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天明泥流のすさまじさ~『遺跡発掘師は笑わない 榛名山の荒ぶる神』(桑原水菜)~

「遺跡発掘師は笑わない」シリーズの第15弾です。今回の舞台は、群馬県です。

↑kindle版

相変わらず、登場人物が多すぎ+話がごちゃつく傾向はあるものの、まぁ読みやすい方だと思います。


今巻は前巻の和歌山編をきっかけに「鬼の手」の力を失い、かつ海外の発掘派遣事務所からヘッドハンティングされた無量と、自分の歩むべき道に迷いが出てきた萌絵が、それぞれ真剣に自分の将来を考え始めます。まぁ萌絵については、どうも今巻のうちに、ある意味結論は出たっぽいですが。


今巻とても印象的だったのは、天明3年に起きた浅間山の天明泥流。

きっかけは浅間山の北側にある鎌原村で起きた土石なだれだった。
(中略)土石なだれは直撃した鎌原村を埋め尽くして、吾妻川へとなだれこんで泥流となった。
(中略)泥流は流れ下る中で、流出物が溜まって天然ダムを生み、それが決壊し……、を繰り返し、吾妻川から利根川へと流入して、川沿いの村に大きな洪水被害をもたらした。
ついには利根川河口まで達し、調子付近では河口が真っ黒になったという。
江戸では、江戸川に多数の人馬の遺体が流れてきたと記録にある。

p.138

浅間山の噴火の影響が、こういう形で江戸、ましてや銚子にまで及んだとは、想像を超えていました。


他に印象に残った所。


このあたりは三国街道沿いで昔は渋川宿という宿場だったんです。養蚕をしとって裕福な家も多かったから、向学心のある若者が多かったんだいね。人の往来が多かったから、よそに遊学にくるモンとの交流も盛んで、渋川郷学ちゅう学問ができたんだよ。(中略)尊皇開国を説いたんさ

p.103

尊皇開国は、初めて聞きました。


あと、小栗上野介が造船所だけではなく、日本初の製鉄所を作ろうとしていたことも知りませんでした。


上野公園についての描写には、歴史に対する水菜さんのメッセージを感じました。

いまはのどかな公園だが、その昔、ここは戦場だった。
(中略)
憩いの場と化した今の穏やかな光景からは想像もつかない。
尤も「過去」とはそういうものだ。今はもう跡形も気配もなくなった昔の出来事に、どれだけ想像力を働かせられるか。それぞれ違うバックグラウンドを持つ人々が、想像するためのよすがとなすために「歴史」はあるといっても過言ではない。

p.240


次巻で、この事件がどういう結末を迎えるのか、そして無量の決断はどうなるのかが楽しみです。


見出し画像は、柴又の帝釈天の山門です。本文中、思いがけない形で出てくるので。


↑文庫版



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