニングやリサーチの場に招いたり、彼らをアサインして空間を作ったり、という実践が今後増えていけば良いなと思う。


マルセイユ


滞在期間:2023年7月4日〜7月19日

やっていたこと

  • アルプスの麓にあるアーティストインレジデンス・Villa Glovettesにて、フード・アーティストであるCéline Pelcéのパフォーマンスに参加しに行く。夏至を祝うお祭りの一環としてCélineが披露したのは、森のなかを歩き回りながら、食を通してその土地やランドスケープを感じるというパフォーマンス。魂を揺さぶられる体験だった。

  • このレジデンスで出会ったアーティストたちの影響で、セノグラフィーというものを意識し始める。公共空間などの都市空間に関わる空間的体験を主眼においた"Urban Scenography"という分野もあるらしい。セノグラファー・Mathilde Rouchによる"盛り盛りなスペース"をテーマにしたリサーチブック『Mathilde Rouch』に出会う。

  • スケートパーク、レストラン、コンサートベニュー、シェアガーデン、ブックストア、アトリエ、展示スペースなどからなる2400平米の複合施設「Friche la Belle de Mai」を、マルセイユに拠点を置くキュレーター・Karin Schlageterに案内してもらう。

  • マルセイユから電車で1時間ほどのアルルを訪問し、世界最高の国際写真フェスティバル「Les Rencontres d'Arles」に参加。TERUHIRO YANAGIHARA STUDIOのフランスオフィスである「Vague Arles」を訪問させてもらう。南仏らしいどっしりとした空間をアップデートした、さすがな内装と雰囲気に感動する。

  • アルルにて、フランク・ゲーリー設計のLUMA Arlesを訪ねる。目当てはシアスター・ゲイツの特別展「門」。常滑で作られた彼の作品や、ファンキーな選曲が良い感じのSake Barに満足する。LUMA Arlesに関しては以前からフランス人のアーティスト複数人から話を聞いていて、建築家も全く同じあたり、かなりビルバオ・エフェクトを意識している印象。

  • アートブックを扱う「Piece A Part」で行われた友人のアーティスト・Elsa Noyonsのイベントに参加。パリのリトル・アフリカとも言われるGoutte d'Or地区での彼女のリサーチがまとめられた「DÉPLIER L’ORDINAIRE」の出版イベントだ。地図やイラストといった形で複合的にエリアの姿が表現されていて、都市リサーチのアウトプットとして参考になった。

  • 元鉛工場跡地を活用した屋外でのコンテンポラリーアート展示、「Friche de l’Escalette」を訪問。夏季限定でオープンする展示を、1時間かけてツアーをしてもらう。自然に覆われて建物の原型を辛うじて残す程度になった足元の悪い工場跡を歩きながら、随所に設置されたアート作品を鑑賞するスタイル。ツアーも鑑賞も無料なのが良い。

  • マルセイユにあるコルビジェ設計の集合住宅「Unité d'habitation」(1952年竣工)を訪問する。入口に受付があり、訪問客も屋上やカフェなど各フロアに気軽に見学に入ることができる。個人的に好きだったのは、随所に設けられたオリジナルの照明と、屋上にある子供向けのプール。薄暗くて長いコリドーに、カラフルなドアが規則的な並ぶ様子はウェスアンダーソンの映画のセットっぽい。当時の格安価格でアパートを購入してリノベしていたら無茶苦茶勝ち組なんだろうな、とか妄想してしまう。住みたい。

  • テキスタイルデザイナー・Ghislaine Garcinの家に滞在。夫婦がDIYで作り上げたユニークかつ非常に美しい家に1週間寝泊まりしながら、フェルトや編みの技術をちょうど来ていたインターンの子と一緒に色々教えてもらう。

  • Design Paradeというデザインイベントにて、南仏・ToulonとHyéresを訪問。ロベール・マレ=ステヴァンスの設計のノアイユ邸(La Villa Noailles)を訪れる。

