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新人賞受賞作としては驚異的な出来~『桐島、部活やめるってよ』(朝井リョウ)~

キャプテンでありながらバレー部をやめた桐島の周囲の人々の、心の揺れを描いた連作短編集です。

↑kindle版


一応「やめた」と書きましたが、本当にやめたのか、それとも休みが続いているだけかは、実は明らかにされていません(多分やめたのでしょうが)。なおタイトルロールであるはずの桐島は、実はまともには出てこないという意味で、三浦しをんの『私が語りはじめた彼は』を思わせます。


スクールカーストという表現を聞くようになって久しいですが、最近の中高生の学校生活ってシビアですね。もちろん昔からスクールカースト的なものはあり、それに誰しも多かれ少なかれ苦しめられてきたわけですが。


「上」の子。「下」の子。「上」から弾かれた子。「上」にいることに何の疑問も持たない子。「上」にいつつも、「上」の子たちの傲慢さに疑問を感じている子。中学の頃はやや「上」だったのに、高校では「下」になった子。様々な子たちが登場します。


高校なんて狭い世界なんだから、そんなところで上だ下だ言うなんてばかばかしい、というのは簡単ですが、本人たちは生き抜くのに必死だということも分かります。そもそも以下の台詞で分かるとおり、高校の外には広い世界があることに、もちろん本人たちも気づいているわけだし。

世界はこんなに広いのに、僕らはこんなに狭い場所で何に怯えているのだろう。(中略)僕らはこの高校を世界のように感じて過ごしている。


結構テンポよく読み進めてきたのに、「宮部実果」の章でちょっと読むのが嫌になりました。実果は「上」でありながら、「上」にいる子たちの傲慢さに疑問を感じ、でもそれを指摘できない子です。「上」にいる子にも、いろいろ悩みはあることを示すためのキャラクターかと思いますが、実果の抱えている悩みがちょっと現実離れしていて、いかにも小説的なのです。実果のような事情を抱えている子が絶対にいないとは言い切れませんが、それまで等身大の高校生たちが描かれていただけに、ちょっと浮いている気がしました。


でもそんなのは些細な傷で、19歳の作者が新人賞を撮った作品としては、驚異的によく描けていると思います。女の子の心理も、男の子が想像する女の子としてではなく、リアルに描けているのがすごい。同じ作者の『チア男子!!』も、良かった記憶があります。


機会があれば、また朝井リョウ作品を読んでみようと思います。


↑文庫版


なおこの記事が、noteでの投稿100記事目です。一部ブログの記事の再録も含みますが、100記事目までくれば、まぁフェイドアウトはしなさそうです。次の目標は200記事かな。


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