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村上龍 『MISSING 失われているもの』

先日のRADIO SAKAMOTOで坂本龍一さんが紹介されていた村上龍さんの『MISSING 失われているもの』を読んだ。おこがましいことは重々承知だが、こういう感覚を持っている人がほかにもいるんだと安堵した、というのが率直な感想だ。

私は、内容やエンディングを知らずに映画や本に接することを怖いと感じることがある。もともと想像力が豊かすぎて作品の世界にどっぷりと入ってしまうので、どこへ連れて行かれるか分からないということに恐怖を感じる。そして、一度入ってしまうと、私はなかなか途中で理性でもって抜けるということができない。そういった自分の敏感さを知っているので、その辺りは慎重にならざるを得ない。また、目からの情報が痛烈に残る傾向にある。小さい頃、アニメの映画を見に映画館に行ったのに、目の前を無作為によぎっていったトレーラーが何年もトラウマになったことがある。本を読んでいても、私の頭の中では映画よろしく、文章が次々と立派な映像に変換されるので、その残り方は多少実際に目にしたときよりは柔らかさはあるものの、強烈であることに変わりはない。逆に言うと、明るい映画などを見ると、その日はずっと鼻歌を歌って過ごせる。単純極まりない性格なのだと思う。

この本はそういう意味ではかなりの恐怖を味わった。ご丁寧に写真まで添えられていて、私の中でその中の光が歪んだり点滅したりして、手に汗を握りながら読み進めた。断っておくが、決してホラー的に怖い訳ではない。たとえ誰かが私の脳裏に浮かんでいる映像だけを覗き見たとしても、それ自体が怖い訳ではない。ただ、自分も主人公に似た感覚をどこかで知ってしまっている気がして、とても他人事には思えなかった。読みながら、様々なことを思い出した。

一人っ子だった私にとって想像力は恰好の遊び相手だった。白い壁さえあれば時間はいくらでも過ぎていったし、それをどこかで自覚している自分もいた。壁紙の模様が女性の横顔や動物に見えて、それらは私の世界の中で浮かび上がり、勝手に踊り出したりしていた。

(サークル《Serenity Salon》メンバーは、サークル内の掲示板にて追加料金なしで有料エリアをお読みいただけます。今回音声での収録はありません。)

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