都市・建築・街づくり関係者が知っておくべきトレンドなど

  • 国際写真展で有名なArlesという街について、フランスで同年代のアーティスト複数人と何度か会話をしたことがある。その結果思ったのは、ビルバオ・エフェクト(スペイン北部のバスク州にあるビルバオの都市再生モデル。フランク・ゲーリーが設計したグッゲンハイム美術館が都市を再生させた事例)はあくまで懐疑的な目で見られている、ということ。ビルバオではうまくいったけれど、それをあまり安易にどこにでもコピーするものじゃない、と言う一般認識がある。そもそもコピペ大好きな日本の都市開発からすると、マジでという感じだろうけれど。先述のLUMA Arlesもゲーリー設計で、裕福なインベスターによるプライベート開発だ。古くから続く国際写真展とジェントリフィケーションに繋がらない持続可能なアートプロジェクトの可能性を考えたときに、LUMA Arlesの需要にあたっては地元民は慎重な姿勢があるようだ。ポスト・ビルバオ・エフェクトを考えるうえで参考になる。

  • パリとはまた違い、マルセイユにはFriche la Belle de MaiやFriche de l’Escalette大空間のクリエイティブ拠点が多い。そもそも、先述の2つのスペースのようにFricheという言葉を良く聞いたのだが、FricheにはFallow land、 wasteland(使われていない場所、休閑地、荒地といった)といった意味があるらしい。実際、元々使われていなかったであろう荒れた大きな土地に少し手を加えて市民に開放しているスペースがマルセイユには多い印象だ。そしてそれを綺麗に再生させすぎていないところも良い。例えばFriche la Belle de Maiはマルセイユ市のプロジェクトだが、日本の行政であればここでストップできないだろうな(もっとお金をかけて、安心安全に綺麗にしっかり整備をするだろうな)、と思わせる良い感じの緩さがある。これくらいの緩さがあるから大空間でも幅広く再生させられるんだろうか。日本でも、丁寧に一つの建物を、というマインドセットから、もっと雑でもいいから幅広く、というマインドセットになっても良いのではと思った。


ロンドン

滞在期間:2023年6月17日〜22日

やっていたこと:

  • Central Saint Martinsの卒業展に、PlayfoolのDanと木原共君と一緒に遊びに行く。キャンパスのあるキングス・クロス駅周辺の再開発がかなり進んでいて、15年前に来たロンドンとの違いに驚く。日本では成功事例みたいな感じで色んな提案資料に書かれているのを見ていたし、実際かなりウォーカブルで誰でも安心して集る空間になったという感じ。イケてるお店も結構入っている。一方で元々あったであろうテクスチャーは無くなっていて、エッジさを求める若手のクリエイティブ層から見たらうーむ、という感じなのかもなと。賛否が分かれそう。カナル沿いのボートを改修した本屋などは健在だった。

  • このエリアに2023年2月に新しくオープンしたアート施設・Lightroomにて、デイヴィッド・ホックニーのインスタレーション「David Hockney: Bigger & Closer」を見に行く。映画1本観るくらいの価格帯。4面シアターの没入空間で、なかなか良かった。子供がのびのびと、踊ったり叫んだりしながら鑑賞しているのを見て、文化インフラのある都市で子育てするってやはり大切だなと思う。

  • 数年前に京都市の観光課のプロジェクトでオンライン上でインタビューをさせてもらって以来、いつか会いたいなと思っていたアーティストデュオ、Pil and Galia Kollectivにアポをとり会いに行く。夫婦でパフォーミングアートの活動をしている2人は、自宅の一部の小さなスペースをギャラリーとして定期的に開放して使っている。私が京都の事務所兼自宅・Bridge Toでしていることと規模感やビジョンが近く、親近感。空っぽの何もない空間を自分たちで改修して心地よい空間を作ったり、定期的に夫婦で海外に出てアートプロジェクトを行なったり。限りなく仕事とプライベートの境界が近い、というか溶けていて、インスピレーションをもらう。

  • 野沢温泉の元柔道場をボルダリングジム&コミュニティスペースとして活用する「The Dojo Climbing」 創業者のサムとロンドンで会い、彼女の好きなボルダリングジム、The Castle Climbing Centreに連れて行ってもらう。名前の通り、元城の建物を使ったジムで、外から見ると、もう本当に、城(笑)。広大な元城の敷地のなかに、コワーキングができるスペースがあったり、コミュニティガーデンがあったり(ボランティアメンバーを募集していた)、カフェがあったりと、1日中過ごせるスペースになっている。コワーキングと一緒になっているこういうスタイルのボルダリングジムは、近所に欲しいし、いつか作ってみたいな、とも思う。

