プレゼンテーション1

療育で悩んだ時に思い出して欲しい6つの”F-words"

これは、療育や小児分野、障害児・者の方々、重症心身障害児者の方々と関わる全ての人に是非とも読んでほしい。

この内容は、治療法やアプローチ方法などの話ではなく、関わる上での羅針盤(コンパス)になる重要なものだからです。

障害を持つ方々と関わっていく中で、何が重要で何を大切にしないといけないか迷う場面は多くあると思います。
これまで、自分の経験や先輩のアドバイスなどから、その方向性を決めている人も多いはず。
明確な答えがない中、もがき悩み挑戦している方々もきっと多い。
新人指導の際に、何から教えていいのかわからなく悩んでいる人も多い。

私は、この6つの”F-words”を知ってから、

今自分がどこにいて何をしており
これから何を学び何を実践していけばいいのか
が明確になり、羅針盤(コンパス)を得れることが出来たと感じています。

なので、ぜひ今何かに悩み、これからどうしたらいいのかと迷っているとき
この6つの”F-words”を思い出し、答えのヒントを掴んで頂けたらと思います。


この6つの”F-words”は、カナダにある研究所:CancChildのDr.Peter  Rosenbaum氏が、発表した内容です。
The 'F-words' in childhood disability : I swear this is how we should think!(ダウンロードできます)

そしてその6つの”F-words”というのは、

①Function(機能)
②Family(家族)
③Fitness(健康)
④Fun(楽しみ)
⑤Friends(友情)
⑥Future(未来)

という、頭文字に”F"のついた言葉のことです。


これら6つの”F"を大事にして、介入することで方向性が見えてきます。

”今自分はどの”F"のことを行っているのか”
”どの”F"の視点が抜けているのか”
”どの”F"を今重点的に行わないといけないのか”

など、関わる上での視点が定まってくると思います。


これらの”F"をもう少しイメージしやすくすると

文献内で紹介されていたICFのフレームワークに当てはめてみるとわかりやすいと思います。



これだけで、この5つの”F"の言葉のもつ意味や役割もイメージしやすくなりました。

論文では、それぞれ6つ”F"について細かく説明もしてくれています。


以下、論文からの抜粋、意訳を混ぜながら説明させて頂きます。


①Function(機能) 

・Function(機能)とは、 '役割'、 '仕事'、 '作業'、 '課題'(児童にとって、「遊び」は彼らの「仕事」である)などのことを指す。 
・Function(機能)はICFにおける、活動・参加に含まれる。・療育に関わる人たちは、このFunction(機能)の促進と改善を目的とする。


 ~これまでの考え方との違い~
これまで、伝統的に行われていた(もしくは現在も)治療や考え方と何が異なるのでしょうか?

ICIDHのような一方向性の捉え方、小児といえば「正常発達」に沿って治療を行うといったような考え方は危険であるとこの論文では言われています。

その根拠として、ICIDHのような捉え方の場合、診断が重要になってきますが、脳性麻痺や自閉症などは包括的用語であり、障害像も複雑なため、あらゆる影響を考え取り組まなければならなくなります。

また、これまでの研究から「正常発達」といえど、多様性が存在することやこれまでの知見が変わっていること(頭-尾といった方向性は見られなかった、原始反射の消失は神経成熟以外の要因も影響している、など)が分かっています。

・伝統的に、臨床的努力の多くを障害の「治療」に置き、身体の構造と機能的部分(臓器や四肢およびその構成要素)の改善が子供をより良くし、機能的利益をもたらすと考えてきた。しかし、それは自動的にはならず、それは機能のあらゆる側面が無数の要因による影響である可能性が高いためである。
・日々の活動を「正常」に行わなければならないと信じており、正常発達を標準として使用してきた。しかし、正常性の考え方を知るためのガイドとしては役に立つが、それが唯一の方法方法である必要はない。例えば、左利きでも問題がないように、目が悪くてもメガネをかければいいように。これまで子供たちの発達には、文字通り「異常に」正常から外れていると考えられるものをやめさせようとし、そのような行動が悪い習慣の発達に繋がり、スキルと機能の「正常な」獲得を妨げると考えてきた。これらは、「正常」というものの信者になり、活動や参加における発達を犠牲にしてきたかもしれない。


