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結末はいただけないけれど、筆力はすごい~『火の路 下』(松本清張)~

*この記事は、2020年6月のブログの記事を再構成したものです。


『火の路』、読了しました。


下巻に入り、ヒロインのイラン旅行の道中が描かれ、俄然面白くなりました。上巻の感想では、「細部は書きながら展開を決めていったと思われます」と書きましたが、全く見当違いだったことが判明。どうでもいいと思われたエピソードが、実は伏線だったのです。……あ、でも結局ヒロインの過去の恋愛のエピソードは、事件とは何の関係もありませんでしたが(^-^;


しかし、肝心の結末部分はいただけず。事件の謎解きは、すべて推測だけからなるのです。関係者のすべてが死んでしまったわけではないのだから、本当は真相のすべてではなくても、一部は明かされなければおかしいのに。畠中恵が時々この手法を取ることがあるのですが、松本清張もやっていたとは。


あと、イラン旅行が途中までしか描かれていないのも、ちょっと不満。まぁ論文の内容からして、旅の後半ではあまり成果がなかったということなのかもしれないけど。


とはいえ、ヒロインが書いた論文を紹介するのに、ヒロイン自身に列車の車内で自分が書いた論文を読ませる(もちろん黙読だけど)というのは、なかなか斬新な方法で、印象に残りました。この論文がまた、推測に次ぐ推測で、別の登場人物にそのことを批判させているのはご愛敬。


しかし上巻が483ページ、下巻が解説等も含めて507ページという大作なのに、割と長さを感じずにするする読めたのは、筆力ですよね。その点には脱帽です。


見出し画像には、イスファハーンの写真を使わせていただきました。ヒロインがこのモスクを見たかは、定かではありませんが。




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