【町内会 顛末記】町内会を殲滅し廃墟の中から真実の自治組織の出現を待とう 8
思えば自治会長を引き受けた2年間は大変だったけれど、町内会を良くしよう、変えていこうという意欲に満ちていたし、じっさいにいろんなことを変えていくのは鵺のようなお役所窓口でのつばぜり合いも含めてたのしい作業でもあった。
加えてよかったのは町内の人たちとあらためて知り合いになれたことだ。おなじ班内でも道で会って挨拶をする程度だった人とももっと話をするようになり、町内のそれまで見えなかったさまざまな顔が見えてきた。犬の散歩や会社帰りでもわざわざ町内のメインルートを抜けて何か変わったことがないかを気にするようになった。避難準備が出るような大雨などのときには設定された避難所がどんな様子かを見に行ったり、町内のお年寄りの安否を確認したりもした。
つまり、いろんなものが目に入ってくるようになり、いろんな人たちの顔が見えてくるようになり、じぶんの意識が自然とそれらに向くように変わってきた。それこそが町内会の役員をやって得た最大の遺産であり、だからこそわたしはそれをじぶんだけではなくて、なるべくたくさんの人たちに体験して欲しかったわけで、現役世代のじぶんたちが頑張ったら他の人たちもきっと後に続いてくれるだろう、その後に続いてくれる人たちがやりやすいようにじぶんたちはいわば道路普請をしているのだと思っていたのだけれど、 残念ながら裏切られてしまった。
そしてもろもろの長年蓄積した古池の底の澱のようなものがごぼごぼと間欠泉のように噴き出してきた。わたしもつれあいも、 それによってだいぶ疲弊した。だから残念ではあるけれども、今年3月からのわたしたちの気持ちとしては「もう、うんざり。はやく終わりにしたい」というのが正直なところである。なのですべてが終わってみれば、安堵の気持ちがまずあって、そのあとにちょっぴりの残念な気持ち、といったところだろうか。
古池の底の澱は行政の下請け的なもの、あるいは寺社の氏子・檀家的なものがその多くに由来しているとわたしは思う。それは自発的なものではなく、上から降りてくるものたちだ。そして概して、その多くはどうも町内に暮らす人々のためではないように思う。その「上から降りてくる」ものの負担があまりにも多く多岐にわたるので、それがとくに役員交代時期などに噴出して人々の間に不和を発生させる。行政や寺社はそのことにもう少し目を向けるべきだと思う。
かつ ては町内も賑わい、子どもや若い世代もたくさんいて、古池の底の澱をみなで協力して浚う余裕もあったかも知れない。けれど空き家も多く、町内のほとんどが後期高齢者世代に近づきつつある状況ではそんな余裕もない。
わたしたちの町に限らない。全国の町内会はいまや危機に瀕していると思う。いまも全国のどこかで町内会をめぐって人々がののしりあい、責任をなすりつけ合い、不和になっていく。それなのに行政の担当課長は毎年の自治連合協議会懇親会で高級料理に舌鼓をうちお土産までぶら下げて赤ら顔で帰宅する。もっとじぶんの足で町内会をまわり、市民のじっさいの声を聞いて回れ。
一方で町内会の一人ひとりもだらしない。いまは健康で粗大ゴミも車に乗っけて清掃センターへ持参できる人も、やがては家の前にゴミを置くことすらも重労働になる。困ったときにはだれかの手助けも必要になる。そういうことを「上から」の指示や押しつけでなく、じぶんがいま暮らしている地域の問題として過去も将来もふくめてじぶん自身の掌に置いて考えるべきじゃないのか。
そんなあえかな希望もちょっぴりと託しながらも、わたしが受けた天上からのみことばは「町内会を殲滅し廃墟の中から真実の自治組織の出現を待とう」であった。最低限のかたちだけ残して、その他はいったん壊す。「上から降りてくる」ものでなく、じぶんたち町内に暮らす者にとって何が必要で何が必要でないか、廃墟のなかから一人ひとりが考えるべきだ。
これにて、長きにわたる「町内会顛末記」の記述を終了する。拙き文章を全国の危機に瀕している町内会関係者のささやかな参考にして頂ければ幸いである。
さて、これが映画だったら最後に登場人物たちのその後のエピソードが出 てきたりもするが、ちょいとそれを真似るとしたら、わが家の玄関先でわたしに怒鳴りつけられたW氏息子はその後いちども会っていない。同じように「役員選出など放っておけ」と言って言い合いになった隣家のOさんは外で会えば儀礼的な挨拶は交わすがいつもよく持ってきてくれた畑の野菜はその後ぴたりと止まった。「こんなんじゃ、町内の年寄りは守れない」と言って新しいコミュニティにも参加しなかった三軒長屋のOさんとは相変わらず仲良くしている。先日も日雇い仕事を紹介してくれた旧副会長のSさんの車の助手席に家の鍵を落としてきてしまった、Sさんは外出中で連絡も取れず、暑い中もう二時間も家に入れずに困っているとわが家にやってきて、玄関前でそんな話をしていたら介護施設で働いているOさんが施設の軽自動車でやってきて鍵を渡してくれた。「こういうときのためにね、Oさん。合鍵をどっかに隠して置いておくんですよ。むかしからある方法じゃないですか」とわたしは嬉しそうに帰っていくOさんの背中に叫んだ。
町内会は解散しても、町内はそんなふうに相変わらずだよ。
・・と、ここまで書いたのが、2020年の夏のこと。あれから2年と半年が経ち、廃墟は現在どうなっているのか。最後にもう一回分だけお付き合いを。
次回、ほんとうの最終回。
以下の内容で、連載中です。
第一部 【町内会 顛末記】自治会長というのをやってみた
第二部 【町内会 顛末記】町内会を殲滅し廃墟の中から真実の自治組織の出現を待とう
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