  • イーストロンドンといえばなブリックレーン。メインストリートからも徒歩5分くらいの場所に、Spitalfields City Farmという広々としたコミュニティーファーム&ガーデンがあった。地域のボランティアメンバーを中心に運営しているようで、誰でも気軽に入れるのが良い。サリーを着た地元民らしいおばあさんもいれば、ヒップな装いの白人男性もいる、その力の入っていない多様性が◉。馬、ロバ、カモ、ブタ、蜂などなど動物も多く子供も楽しんでいたし、植えられている植物・野菜類も多岐にわたる。まさに都会のオアシス。ここを訪問して初めて、あ、ロンドン住めるかも、と思った。ブリックレーンといえばなビンテージマーケットや、今回サムに教えてもらった昔ながらのベーグル屋Beigel Bake Brick Lane Bakeryも合わせて、やはりイーストロンドンは良い。

  • 今回のヨーロッパ旅のリサーチ対象の一つは、アフリカ系住民が集まるネイバーフッドの調査。ロンドン南部にあるPeckhamというエリアが、ナイジェリア住民が多いことから"Little Lagos"と呼ばれていることはいくつか記事を読んで知っていた。実際駅からメインストリートを歩くと、ヘアドレッサーが数ブロックごとにあったり、西アフリカ系の食材屋が多かったりと、多様性を感じられるエリアだった。巨大な駐車場を再利用して作られたクリエイティブスペースPeckham levelsや、スタートアップやアトリアなどが複数入居する複合施設Vopeland park & Bussey Buildingなど、コンパクトなエリアでありながら創造的な拠点が多い印象。ここにも住める!と思った。サウスロンドンに来たついでに隣のブリクストンに行き、Pop Brixtonなども見学。

  • 1983年に操業を停止し、約40年の空白期間を経て巨大複合施設として再開発されたバタシー元発電所(Battersea Power Station)を訪問。この再開発については元々知っていたわけではなくGoogle Mapでハイライトされていたのをたまたま見かけた、という程度。2022年10月にグランドオープンした約17万平方メートルの敷地で、元発電所内はショップやレストランが入るモールになっており、周りに住宅やオフィスが並ぶ。芝生のオープンスペースはテムズ川沿いということもあり広々として気持ちい。川沿いに張り出したデッキスペースも、商業施設化されておらず自由に出入りできるのが好印象。ロンドン史上最も費用のかかった再開発のひとつと言われているらしいが、確かにお金かけて開発したんだな感は無茶苦茶ある。周囲からのアクセスがちょっと悪いのが気になるけれど、一度見といても良い再開発事例の一つ。

  • 期待せずに行ったBritish design museumにて、思いがけず無茶苦茶好みなデザインスタジオ・Yinka iloriの存在を知る。イギリス系ナイジェリア人のイインカ・イロリは、カラフルで大胆なビジュアル・ランゲージが特徴。ナイジェリアのたとえ話や伝統からインスピレーションを得ながら、空間デザイン、家具、パッケージ、ソーシャルデザインなどなど、多岐にわたって活動する。

都市・建築・街づくり関係者が知っておくべきトレンドなど

  • キングス・クロス駅周辺の再開発がやはり今ホットだな、という印象。日本でもこの再開発は成功事例として随所で目にする(企画書などに参考事例として取り上げられていることが最近多い)。広々としたパブリックスペースもあるし、大学のキャンパスがあるから若者も集まる。Google、Appleあたりのテックジャイアントも来ている。けれど、デザイナーの木原共くんが、フラットでカルチャー臭がしなくなっちゃった、的なことも言っていた。手放しで成功事例として褒め称える前にまず自分の目で見てジャッジする必要がありそうだ。

  • やはりロンドンは東、あるいは少し離れた北部や南部が面白い。ロンドンのデザインスクールを最近卒業した友人によると、西側にキャンパスがあるアート・デザイン系の大学を卒業すると、みんな待ってましたとばかりに、こぞって東に大移動するらしい。値段の安さ、自由でヒップな雰囲気が若者を引き寄せるんだろう。


ポルトガル ポルト、リスボン

滞在期間:2023年6月2日〜6日

やっていたこと:

  • 知り合いのアーティストの紹介で、アーティストインレジデンスであり、ギャラリーであり、レストラン・バーでもあるMaus Habitosへ。ビジュアルアートと音楽にフォーカスを置いた複合施設で、毎日何かしらのライブパフォーマンスがあるよう。ポルトで行った場所で一番エッジが聞いていた。カクテルがおすすめ。

