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【読書】茂兵衛はもう一人の秀吉~『弓組寄騎仁義 三河雑兵心得(四)』(井原忠政)~

「三河雑兵心得」シリーズも4巻目となり、茂兵衛は騎乗の身分となりました。そして10年ぶりに故郷に 帰ることになる上、結婚もします。

↑kindle版


1巻の時からうすうす思っていたのですが、茂兵衛はもう一人の秀吉のようなものですね。足軽身分から出世し、本来の身分なら望めないような相手と結婚し……。まぁ茂兵衛は、天下は取らないでしょうけど。


それにしても、大河で「どうする家康」をやっているタイミングで、このシリーズに出会えて良かったです。大河の方がちょっと先行しているので、読んでいて、よく分かります。今巻では長篠・設楽原の戦いが描かれますが、大河で観ていたからこそ、読んでいてシーンが目に浮かぶようでした。鳥居強右衛門も登場しますが、大河とはまた違った最期を遂げることになります。
強右衛門最期のシリアスなシーン直前に、なぜか笑えるシーンが入ります。

「御無礼ずら」
「申しわけないでごいす」
なぞと、怪しげな甲州弁を使いながら、とうとう豊川を見下ろす崖の上にまで出た。

p.206


しかし茂兵衛、人を育てるのがうまいですね。そして自分の鍛錬も欠かしません。剣や馬が苦手だという自覚を持てば、そのための鍛錬をする茂兵衛は、案外真面目です。まぁ自分が生き残るためでもあるのでしょうけど。


(うちの殿様は、確かに情けねェお人よ。武田を恐れ、信長にビクつき、挙句は家来や領民の顔色まで窺っていなさる。英雄とは程遠いお方だら。でもよ、俺ァ十年仕えたが、ただの一度も「村を焼け」って命じられた覚えはねェ)
(中略)
これまで茂兵衛は、己が主人の不快なところばかりを見つける自分が嫌だった。
(もう少しええところも探して、家康公のことを好きにならにゃ、家来なんぞやっとれんがね)
そんな風に考えたものだが、今ようやく家康の美点を見出した。
「うちの殿様ァ、あんまり非道なことはなさらねェ。そこがええわ、ハハハ」

p.137

この物語では家康の結構したたかなところ、こずるいところが、たびたび描かれます。でもここでようやく茂兵衛は、家康の良いところに気付いたわけで、きっとこの後茂兵衛は、心から家康に仕えることができるのでしょう。現代でも、自分の上司や勤めているところの嫌な点ばかり目についたら不幸なわけで、少しでも良い点を見出せば、仕事をするのが少しは楽になりますよね。


人が人として生きれば、失態や恥、悪名は付き物だ。それをシラッと受け流せるか、イジイジと考え込んでしまうのかで、その後の人生は大きく違ってくる。
(中略)
(気にしなきゃええんだら。陰口ごときに、人を殺す力はねェ)

p.248

私自身、「イジイジと考え込んでしまう」質なので、「シラッと受け流せる」ようになりたいです。ただ茂兵衛の言葉とは違い、現在は陰口が人を殺す力を持ってしまっていますが。


今巻の最後の方で、「俺には運がないとは二度と思うまい」と茂兵衛が思うことになる経緯は、ちょっと感動的です。運がないと嘆くより、自分が実は恵まれていることに気付いた方が、良いに決まっていますよね。


なおこの巻、「北近江合戦心得」シリーズの『長篠忠義』とつながっています。


見出し画像は、浜松城公園前交番です。こんなお城風の交番は、初めて見ました。


↑文庫版



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