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面白いだけではなく、深い~『見仏記』(いとうせいこう、みうらじゅん)~

久しぶりに「これは面白い!」という本に出会いました。

↑文庫版


『見仏記』は、いとうせいこうとみうらじゅんが二人であちこちのお寺の仏像を見ては、好き勝手な感想を述べるものなのですが、いとうせいこうの文章とみうらじゅんの絵が絶妙なハーモニーを醸し出しており、何とも魅力があります。いとうせいこうの文章だけでもみうらじゅんの絵だけでもダメで、二人の才能が合わさってこその面白さだと思います。


あくまでも見仏(けんぶつ)なので原則的に手は合わせず、それどころか寝っ転がって仏像を眺めちゃう二人の姿勢は、少なからぬ人の眉を顰めさせるとは思います。

でもそんな二人の方が、形だけで仏像を礼拝している人より、もしかしたら仏の世界に近いのかもしれません。仏は来日アーティスト、「信者なんて、結局ファン」、御朱印は「仏像たちのサイン」と喝破するみうらじゅんの姿勢には、不快感どころか爽快感を感じてしまいました。


見たことがある仏像も登場するので、斬新な視点に、「こういう見方もあったのか」と目を開かされることも、しばしば。


そして、いとうせいこうの考察が妙に鋭いのです。東北の成島毘沙門堂の兜跋毘沙門天を支える地天女の姿に、朝廷に抑圧される蝦夷の姿を重ねたのには、はっとさせられました。そしてうならされたのは、廃仏毀釈についての以下の考察。

結局のところ、この国(注:日本)はなんでも受け入れるように見えて、何ひとつ受け入れていない。吸収したふりをして、それを独自のものとしてみせるが、いつでもまた外に放り出す用意をしているのだ。なんという空虚、なという馬鹿らしさ、なんという弱さだろう。つまり、真に他者を受け入れて変化し、それを自己そのものと考える思考がないのである。



ゆるーく、へらへら笑いながら読んでいつつも、ふと考えさせられる良作です。続きを読むのが楽しみです。


見出し画像は、浜松の舘山寺聖観音菩薩像です。


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