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読んだ本

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読んだ本の感想です。基本、ネタバレはありません。
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2021年10月の記事一覧

テンポよく読める~『結 妹背山婦女庭訓 波模様』(大島真寿美)~

『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』の続編にあたる本書ですが、これ単独でも読めるかと思います。 ↑kindle版 操浄瑠璃の「妹背山婦女庭訓」によって、いろいろな意味で人生を変えられた人たちが各章の主人公になっているのですが、隠れ主人公とでも言うべきなのが、「妹背山婦女庭訓」を生み出した近松半二の娘のおきみです。 おきみは、圧倒的な浄瑠璃の知識と、そして浄瑠璃作者としての才能も持っているにもかかわらず、女性であるがゆえに浄瑠璃作者にはなれません。時代が時代だから仕方がないとは

激辛レビューでごめんなさい~『かたづの!』(中島京子)~

*この記事は、2019年5月のブログの記事を再構成したものです。 ↑kindle版 中島京子といえば、『小さいおうち』が代表作の1つかと思います。『小さいおうち』は実は原作を読んでおらず、映画を観ただけなので、本来は語ってはいけないのかもしれません。でもあまりに結末がひどく、後味が悪すぎたので、この人の本は読まないようにしようと思っていました。 ちなみに映画の「小さいおうち」をなぜ観たかというと、機内で友人が観て、「結末について語りたいから観て」と言われたからです。映画

今は「染血の夢」計画の最中なのか~『創竜伝6<染血の夢>』~

気づかないうちに14巻・15巻が出て完結していたことに衝撃を受け、読み直しはじめた「創竜伝」シリーズですが、他に読みたい本・読まねばならない本がいろいろあるため、なかなか進みません(^-^ ↑kindle版 ↑新書版(私はこのバージョンで読んでいます) ただ、14巻・15巻の存在を知る前から、このシリーズは読み直したいと思っていました。新型コロナウィルス感染症の流行が始まった時、「創竜伝」シリーズの中で描かれる「染血の夢(ブラッディ・ドリーム)」のことを思い出したからで

題名の意味~『月魚』(三浦しをん)~

*この記事は、2019年7月のブログの記事を再構成したものです。 三浦しをんは男性が主人公の時と女性が主人公の時で、まったく文体が違います。女性が主人公の時は、いかにも女性が書いた文章だし、男性が主人公の時は、男性作家が書いたのかと思うくらい、乾いた文体になります。力がある作家だということなのでしょう。 ↑kindle版 『月魚』は、中編1本と短編2本からなる連作です。瀬名垣とその友人真志喜は、子ども時代に瀬名垣が真志喜の父親に対して犯した「罪」で結びついており、中編の

今巻も、いろいろ勉強になりました~『組織としての生命――生命の教養学15』(慶應義塾大学教養研究センター)~

慶應義塾大学での授業を書籍化した「生命の教養学」シリーズの15冊目です。 このシリーズは、文系理系両方の分野から、その年の共通テーマ(今巻の場合は、「組織としての生命」)について考察していくもので、各巻それぞれ興味深いです。 以下、印象に残った箇所を備忘録的にまとめます。 数学は、1人で一生懸命勉強するというイメージがあるかもしれません。しかしながら、実際に数学の研究を行う場合、さまざまな人との議論を通して共同で研究を進めることが多く、どのようにさまざまな人とうまくチー

対話の大切さ~『ヤマザキマリ対談集 ディアロゴス』(ヤマザキマリ他)~

運動やオリンピックを共通テーマにした、ヤマザキマリの対談集です。 第1回の対談相手である解剖学者の養老孟司との対談から、引き込まれました。印象に残る言葉が盛りだくさんです。 みんな、ジムに行ったりジョギングしたりするけど、そうやって無理に体を動かすのは不自然なことなんです。スポーツでつく筋肉は特定の筋肉が肥大したものだから、解剖の教科書には使えない。 孔子自身が「なぜ詩を読まなければいけないのか」という理由を説明しているんだけど、詩を読むことで、そこら辺に生えている草や

