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考える手間を惜しんではいけない~『創竜伝8<仙境のドラゴン>』(田中芳樹)~

7巻に引き続き、8巻に突入しました。

↑kindle版


今巻は竜堂兄弟のいる仙界と茉理たちのいる香港、2ヶ所で同時に話が進みます。


↑新書版。私はこちらで読みました。


印象的だった言葉。

吾々にとって理想的な人民とは(中略)想像力というものを持たぬ連中だ。国家の公式発表を全面的に信じて疑わぬ奴らだ。(中略)愛や正義を口にしながら、絶対者の指導のままに、本を焼き、他の宗教を弾圧し、少数派を迫害する者どもだ。(中略)よらしむべし、知らしむべからず、というやつだ。蒙昧の海にただよう愚民どもには、適当なスキャンダルとゴシップを与えておけばよい。

これは作中の世界を陰から支配している四人姉妹(フォー・シスターズ)の幹部の一人である老ダニエルの言葉ですが、このような「理想的な人民」にはなっていはいけないと、心底思います。でも増えているんだろうな。


機械技術文明には最初から罠がしかけられていたのではないか、と始はこのごろ思うのだ。努力、創意工夫、向上心、知識欲、勤勉さ。それら美点のすべてが、いま人類自身の生存をおびやかしつつあるようだ。それと気づいても、やめることができない。自動車も電気もない生活にもどることはできないのだ。

30年前にすでに問題に気付いていながら、解決法を見いだせないまま30年経ってしまいました。もしこのまままた30年経ってしまったら……というか、そうだったら、30年後には人類はいないとまでは言いませんが、今以上に危機的状況にあるでしょうね。


歴史とは人間が認識することによってはじめて存在するのかもしれない。(中略)歴史は人間だけのものであり、歴史を知るのは人間だけの特権だ。だが歴史を知ることと、歴史を学んで生かすことは、どうやらべつのことであるらしい。歴史に何ひとつ学ばない人が、この世にはあまりに多い。

歴史の教員の端くれとして、本当に同感です。


食糧も石油も自給できるわけじゃないし、保護貿易をやられても日本はこまるわけでしょ。他国と仲よくしなきゃ生きていけないくせに、友だちをへらすようなことばかりいうのはどういうわけかしらね。(中略)日本人て、秀才自慢の割には外交と戦略のセンスがなさすぎるんじゃないかしら。

これは女仙の一人で茉理の姉にあたる瑶姫の言葉。これまた30年経っても進歩がないので、残念ながら今でも当てはまってしまいます。


「タイムマシンで過去の時代に行ってみればすべてわかる。記録も文献も必要ないし、解読も分析も研究もいらない。行ってこの目で見ればいいのだ」そうなったとき、人類の文化はどうなるのか。

この言葉が気になったのは、「タイムマシン」を「インターネット」に置き換えることができるのではと思ったからです。インターネットは本当に便利ですが、自分で記憶しなくてもググれば良い、自分で研究しなくても人の研究成果を見れば良い、という傾向が強くなっているのは気がかりです。


牛のような姿をしていたが、頭部が白く、目がひとつしかなく、尾はそのまま生きた蛇であった、(中略)これは「蜚(ひ)」と呼ばれる怪獣で、通るところ草が枯れ、川は涸れ、疫病がもたらされるといわれていた。

うーん、現在の世界は中国の神話上の生き物である蜚が現れてしまったのでしょうか。


無益な戦争や内乱を終わらせ、平和を回復する。これこそ政治家の仕事でしょう。(中略)もしそれをする気がなく、どこからともなくあらわれる超人的な救世主にすべてやってもらおうというのなら、政治家も国家も存在する意味はありませんよ。

痛烈な続の言葉ですが、真実です。


人類は人類で、人類だけでなく他の生物の存在をもおびやかす多くの現象を、ひとつひとつ解決していかねばならないだろう。何とも遠い道のりだが、バラ色の未来をてっとりばやく救世主に与えてもらう、という姿勢がどれほど多くの害毒を歴史に流したことか。それを思えば、結局、凡人たちが知恵を出しあって地を踏みかためていくしかないのである。

これまた真実です。考え、知恵を出しあう手間を惜しんではいけません。


それにしても、7巻と8巻の間にソ連が消滅したことは、田中芳樹にとってよほど強烈な印象を残したようで、本文中にも「まだまだつづく座談会」にも、ソ連の話が出てきます。それこそソ連解体から今年で30年ですが、ソ連時代の悪い部分が復活しつつあるようで、気がかりです。


ちなみに内容以前に気になったのは、帯。

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なんとも強烈です。帯の裏面は、こう。

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VHSビデオだのCDラジカセだの、時代性を感じます。R賞のカード型リモコンって、何のリモコンかと思ったら、「テレビ」「ビデオ」という字が見えるので、テレビ用でした。


見出し画像は、香港ディズニーランドで撮った地面書道(地書)です。ダンボ……なんでしょうね(^-^; ちょっとゆるいですが。

ちなみに地面書道というのは、地面に水で書や絵を書くというものです。


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