いつか来るって思っていた別れ【掌編】
いくか来るって思ってた。
でもいざくると、心に重くのしかかるそんな別れ。
―――
僕は学生寮で共同生活いとなんでいる、どこにでもいる大学生だ。
もちろん、寮で寝泊まりをし、
寮でご飯を食べ、そして排泄をする。
しごく自然な流れである。
そして、また寮で共同で洗濯し、
さらには共同で洗濯物を干して、取り込み、畳んでいく。
これもまた、自然な理である。
だから、いつかくるとは思っていた。
あの別れが。
・・・そう、靴下の片方が消えてなくなるその日が!
「あ、靴下がなくなった」
僕は目の前にポツンと片方だけ取り残された靴下を見つめた。
「よくある、よくある」
背後を同室の山田が通りすぎながら、気軽にな口調でいった。
「俺もここにきて3回は買いなおしてるよ。だから、最近は片方無くなっても良いように、同じメーカーの同じ色で揃えることにした」
「そりゃ賢い」
僕は片方だけ残されてた靴下を拾い上げて、山田に投げつけた。
山田は「なんだよ」と笑って、僕のベッドの上にそいつを放り投げた。
ベッドの上にポツリと寂しそうに佇む、黒い靴下の片割れ。
「いつかくると思っていたよ・・・こんな別れが」
そんな声が聞こえてきそうであった。
パートナーを失い、そして自身の存在理由さえも失いつつあるこの靴下から漂う哀愁は言葉にできない。
僕は心いたたまれなくなり、胸が詰まるような思いがした。
僕はこっそりと目をこすった。目の端から、キラリと光る涙が溢れた
「おいおい、泣いてんのか?」
山田が驚いたような声を挙げた。
「・・・いや、ハウスダストだよ」
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