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【芸術部 NY】寄付金制度と美術館の入場料の関係性

※過去記事のアップです(2023年8月14日)

Good Morning & Good Evening !
芸術部ニューヨーク支店の石村です。
 
興味深い記事があったので、皆様にも共有させてください。
 
わたくし、美術館の年間パスを誰よりもフル活用している自信があります。
そのため、今まで全く気が付かなかったのですが、
2022年7月からメトロポリタン美術館の入場料が$25から$30に値上げされていました。
 
入場料30ドル!
現在の円安を度外視したとして、
現地人にとっても、結構衝撃的な値段だと思われます。
 
美術館側としても、このような大きな値上げは、
2011年以来していなかったそうで、広報担当者によると
「メトロポリタン美術館が、
可能な限り幅広いアクセスを確実に提供することと、美術館が提供するプログラムへの
重要なサポートを生み出すこととのバランスを模索した結果」と話しています。

記事:The Met Is Increasing Ticket Prices For The First Time In Over 10 Years)

(夏休みシーズンで賑わう美術館内の様子)

入場料の値上げは、経営が赤字であることを示唆しており
全米一、多くのパトロンに支えられている美術館
といっても過言ではないこの美術館が、
赤字になっているからくりがここにあります。
 
 
◆メトロポリタン美術館がチケットを値上げした背景
記事:The Trouble That Caused The Met’s Ticket Hike) ※独自視点で記事のサマリを作成
 
チケット値上げの大きな要因を、以下2点としています。
 
①メトロポリタン美術館の運営には、非常に多額の費用が掛かっている
メトロポリタン美術館では、世界的に有名な学者を雇用し、最高級の保存研究室を持ち、他の博物館からの何千もの収蔵品を調査、教育プログラムや講義の実施や発掘調査を後援しており、世界屈指の美術館の活動には、私達が想像する以上の費用が掛けられています。
 
 
➁慈善家(寄付者)からの寄付金の用途が、彼らの概説した用途に制限されている
寄付金は寄付者の意向に沿う特定の用途に制限されており、それらは給与、修繕、メンテナンスなどの美術館の希望通りに使うことができず、
たとえ赤字経営だとしても寄付金をその補填として使うことができません。


【参考:メトロポリタン美術館史上最大のパトロン】
(右)Oscar-Tang氏 (左)Agnes Hsu-Tang夫妻
2019年に125millionドル(125億円※)の寄付を約束。※1ドル100円換算

寄付金は、近代美術の展示および、
関連するプログラム構築に役立てられる予定

憧れのご夫婦です。携帯の待ち受けにしています。


◆チケット価格騒動が明らかにする本当の危機的問題
記事:The Trouble That Caused The Met’s Ticket Hike) 
 
チケット価格騒動から見えてくる問題の本質は、
メットやその他多くの一流文化機関が依存している
寄付者ベースの財政システムであると指摘しています。
 
 
--私たちが住んでいる国は、
文化機関や大学には政府の援助ではなく、
慈善活動や私たち自身の活動を通じて資金が提供されるべきだと信じています--

メトロポリタン美術館CEO ダニエル・ワイス氏(当時)
 
 
これに対する解決策が、慈善家への財政的依存であり、これまでメトロポリタン美術館にとっては、おおむね十分にうまく機能してきたとのこと。
 
そして、メトロポリタン美術館だけでなく
寄付者がいなければ、全米のほぼすべての文化機関が存在しなくなることに、疑いの余地はないようで、仮に、メットが寄付者ベースの財政システムから完全に切り離された場合、運営を続けるためには少なくとも、
一人当たり$43の入場料を支払わなければならないといいます。
 
一方で、選ばれた特定の大口寄付者が
美術館の運営に支配力を持っているというのは、
美術館の公共性において大きな問題であるとも指摘されています。

(メトロポリタン美術館屋上の様子)

記事は、PAY AS YOU WISHポリシーが変更され
トリステート(NY州、CT州、NJ州)以外の住人の
入場料の支払いが義務化された2018年に書かれたものです。
(2018年以前は、観光客も含め入場料は推奨料金とされ、実際は個人の自由な金額を支払えばよいとされた)
 
このポリシーの変更は、事実上の入場料の値上げであり、寄付者ベースの財政システムが値上げの要因の一つであることは、前年のメットの収支報告書から理解できます。

【The MET Annual Report 2016-2017】
(収入の内訳)

◆Endowment support 31%(用途が決まっている寄付)
◆Gifts, grants, funds released 34%(寄付金を含む自由用途の資金)

 
寄付金の総額が29億ドルのうち、
自由用途(運営に対する無制限の用途)に分類されているのは16億ドル。
自由に使える寄付金額の割合約55%になり、
たとえ赤字運営だったとしても
残りの45%の寄付金で補填することができません。
そして2016-17年は、$10.1 millionの赤字(10.1億円※)でした。
 
参照元Annual Report 2016-17 Report of the Chief Financial Officer.pdf (metmuseum.org)


最新、2021-22年の収支報告書を見ても、
$5.6millionの赤字(5.6億円※)となっており、
今回の入場料の$25→$30値上げは、依然として
寄付者ベースの財政システムが問題を抱えていることが伺えます。
※$1=100円で計算

 【The MET Annual Report 2021-2022】
(収入の内訳)

参照元 report-from-the-cfo-annual-report-2021-22.pdf (metmuseum.org)


記事本文では、慈善家なしでは文化施設の運営が
成り立たたない仕組みを維持する政府の対応や、
6500万ドルの寄付を何も厭わず行う慈善家がいる一方で25ドルのチケットを買うことに苦労する人々が存在するアメリカの根底にある経済構造を提起しています。
 
気になる方は、ぜひ本文を読んでみてください。
記事The Trouble That Caused The Met’s Ticket Hike) 
 

愛するメトロポリタン美術館の抱える大きな闇を
軽く覗いてしまったような気がしました。笑
 
どうぞ、よろしくお願いいたします。

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