〜Function(機能)に焦点をあてる 機能的治療アプローチ(Functional Treatment Approach)~

以上のことを踏まえ、ダイナミックシステムズ理論や神経細胞群集団説など新たな理論の登場により、小児領域の治療アプローチにパラダイムシフトが起こりました。

これからは、活動や参加といった、つまりFunction(機能)に焦点を当てていこうといった考え方にシフトしていっています。

・できる能力ではなく、している能力に注目する。
・子供たちはまず自分のやり方で物事をやることを学び、その後、それらの活動に良いスキルを身につける。物事がどのように行われるかは、当初は重要ではない。つまり、最初にその活動を行う方法の「質」を目標とせず、活動が「行える」ことを目標とする。
・正常を目標にすると、障害を持つ子どもたちはしばしば経験を奪われることがあることを認識することも重要。
・「良い」ものが達成されたかどうかに関わらず、機能的訓練の実践を促進することが重要であることを強く感じている。


と文献の中で紹介されていますが、少し付け加えるならば

・具体的な機能的課題に対し介入を行う。
・activeであること(動作に限らず思考過程においても)
・ダイナミックシステムズ理論や運動学習などを参考にする

これらが①Functionに当てて治療を行っていく上で重要になってきます。


②Family(家族)
これまで多くの研究では、子ども自身に焦点を当てた研究が多かったですが、今後は家族中心としたサービスの提供をしていくべきだと言われています。

これまで、両親(特に母親)に対し、様々な情報やスキルを伝えていくことはされてこられているかと思います。しかし、今後はサービス提供者とその事業所、そして家族とパートナーシップを持ってサービスを行っていくことが重要だと言われています。

特に、サービス提供者と母親が親密かつコミュニケーションをとることで、家族全体の幸福度があがるともいわれています。

子どもの変化だけでなく、家族全体のより良い変化を生み出していく、この視点をもって取り組む必要があります。

・家族は、すべての子供たちにとって不可欠な環境である。
・家族にCPを有する子供を持つことは、親が家族参加の制限を知覚することにつながる可能性がある。
・家族中心のサービスは、これらの懸念に対処するツールを提供する。
・サービスが家族中心主義である場合、両親はより良い満足と精神的健康と、提供者との取引におけるストレスが少ない。
・両親と協力して目標を確認することで、治療成果を効果的かつ効率的に改善することができる。
・子どもの不適応行動は、親のストレススコアへの影響、配偶者との関係、親の抑圧、特に能力の感覚に有意に寄与する。
・家族全体のさまざまな支援とリソースを考え、情報に基づいた意思決定を行うためのリソースを見つける手助けをしなければならない。


脳性麻痺という障害は子供だけにおこるのではなく、家族に起こるものだと言われています。それらのことを支援していくには、リハビリテーションのみでなく、移動支援や訪問介護などの在宅支援や短期入所などのリソースをみつける手助けは必要になってきます。

安心して任せられる事業所がない、なかなか利用できない、利用できても慣れてくれない。。など様々な問題が起きています。

家族中心アプローチはCanchaildでもよく研究されているテーマの一つです。


③Fitness(健康) 


・ICFにおける身体構造と機能の要素にあたる。
・障害を持つ児童や慢性疾患は他の子供よりも「健康度」が低く、必要以上に健康的でない。障害のある子供たちの生活のための健康促進の方向づけに重点を置く必要性があり、単に障害の修復に重点を置くものではない。
・障害のある子どもや青少年が身体的に活力を取り、そして身体的に活力を保つことが容易か困難かを理解する必要がある。
・すべての子どもたちにとってより良いレクリエーションの機会が求められている。