  • ポルト市街のいわゆるワイン地区に新しくできたWOW (World of Wine)へ。7つの博物館、12のレストラン、バー、カフェ、スクール、ショップ、展示ホール、イベントスペースから構成される広大な複合エリアだ。新しい開発事例として面白いのではと思い行ってみたけれど、正直無茶苦茶がらがらで、デザインも空間の作り方も少しチープな印象。インスタ映えを意識していたりなど商業的に作りすぎていて、残念な事例だった。

  • 友人のHugoが経営する建築事務所、XXXI studioを訪問。照明や家具などのプロダクトも手がける彼らのオフィスは若者たちの活気に満ちていた。オフィスの半分はマテリアルスタディのための場所になっていて、実際に自分たちで塗料の実験をしたりさまざまなタイル素材を検証したりと、設計と実践が近しくよき雰囲気。彼らがデザインを手がけたバー、UNI COCKTAILが良さげ。

  • 4Citiesプログラムの1つ上の卒業生、Sonja Dragovicとお茶をする。博士号取得のためリスボンに移動したモンテネグロ出身の彼女から、ポルトガルでの活動について色々聞きインスピレーションをもらう。

  • 以前はアートギャラリーとして使われており現在はアートデザイン系のイベントを幅広く手掛けるバー、Casa Independenteへ。広々とした建物で安いビールが飲める。ちなみにCasa Independenteがあるエリアは中華系・インド系のお店が集中するエリアで歩いていて興味深い。

  • リスボンに行くのであればココ!と誰かに教えてもらったのか、記事を読んだのか忘れたけれど、LxMarketというクリエイティブスポットを訪れる。レストラン、カフェ、バーほか、いくつかデザイン系のスタジオも入っている街区でフラっと歩いていて楽しいエリア。でも、観光客の影響なのか、ものすごいエッジの効いたスポットかと言われると、ちょっとコマーシャル色が強いかな、というのが私の印象。リスボンは次世代のベルリン、という話を聞いていたので期待して行ったけれど、正直ふーんというくらいで、心は揺さぶられなかった。そのすぐ隣にあるVillage Undergroundも気になる。

  • 海岸沿いに2016年にオープンしたミュージアム・MAATを訪問。20世紀前半の工業建築・テージョ発電所をリノベーションした建物と、アマンダ・レヴェット(Amanda Levete)が率いるイギリスの建築事務所AL_Aがデザインしたコンテンポラリーな建築で構成される。ランドスケープ・デザインは、レバノン出身の建築家ヴラディミール・ジュロビック(Vladimir Djurovic)が手がけた。好みなデザイン。日中の日差しが暑すぎ&車以外でのアクセスが若干微妙なのが難点だけど、夜に訪れるのが気持ちよさそう。

都市・建築・街づくり関係者が知っておくべきトレンドなど

  • リスボンは次のベルリン、という噂はよく聞いていた。家賃も物価も安くご飯も美味しいのもあって、クリエイティブ界隈の知人たちがリスボンに移住した、という話にずっと興味があった。今回リスボンへの滞在が3日程度と短かったこともあり、正直リスボンに対するハイプがあまり理解できなかったのだけど、ヨーロッパのなかでもかなり物価が低く成長の余地があるのは確かだなと思った。リノベしたら面白そうな物件も街中にたくさんある。ポルトガルは一定の金額の不動産に投資をしたら市民権が買えるそうなので、ヨーロッパ開拓の窓口としては良いかも。が、円安ということもありそこまで激安な街でもない。ジェントリフィケーションも進んで地元民と移住組との間に軋轢も生まれ始めているとか。


スペイン ビルバオ、バルセロナ、バレンシア

滞在期間:2023年6月22日〜7月2日

やっていたこと:

  • マドリードから、北部のバスク地方、東北部のバルセロナを始めとしたカタルーニャ地方、バレンシアを経由してマドリードに戻ってくるルートで、2週間キャンピングカーでロードトリップをする。

  • ビルバオで、かの有名なグッゲンハイム美術館へ。

  • バルセロナ市のまちづくり課で働く女性、ロシア出身の都市分析専門家、修士プログラムの1つ上の卒業生2人、それぞれとバルセロナの異なるエリアを一緒に歩く。それぞれの立場から、スーパーブロックを始めとする今のバルセロナの都市開発と変化について話を聞けて勉強になった。

