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障がい者就労継続支援事業所と一緒に考える未来の厨房 ~給食事業✖就労支援事業で、介護施設の経営改善、そして労働市場の構造改革に挑戦~第一章

こんにちは。中の人の野津昭子です。
今回は、「モルツウェルとゆかいな仲間たち#3」で登場した、障がい者就労継続支援事業所・株式会社そらまめらんどとモルツウェルの挑戦について、株式会社そらまめらんど代表取締役の福井桂氏にインタビューさせてい頂きました。福井さんとは約6年のお付き合いになりますが、最初は障がい者雇用について学びたいと、そらまめらんどさんが開催されている「がちあげ勉強会」なるものに、私が個人的に参加をさせていただいたのが始まりです。そこから福井さんと事業や仕事観について話をする中で、意気投合。今ではとても大切なモルツウェルのパートナー企業です。




1)御社の事業内容を教えてください。

  弊社の主な事業は、就労継続支援A型といって、疾患や障害などの理由により、一般企業で就労が困難な方たちが、支援を受けながら働くことができる福祉サービスの運営です。就労困難者を雇用し、仕事を提供するという基本を軸に、その方たちがなぜ一般企業で働くことができないのか(課題の抽出)、どうするとステップアップできるか(課題分析)、そのためにどんな支援が必要か(アプローチ)を、サービス管理責任者を中心に、職業指導員という職員が提供します。


2)モルツウェルとの出会い、協業のきっかけ、世の中の背景を教えてください。


「がっちゃんこ」が全ての始まりでした。(笑)
順を追ってお話しますね。
モルツウェルさんとは、「島根県中小企業家同友会」という経営団体で出逢いました。私は、弊社の福祉サービスを利用し働く力を習得した人たちが、ステップアップ「一般就労を目指す」となったときに、地域の民間企業との繋がりが欲しくてその団体に入会しました。結果、私自身がそこで経営者としての勉強をたくさんさせてもらえるようになったわけですが(笑)人のステップアップじゃなくて、おまえだったな!と自分で突っ込みを何度も入れました。
 
その後、私が定期的に開催する 「がちあげ勉強会」 に野津専務が参加してくださるようなって、自社の課題を共有する機会が増えました。がちあげ勉強会、通称「がちべん」とは、私が就労困難者(障がい者)を育成する上で得た経験や専門的な知識など、人材育成にスポットを充てたお話をさせもらうもので、始めた当初は福祉分野の同業者が多かったのですが、今では「これは民間企業でも役に立つ」と、他業種の様々な会社さんが参加してくださります。モルツウェルさんも、野津社長が参加してくださったり、幹部社員さんの参加だったり、私が出向いて出張がちべんを開催したり。

6年前のがちべんの福井社長。毎回創意工夫して楽しく受講できました。
勉強会でからあげとともに出てくるお箸の箸袋のメッセージがしびれます。

結局、一緒なんですよね。障がい者とか健常者とかカテゴリーの問題じゃないんですよね。「人」なんです。障がい者とか健常者とかじゃなくて、困ってる感を誰もが、どんな会社も持ってる。それに分野とか業種とか民間とか行政とか線引きをしないで、どんどん吸収していく、まずはやってみる、まさにがっちゃんこ(笑)こういう根底にある感覚がモルツウェルさんと弊社では価値観が似ているかなと感じます。 話がそれました、戻しますm(__)m 

当時、弊社の課題は 「明日潰れてもおかしくない」 創業して3年間赤字の垂れ流し状態でした。なぜ黒字化することができたのか、その理由は、モルツウェルさんとの協業です。少しだけ私の努力も添えて(笑) ここで少し、A型事業についてお話をさせてください。

就労継続支援A型事業所は、全国に2,623事業所(2020年時点)存在します。障害福祉サービスとは言え、就労困難者を実際に雇用するわけなので、その方たちに給料を支払うために、あたりまえですが「売上」が必要です。しかし、全国の7割の事業所が赤字経営だと言われています。「えっ?それでなぜ潰れないの?」これが普通の民間企業の感覚ですよね。理由は、福祉サービスである(自立支援がベース)A型事業では、就労困難者を受け入れることで、給付金(訓練等給付)が支給されるからです。就労継続支援A型事業は、比較的まだ新しい自立支援のサービスです。このサービスが始まったころ、規制も緩く、所謂「悪徳事業所」というものが出没し始めました。根本的な考え方は、給付金は利用者を支援する職員の給料に充てる、利用者(就労困難者・障がい者)の給料は仕事(生産活動)の売上から支払う、です。

