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するする読める~『烏百花 白百合の章』(阿部智里)

阿部智里の「八咫烏シリーズ」の外伝の2冊目です。

↑kindle版


一言で感想をまとめるなら、するする読める作品です。前の『烏百花 蛍の章』でも、同じことを思いましたが。もちろんするする読めること自体は良いことなのですが、するする読んだ挙句、あまり心に残る部分がないとも言えます。


本編に盛り込めない、まさに外伝にあたる話の短編集です。確かにこれらの作品があることで、本編の裏側の事情が分かり、本編の理解が深まる部分もあります。反面、本編から零れ落ちるエピソードだからこそ、書かれなくても良いかなという話もありました。あえて、どれが本編の理解を深める作品で、どれが書かれなくても良かったかもと思うかは、書きませんが。


印象に残ったのは、まずは「あきのあやぎぬ」の中のエピソード。西家の御曹司の妻たちの着道楽は、ただの贅沢ではない、ということが語られます。というのは、「職人達に、縫い心地や、着心地などの感想を送る」、「よりよいものを提供するため、新作の反物は西家全体で試すことに決まっている」、「大量の装束を作り、その縫い心地や使いやすさを職人達へ伝えることで、西家の着道楽は歓迎されている」からです。

現代世界のセレブの皆さまの贅沢も、経済を回すだけではなく、そういう意味もあるのかなと思いました。


「おにびさく」の、「すぐに出来るようになった技はぞんざいにされる。長い時間をかけて出来るようになった技は、大切にされる」という言葉も印象的でした。勉強でも、例えば英語の文法とかで分からない部分があり、苦労して理解すると、完全に身に着いて忘れないので。


話全体として印象的だったのは、「なつのゆうばえ」。本編だと正直何を考えているのかよく分からず、そもそも登場シーンもあまりなくて不気味なキャラだった、以前の大紫の御前の若かりし頃が語られます。この話を読み、彼女の人間らしい面が伺えました。


見出し画像には、最終章の「きんかんをにる」にちなみ、金柑の写真を使わせていただきました。


↑単行本



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