  • バレンシアのバレンシア芸術科学都市(Ciudad de las Artes y las Ciencias)開発が進んでおりなかなか面白かった。自転車を借りてエリアを一周できる。フューチャリスティックなデザインのミュージアムやシアター、スタジアムなどの建築群に加えて、すぐ隣には、元トゥリア川の河床を公園にした市民公園(縦に伸びるこの公園が私的バレンシアのハイライト)があり、数時間は余裕で時間を過ごすことができる。設計は、スペインの建築家・サンティアゴカラトラバ。


おまけ

ヨーロッパから日本までの54時間のフライト(これまでの人生で一番長い空路の旅)で、乗り継ぎで12時間ずつ過ごしたテルアビブとニューデリについてもここにメモを残してきます。それぞれ現地に建築関係の友達がいてくれたおかげで、空港から市内に出ての数時間を、かなり有意義に過ごすことができました。空港着陸から離陸までの数時間のバタバタ街歩きドラマ。持つべきものは、特に建築系の、海外の友達だなと。

おまけ①テルアビブ

  • 私が運営している出版レーベル・Traveling Circus of Urbanim でエッセイ集を作るときに作品を送ってもらったアーバニスト・Tomer Cheloucheに、市内を4時間かけて案内してもらう。彼はUrbanizatorというスタジオを運営していて、リサーチャー、コンサルタントとして、アーバンソリューションをテーマにした街歩きツアーを企画・運営もしている。因みに彼に以前書いてもらったのは、世俗的なテルアビブと、伝統的なイェルサレムの関係性を、"市バス"という観点から読み解いたもの。彼は公共交通機関が大好きで、今回も、バスや電車、徒歩を駆使して案内をしてくれた。

  • 61階のビル、Azrieli Saronaの最上階にあるカフェ兼コワーキングに案内してもらい、街を見下ろしながらテルアビブについての話を聞く

  • バウハウススタイルの建物を使ったアーバンセンター、Liebling Hausを訪問。別名、White City Centerともいう。1936年に建築家のDov Karmiが設計した近代建築を再利用したもので、テルアビブの都市デザイン・建築の歴史に関わる資料のアーカイブやリサーチラボ、アートギャラリー、ワークショップスペース、レジデンスなどが含まれる複合施設として数年前にオープンした。今回テルアビブを案内してくれたTomerも、立ち上げメンバーの一人。

  • 意外だったのが、テルアビブはとてもLGBTQ+コミュニティにフレンドリーだということ。イェルサレムの宗教的・伝統的なイメージがどうしても先行してしまいがちなイスラエルだけれど、テルアビブは例外だという。ゲイフラッグが街のさまざまな場所にあり(実際、ゲイフラッグを大々的に掲げた幼稚園も見かけた)、LGBTQ+の人々も思い思いの服装で街中を闊歩しているし、TLV LGBTQ Centerというコミュニティセンターもあった。Tomer情報によれば、中東でゲイパレードを実施しているのは、現在テルアビブのみだという(以前はベイルートでもゲイパレードを行っていたが、現在は廃止)。

  • "緑はインフラ"だという気づきを得る。砂漠地帯にあるテルアビブでは、ほっといても緑が綺麗に育つ訳ではないが、Rothschild Boulevardなどを中心に見事な街路樹がある。Tomerの説明では、第一次世界大戦後のイギリス委任統治領パレスチナの時代に、イギリス人によって主にインドから植栽が輸入され、今に至るという。水が貴重な砂漠地帯では街路樹の管理にかなりのお金がかかる。しかし、成長の一途を辿る裕福なテルアビブでは、都市のグリーンをきちんと維持できる余裕がある。緑は一番安価でアクセサブルな資材でもあるベトナムなどの熱帯雨林と比べると、アーバングリーンの意味が全く異なっていて面白い。

  • 今回Tomerと話していて、この街の若者達には、"より良くなっていく未来"へのしっかりとした期待があるなと感じた。年々最高記録を更新していく高層ビル。広がる都市部。あがっていく物価、そして給料。どんどん増えていくスタートアップに、ビジネスチャンス。テルアビブは現在、世界で最も物価の高い都市のひとつとされている。"未来は今よりきっと良いはずだ"なんて、そんな無邪気な期待を、日本のミレニアム世代は持っているだろうか。いや、私も含め、ほとんどが未来を冷めた目でみているはずだ。今まさに成長の過渡期にあるこういう街を訪れると、その違いに、ちょっと焦ってしまう。