ただ、明確なルールやペナルティがなかったので、要は利用者が来てくれさえすれば給付金がもらえるわけですから、

例えば利用者を
●1時間来させて「本を読んでもらう」
●利用者に対して「時給1,000円の給料を支払う」
●事業所は「給付金を7,000円もらう」➡利用者1人につき1日6,000円儲かる。

これが1日20人、20日あれば月に240万円儲かる、何もせずに(笑)
そりゃ増えますよね、そんな運営会社が。
こういったことを背景に、就労継続支援A型事業は3年に1度の法改正を重ねながら、現在では給付の算定方法が「スコア式」と言って、

●売上(利用者の給料をちゃんと仕事で儲けて払っているか)
●利用者の労働時間(1時間来させて悪いことしてないか)

この2点をベースに、利用者の労働環境や支援職員の支援力向上に対する環境など、様々な「運営努力」に対して給付金が算定されるようになりました。要は、就労困難者(障がい者)の自立支援を本気でやらない事業所は潰れますよという、あたりまえの形になってきたという話です。 

そんなA型事業、空に向かってぐんぐん伸びるそらまめのように全員で生涯発達!の我が社は・・・人育ては本気でしていましたが、仕事がない(笑)養護学校から新卒さんをお受けして、育てて、めちゃくちゃ働ける人がたくさんいるのに仕事がない。

 一方、経営団体で出逢い、がちあげ勉強会を通して、関係性が深まってきたモルツウェルは?「人手不足」 あれ?がっちゃんこしたら良くない?

これが全ての始まりでした。がっちゃんこから始まったこの協業、当時は互いの会社の課題解決のためだったものが、今では見ている世界は未来の日本ですから。すごいでしょ。


3)モルツウェルとの協業を始めると、何がよくなりましたか?

そらまめらんどにとっては、
「経営の安定・黒字化」です、シンプルですが。
協業前、弊社は市内の総合病院の中で食堂を運営していました。経営面での課題は、売上の見込みが立たないことでした。すごく波がある。それに対して、介護施設の厨房は売上のブレが少ないので見込みが立つ分、人員配置の調整や、新たな施設の厨房受託を始める計画がとても立てやすいです。近年、コロナ渦や自然災害の多発など、外部環境が大きく変動する中で、介護施設の厨房は安定した運営ができるので、その分余力が生まれやすく、離職も少ないです。面談や講座などをする時間を作れるので、支援も並行してしっかり行えるということがA型事業としての利点です。

介護施設の厨房で配膳作業をするそらまめらんど利用者さん


30人分をワンオペで、食事時間までに毎日きちんと配膳できています。

 もうひとつ、弊社は「人を育てる(訓練をする)」会社なので、そこを実現するための売上はもちろん大事なのですが、それ以上にそれを行うための、仕事というツールとフィールドが必要不可欠なんです。その点でも、協業をしたことで働いてもらえる人の幅が拡がったり、ステップアップの場を自社の中で多様に用意できるようになったということも良かった点です。食堂運営だけでは、どうしてもそこに適応できない人が出てきます。食堂はイレギュラーの嵐なので。〇〇な特性がある人は無理だなとか、入り口が狭くなりがちで。そういう側面もあって、弁当製造の仕事を作ったりして、だけど支援と並行ではマンパワーが圧倒的に足りなかったり。そういうジレンマをモルツウェルさんとの協業が全て解決してくれました。

そらまめらんどの利用者さんの作業風景

ひとつエピソードをお話させてください。
弊社に6年前に入ってきた発達障害を持つスタッフがいます。大学院を卒業したけど、就職活動でうまくいかず、追い込まれて不安障害を2次的に発症したケースです。面接になると、過緊張で喋りすぎてしまい、8社落ちるという状態でした。イレギュラーに弱く、課題が自分に返りにくいため(お客さんが自分のタイミングで動いてくれないから、失敗したなど)食堂では適応できず、一時はリタイアを考えるまでになったのですが、その頃部分的に始めていた介護施設の厨房を提案、最初は洗浄のみの仕事でしたが、モルツウェルさんからも、「あれ?もっといろんなことできそうだよね」と評価をして頂け、盛り付け・配膳➡朝昼の提供を全て任せてもらえるように。その後、利用者から弊社の職員に登用(支援側になった)、そこから次はモルツウェルさんの本社工場の部分受託で活躍、「自分はこの先、モルツウェルの生産工程に携わりたい」と、彼はこの度そらまめらんどを卒業し、モルツウェルに就職することを自ら選択をしました。

作業中のYさん。写真のように、食材をボールで取る→計量器で計り範囲内の重量に調整する→真空のフィルムに投入する一連の作業を速く正確に行うことができます。
製造係長Fさん(左)にも信頼が厚いYさん(右)!