偉大なるマンネリ~『聖☆おにいさん(18)』(中村光)~

*この記事は、2020年6月のブログの記事を再構成したものです。 前巻ですでに「サザエさん化した」という感想を持ってしまった「聖☆おにいさん」シリーズですが、今回もマンネリです。 ↑kindle版 「あー、さすがにもう買うのはやめようかなぁ」と思いつつ読み進めたら……。 諸行無常 盛者必衰/どんなものにも終わりは来る/そう たとえそれが どんなに人気の連載であろうと… これを読んだ時、『聖☆おにいさん』のことかと思いましたよ。 作品内で連載終了を告げるパターンか

サザエさん化する、聖人たち~『聖☆おにいさん(17)』(中村光)~

*この記事は、2019年8月のブログの記事を再構成したものです。 もはや惰性で買っているところもありますが、『聖☆おにいさん』の17巻のレビューです。マンネリもここまでくると、「サザエさん」や「ドラえもん」に近づいてきた気もします。 ↑kindle版 でも今回は、新しい試みもありました。「最後まで帰れない二人」ではブッダとイエスは出てこず、ヨハネとアナンダの話なのです。こういうパターンの話を挟むようにすれば、また趣が変わりますね。「尼にすら邪な心をおこさせる忌まわしき頭

良きサマリア人ならぬ、良きマンネリ~『聖☆おにいさん(16)』(中村光)~

*この記事は、2018年12月のブログの記事を再構成したものです。 このシリーズ、私は10巻以降はKindle版で読んでおります。紙のコミックスで買っているんだったら、内容はマンネリだし、かさばるし、今頃まだ買い続けていたかは不明です。 でも電子版って、怖いですね~。わざわざ書店に行かないで良いし、わずかながらコミック版より安いし、つい買ってしまいます。 ↑kindle版 マンネリと書きましたが、数冊前までは明らかに悪しきマンネリでしたが、前の巻あたりからは良きマンネ

万里の長城を手掛かりにした中国史入門~『万里の長城』(加古里子・文、加古里子/常嘉煌・絵)

構想30年、制作期間5年の、万里の長城を手掛かりにした中国史入門と言うべき、大作です。 この絵本のことは、「ビッグイシュー日本版」の2021年8月1日号で触れられていました。出版に至るまでの加古さんの苦労も載っており、興味を持ったので読んでみました。 一応分類としては絵本ですが、文章の量も多く、内容もかみ砕いているようで結構難しいので、ちょっと小学生以下では歯ごたえがありすぎかもしれません。もちろん、中国に興味がある小学生なら、食いついていけると思いますけど。 「万里の

破れた葉っぱを包める国になるために~勝手に応援!「ビッグイシュー日本版」(VOL.416 2021.10.1)~

「ビッグイシュー日本版」を勝手に応援する記事第19弾です。そもそも「ビッグイシュー日本版とは何か」をご説明した第1弾は、以下をご覧ください。 今号の特集は、「貧困緊急事態――コロナ禍の1年半に」です。 特集の内容は、登場する一人一人のケースがあまりに深刻で、逆に引用がはばかられます。ぜひ機会があれば、原文を読んでいただきたいです。「老若男女が食事を求めて列を作る光景は、社会の底が抜けてしまっていることをうかがわせます」という稲葉剛さんの言葉や、「もはや先進国でないどころか

礼節をもって受け入れる~『不寛容論 アメリカが生んだ「共存」の哲学』(森本あんり)~

何だか強烈な題名の本ですが、「あとがき」にあるとおり、「本書は『不寛容の勧め』ではない。寛容に必ず内包されている不寛容を主題化することで、真の寛容の所在を明示するという試み」です。 ↑kindle版 著者がなぜ「寛容」を取り上げるかというと、同じく「あとがき」にあるように、 からです。 まず前提としなければならないのは、 ということです。確かに言われてみれば、そのとおりですね。 で、寛容とは何かを解き明かすために著者が取り上げているのが、17世紀の植民地時代のアメ

建国時から変わらないアメリカ~『対米従属の起源「1959年米機密文書」を読む』(谷川建司・須藤遙子編訳)~

*この記事は、2019年6月のブログの記事を再構成したものです。 この本は、1960年の日米新安保条約調印前後に書かれた2つの文書を手掛かりに、アメリカによる日本への文化工作を暴き出しています。米国立公文書館所蔵の機密解除文書「マーク・メイ報告書」の全訳と須藤氏による解説、そして「精査報告」の部分訳と谷川氏による解説からなっています。 読んでまず感じたのは、アメリカという国は建国当時から変わらないんだなぁということ。先住民を追いやりつつ西部開拓を進める時には、「マニフェス