おまけ②ニューデリー

  • UN HABITATが2年に一度開催するグローバルカンファレンス、World Urban Forumが2018年にマレーシアであった時にたまたま出会った建築家・Paritosh Goelに、8時間ほどかけて市内を案内してもらう。

  • まずは彼が働くオフィスであるHabitat Centerへ。持続的な都市開発に関する都市デザイン・建築・都市政策まわりの政府関連オフィスが複数入っていて、この分野のインドにおけるヘッドクオーター的立ち位置のようだ。ちょうどカンファレンスをやっていて、オープニングパネルの「Transformational Urbanisation for india」に滑り込む。

  • Paritoshの計らいで、Habitat Center内にて、持続的都市開発政策を担当するチーム30人ほどの前で、飛び入りで15分ほどプレゼンテーションをさせてもらう。普段政策関係の大きなプロジェクトを担当している彼らからしたら、フィールドに飛び込んで実践の場で小さく活動を起こしているfor Citiesの活動などは、次元が違いすぎて面白がって聞いてくれた。

  • Khan Marketへ。Paritoshが何気なく"Urban Market"と呼ぶこのマーケットは、近年家賃が高騰し、整備が進んでいる。私たちがインドのマーケットと聞いて思い浮かべる雑然とした日常の場というよりは、若いブランドやファッショナブルなレストランが入居しているプチモールのような雰囲気かもしれない。インド最古の本屋の一つ、Faqir Chand Bookstoreのセレクションが非常に良かった。

  • Paritoshのパートナーである建築家のVernikaに、インド政府観光局とニューデリー市が共同で運営しているDilli Haat INAに連れて行ってもらう。インドに数ある州全ての特産品(民芸品、フード、衣類、アートなど)が買える場所。

  • 小さなKioskでチャイを頼む。注文してからその場で丁寧に作ってくれるスタイル。因みに朝散歩をした時は、バス停の前などで路上でチャイを作って売る人が沢山いて、多くの人が紙コップ片手にチャイを啜っていた。

  • 整備の進んだindia Gate周辺を歩く。歩行者天国になっているようだけど、実際は警官がいたりバリケードがあったりして、閑散としたイメージ。ただ、チャイに集まる人たちはちらほら。どんな場所にでも入り込める、恐るべし、チャイ。

  • 整った中心部のなかでも、道路には普通に牛が歩いているし、野良犬、猫、孔雀などのさまざまな鳥、リスなど多くの動物がいる。「この5分間で5種類の動物を見た」と満足気に話す友人をみて、人間以外の生物も含んだ都市のデザイン、マルチスピーシースなアプローチを改めて考えさせられた。

  • ニューデリの代官山?と聞いたことがある、Hauz Khas Villageへ。バー、カフェ、雑貨屋などヒップなお店が集まる、若者たちのメッカだそうだ。公園と湖、そして700年前の遺跡群に面していて、連れて行ってもらったバーのルーフトップでは、広大な自然が見渡せる。

  • 物価がかなり上がっている印象。若者が集まるおしゃれなバーではビールも一杯500円以上した。あと数年で日本の物価と変わらなくなるんじゃないか、と直感的に思った。


今後も海外の都市を訪問するたびにこういうメモを残していこうと思います。


杉田真理子(すぎたまりこ)

デザイナー、インディペンデントリサーチャー
一般社団法人for Cities共同代表

2016年ブリュッセル自由大学アーバン・スタディーズ修了。2021年都市体験のデザインスタジオ(一社)for Citiesを共同設立、現在同共同代表、(一社)ホホホ座浄土寺座共同代表理事。出版レーベル「Traveling Circus of Urbanism」、アーバニスト・イン・レジデンス「Bridge To」運営。「都市体験の編集」をテーマに、場のデザインプロジェクトを、渋谷、池袋、神戸、アムステルダム、ナイロビ、カイロ、ホーチミンなど複数都市で手がける。都市・建築・まちづくり分野における執筆や編集、リサーチほか文化芸術分野でのキュレーションや新規プログラムのプロデュース、ディレクション、ファシリテーションなど国内外を横断しながら活動を行う。1年の半分は海外のさまざまな都市に滞在している。

各種リンク👉https://linktr.ee/MarikoSugita





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