④Fun(楽しみ) 


・ICFにおける個人的要因と参加の要素に含まれる。もっと口語的に言えば、生活で「している」ことを指す。
・障害のある人々が健常な同級生よりも参加率が低い。
・障害のある若者の参加を増やすために、私たちは何ができるのだろうか?答えは信じられないほど単純で簡単だ。最初に、彼らがしたいことを見つけたらいいのだ!
・「参加と楽しさの児童の評価(CAPE)」の尺度を質問することによって、達成することができる。
・子供たちは「普通に」行うことを期待していることもある。
・参加活動を使用して、子どもの自信、能力、達成感、能力を構築する。


CAPEという評価表を訳して使ってみたこともありますが、アメリカの文化にそった活動内容(放課後ダンスパーティーに行くなど)のため、あまり使えません笑

日本で開発された”ADOC”は確かKIDS用もあったと思うので、そちらのほうが参考になるかもしれないです。


障害をもっていると、毎日が失敗体験の連続です。

例えば、車椅子を介助で移動する子であれば、行きたい方向があっても介助者(親)の向かう方向に進んでしまう(そしてタイミングを逃してしまったため行きたいと言えなくなる)。

ちょっとした失敗体験でも、成功体験よりもかなり多くの失敗体験をしてしまっています。 そうなると、何かやりたいことある?と聞いてもやりたいことがない、思いつかない  などとの返答が多くあります。

自己効力感が低い為です。

そのため、①Functionでも書いたように、どんな方法でもいいから出来る経験を積むことが大事になってきます。

小さな成功体験(あっできるんだと感じる)が、自分でもできるかもしれないと思えるようになる

そうすると自分でどうやったら出来るかを考え始める

そしてそのやり方でできた経験が自己効力感を高めます。


・参加活動を使用して、子どもの自信、能力、達成感、能力を構築する。


まさしく、この文の通りだと思います。

そうすることで、楽しみが増えていくのかなと感じています。


⑤Friends(友情)


・社会性の発達は人格の本質的側面であり、私たちは、この児童発達のこの要素を促進することに重点を置くべきだと考えている。
・重要であるのは、数ではなく、関係の質である。
・運動障害や教育のレベルではなく、仲間の活動や出会いの機会に関与していることは、CPを持つ子供が青年や若年成人に達すると、ロマンチックな関係や性的活動を発達させるためには有望である。
・両親との関係は、子どもたちの生活の側面についてのカウンセリングを含むべきであり、親たちにこれに対処する方法についてのアイデアを提供するべきである。


どのような社会参加を子供のころから促すか(ただ機会の創出ではなく、そこでどんな体験・体感をし、どのような関係性を築いていけるか)がやはり大切。


活動や参加にアプローチをする療法士のなかで、ただ機会を作ってるだけのものをみることがあります。それに何の意味があるんでしょうか?


機会の創出も重要ですが、その機会に何を感じ、何を学ぶのかというところに注目してほしいと感じます。



⑥Future(未来)


・私たちサービス提供者は、まずは正面から向き合い、将来について考える必要があると信じている。
・決して私たちが子供や家族の現実を無視すべきであることを意味するものではない。
・機能、家族、健康、楽しみ、友人に対処することは、すべての子供の発達に重要なことを常に思い出させる。
・障害を持つ両親や子供たちに、いつでも期待に応え、未来の可能性を夢見ることができる。不可能だと決めつけることはできない。


〜さいごに〜
こうして考えていくと、自分が今持てている視点と課題に感じている視点、そして気づいていなかった視点など整理できます。


この文献を読むことで

①障害をもった子供たちとセラピーを行う上で重要な考え方を確認できる
②自分のセラピーを振り返ることができる
③あらたな視野を持ち、アイディアがうまれる(かもしれない)

ぜひ、The 'F-words' in childhood disability : I swear this is how we should think!を読んでみてください!











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