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そんなに要らないと言ったのに結局作り過ぎたトマトソーススパゲティを君の部屋でふたり、ダラダラずっと食べて満腹以上の満足を得られることなんて、もう二度とないだろう。

行き交う光の線と線の隙間に同じモニターを眺めていた街のふたり、呼吸を殺して寄り添い立っていた一分間ほど他人同士の心が近付くことなんて、もう二度とないだろう。

ふたりとも傘を持っているのに使うのはひとつだけ、別れ際離れがたく路上で抱きしめ合うふたり、あの雨の夜ほど誰かを求める日なんてもう二度とないだろう。

酒は強いのに酔っ払ったフリをして終電をわざと見送らせ手を繋いで帰ったふたり、目の奥の底まで見えそうなほど見つめ合う時間なんて、もう二度とないだろう。

でも、それらが全部あったようななかったような、あれは誰との思い出だったのか、それとも夢だったかもしれないし、本で読んだ話か、映画の話だった気もしてきた。

いつも不確かでよく分からない。

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