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ある程度世界史の知識がある人には、お勧め~『世界史で学べ!地政学』(茂木誠)~

最近、地政学(ジオポリティクス)が注目を集めているそうですね。地政学は、この本では以下のように説明されています。

国家間の対立を、地理的条件から説明するものです。国境を接していれば、領土紛争や移民問題が必ず発生する。だから隣国同士は潜在的な敵だ、という考え方です。

個人的には「必ず」とか「潜在的な敵だ」と言い切っているところに、引っ掛かりを感じます。隣国同士に紛争や問題が、ややもすれば発生するのは事実ではあると思いますが、これでは対立は必然と言うか、むしろ対立しなければいけないようです。


↑kindle版


また、本文にちょいちょい誤りがあるのが、気になりました。単なる勘違いなのかもしれませんが、意図的にちょっとずれたことを書き、アメリカや中国を貶める意図があるのかもしれません。「エピローグ」に「アメリカ頼むに足らず、中国寄るべからず」と書かれていますし。


具体的にどこが変かを1つ1つ書くことは、重箱の隅をつつくようなので避けます。でも例えば「ジョージ・ブッシュJr.」はおかしいです。Jr.(ジュニア)と言ってよいのは、父子(あるいは祖父と孫など)の名前がまったく同じ時であり、第41代大統領の父はジョージ=ハーバート=ウォーカー・ブッシュ、第43代大統領の子はジョージ=ウォーカー・ブッシュなので、正確にはミドルネームが違うし、ブッシュ(子)はジュニアと呼ばれることを非常に嫌がるという事実があります。


またこれは単なる校正ミスだと思いますが、302ページの9行目の「文字が生まれ、金属加工がはじまり、文字が生まれた段階を文明といいます」は、「文字」のどちらかを「都市」にしないと変ですよね。


あと、単行本から文庫化するにあたり、充分に加筆修正をしなかったのか、2019年4月刊行の割に、少し情報が古い点も気になりました。


ただ、2014年にクリミアのロシア系住民がウクライナからの独立を宣言し、ロシアがクリミアを併合したことを非難するなら、「テキサスをメキシコに変換しない理由を説明すべき」という指摘は、もっともだと思いました。テキサスはもともとメキシコ領だったのに、アメリカからの移民が合衆国への併合を望んだため併合されたという経緯があり、クリミアとほぼ同じ構図なので。


また、韓国国内の地域対立の話も興味深かったです。古代の新羅王国にあたる東部と、百済王国にあたる南西部の対立です。


加えて、一見別々の独立した出来事に見えるものが、地政学的にはつながっているということに気づかされたことは、大きな成果でした。

例えば19世紀後半、ロシアが現在のトルクメニスタンやウズベキスタンにあたる中央アジアに進出したことと、インド帝国樹立の関係です。ロシアの更なる南下を恐れたイギリスはインド帝国の樹立を宣言し、更に第二次アフガン戦争で親英政権をたてることになったというのは、目から鱗でした。


また同様に、第二次大戦後、ソ連のアフガニスタン経由でのインド洋進出を防ぐために、アメリカがパキスタンに接近した、というのも、なるほどと思いました。だからこそパキスタンは、反共軍事同盟の中東条約機構(METO)や東南アジア条約機構(SEATO)に加わっていたのか、と。


最終的な結論としては、世界史、特に近代史の知識を一定程度持っている人にはお勧めです。ちょっとおかしい記述があっても、それ気づくことが出来た上で、今までにない視点を与えられると思うので。でもあまり近代史に詳しくない人は、ちょっと距離を置き、冷静な視点で読んだ方が良いかと思います。この本の記述をすべて信じてしまうと、いささか問題があるので。


↑文庫版



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