製造係長FさんからYさんの印象を聞きました。
「元々は真空工程(製品を測り充填する業務)とクロージング工程(使用した食缶や器具を洗浄する業務)両方をおこなっていいただいていましたが、本人の器用さと積極性があることから、最近は真空工程での業務についていただき状況に応じてクロージング工程にもフォローが入れるユーティリティーのある戦力となっていただいています。新しい取り組みにも興味をもって前向きに取り組んでくれて、とても信頼できるメンバーの一人となっています!」



6年前、就労困難者として弊社のドアをコンコンと叩いた彼が、様々な試練を乗り越えて、自分で「選択できる」までに成長した。この奇跡は、モルツウェルさんが用意してくださったフィールドがあったからこそなんです。そして、この介護施設厨房×A型のスタートアップに彼は大きく貢献してくれました。もし、弊社が食堂しかフィールドを用意してあげることができていなかったら、彼の人生をも変えてしまっていたかもしれません。けれども、自社でたくさんのフィールドを準備することは非常にハードルが高い、そういうことをこの協業は解決してくれ、弊社に様々なチャンスを与えてくれたのです。
 
モルツウェルさんが作り込まれた介護施設の受託厨房は、オペレーションが確立し、清潔キレイで、調理済みの真空食材を使用するので、重たいものを運んだりなどの重労働もなく、性別や年齢を問われません。そして、盛付➡配膳➡洗浄と、作業手順が明確でゴールが見えやすいので、イレギュラーや工程が煩雑な作業は苦手な、発達障害や精神疾患を持つ人たちが、安心して取り組むことができます。
 
まさに多様な人材が活躍できるフィールドです。弊社も、現在松江市内で2カ所厨房を受託していますが、そこに従事するスタッフの年齢層は23歳~75歳、男女比は1:1、世の中の言葉を借りて表すと、

「障がい者と高齢者」です。

簡単な仕事では決してありません。

従事するスタッフは全員、
●提供時間を守る
●異物混入を防ぐ
●配膳間違えをしない

など、入居者様の命に関わる仕事だと、緊張感と責任感を持ち日々一生懸命に仕事をしてくれています。そして、そのような大切な仕事を任せてもらえているんだということが彼ら彼女たちの自信と誇りになって、成長が止まりません。
 


その先の発展・この先の展開と、働いてくれるみんなをちゃんと守りながら、未来を描き向かえるのは、経営者としてはこれ以上の幸せはありません。そして、モルツウェルとの協業、描く未来は、社会の中で大きな課題としてもう既に存在し、近い将来必ず誰もがそれぞれの場所やそれぞれの責任や立場の中で、向き合わなければならないときが必ずきます。

地方の(しかも田舎)、しかも本来業種の全く違う中小企業同志が協力し、その大きな社会課題を先頭を切って解決していく、それって単純にめちゃくちゃカッコいいですよね。
こうやってワクワクするからがんばれる、これが一番です。



(私)ありがとうございます。成長が止まらない…すごいですね!
私たちこそ、人手不足問題をどうしたら良いか途方に暮れていたところを救ってくれた救世主が㈱そらまめらんどのまめーず(そらまめらんどの利用者さんを私たちはこう呼んでいます)の皆さんです。感謝しかありません。

そらまめらんどさんと協業するうえで、私の大切にしている思いは、金子みすゞさんの誌にあります。

土 金子みすず

こッつん、 こッつん、
打(ぶ)たれる土は、
よい畑になって、
よい麦生むよ。

朝から晩まで、
踏まれる土は、
よい路になって、
車をとおすよ。

打(ぶ)たれる土は、
踏まれる土は、
要らない土か。

いえいえ、 それは、
名のない草の、
お宿をするよ。

日本語を味わう名詩入門編より 金子みすゞ 土より

「無駄ないのちはこの世に一つもない」
”機会”を作って、”期待”をし、”鍛える”、その環境があれば、一人ひとり活かせる場所があると思っています。

長文を読んでいただき、ありがとうございました。
これからも、がっちゃんこの挑戦をご報告し続けたいと思います。
あたたかく応援していただけると嬉しいです!

つづく。




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