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川崎ゆきお超短編小説 コレクション 5

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2022年8月の記事一覧

高レベルの人

高レベルの人

「高い山に登れば、見晴らしがよくなる。遠くの方まで見える。意識の高さ。これじゃな」
「じゃ、少しでも背の高い人の方が有利ですねえ」
「そういうことではない。物事がよく見えるかどうかの違い。視野の広さ。遠くまで見ておる。低いとそこまでは見通せん」
「はい」
「井の中の蛙、大海を知らず」
「別に知らなくてもいいでしょ。海が必要ですか。蛙に。それに海水との相性はどうなんでしょう。既に陸に上がった動物です

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空中戦

空中戦

「探索ですか」
「次に何をしていいのか、それでの迷いがない」
「何の話でしょうか」
「一般論だ」
「はい」
「迷うが、やることが決まっている。探索なのでな。目的がある。ここが大事なんだ」
「どのように」
「やることが出来る。これで充分。ただし、何を探索するのかにもよる。これは永遠に辿り着けない方がネタとして長持ちするが、全てが過程。だが、節目や区切りや、一段落付くことはある。まだ先はあるが、とりあ

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朝の調子

朝の調子

 その日の朝、高橋は寝起きが悪く、やや不機嫌。何か調子の悪さのようなものを感じる。そして気が重い。
 外に出ると、中途半端な天気で、晴れのようでいて曇り。陽射しがあったりなかったりするが、夏の終わり頃にしては梅雨時のような蒸し暑さがある。
 高橋は寝起き、すぐに食べに行く。ファスト店での和定食。それが日課。ただ、雨とかが降ると部屋にあるインスタントもので済ませるが、多少の雨なら強引に出掛ける。日課

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良い悪い

良い悪い

 調子の悪かったことがよくなる。これはいいことだ。すると、そのあと悪いことが起こる。だから良いことがあると、あとが怖い。
 これは下中だけのジンクス。従って普遍性はない。それに下中がそう感じているだけで、正確なものではない。何が良いことで、何が悪いことなのかがそもそも曖昧。客観的なものもあるが、主観的なものも多い。ただ客観視も主観。
 客観的に見るには、第三者がいるだろう。その第三者も主観で見た客

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一本道

一本道

 道は色々とありそうだが、本来は一本道。阿弥陀籤のように枝分かれしているが、同時に別の道には行けない。
 だから太い道、細い道、短い道、長い道などを通過しながら進む。これは一本ではないが、筋の流れとしては一本。一筋。
 テレビは複数の画面を同時に見ることが出来るが、ラジオは同時だと聞き取れない。片方がノイズになる。しかし、音楽をラジオで聞きながら、別のラジオで誰かが話しているのは同時に聴けるが。

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更新

更新

「村田さんなのですが」
「村田君か、まだいたのかね」
「部下じゃないですか」
「そうなんだが、あまり役に立たん」
「少し古い人ですからねえ」
「彼の同期や後輩は、更新しておる。今では他の部署でそれなりの役付だ」
「後進ですか」
「後に後退したわけじゃない。前に進んでおらんだけ。そのスキルを取っていない」
「ああ、更新ですか」
「まあ、功臣だとも言われておるがね。上からは」
「どの、コウシンですか」

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大物小物と中物

大物小物と中物

 大物ではないが小物でもない。その中間よりも大物に近いタイプ。
 それを中物とは呼ばない。めし屋でご飯を注文するときなら大中小とあるが、中はいわばレギュラーサイズ。そういう分け方がないところでは中か小が出るだろう。
 さて、大物の話だが、大物とは言われていないが力のある人がいる。これは大物の出来損ないではなく、少しだけ劣るのだろう。何かが。
 それは背負っている背景の違いだけで、本人の力は大物を超

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秋空

秋空

 盆が過ぎ、雨が降り、そのあと夏の雲ではなく秋の雲に変わり、あれほど過ごしにくかった蒸し暑さからも解放された。そして今日はカラッと晴れ、青空も濃く、まさに秋の空。
 竹内はそれを見るゆとりがあるのだが、暇なのだ。忙しい人でもその空は見ているが、それほどの感慨はないかもしれない。雨ではなく晴れているので、いい程度。
 あとはその忙しいことの方に頭は行く。色々と段取りがあるので、それを見直したり、確認

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バトンタッチ

バトンタッチ

 以前は出来たのに、今は出来ないことがある。状況が違うためだろう。
 しかし、以前は出来なかったことが今はなら出来るというのもある。徳田はそれでバランスが取れているのではないかと思った。
 これは出来ていたものが出来ないのがしゃくに障るというか残念なので、プラス面はないかと考えたとき、それを思い付いた。これもやはり状況の違いだろう。内も外も。
 ただ、今なら出来ることは、出来なくなったことに代わる

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感覚

感覚

 感覚は間違えやすいし、錯覚とかもある。それはその感覚が起きた原因を探したりするためだろう。このとき、感じるのではなく、考える。思い当たるようなことが過去になかったか、とか。
 感じるだけでは問題はない。危険を感じれば逃げればいい。そう言う場合、考える前に逃げているだろう。
 地球は回っている。そんな感覚はない。地面が動いているとすれば、凄い振動とか、それこそ地震だろう。
 ただそれほどの動きでは

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お盆の夜

お盆の夜

 暑いので、バテたのか、田中は早寝していた。扇風機の音だけが寝ないでよく働いているようだ。この音はフェリーで一泊したとき、大部屋で聞いた覚えがある。それに似ている。程良い揺れと、エンジン音。これが寝やすかった。
 扇風機が風だけではなく、その音に睡眠効果があるのだろう。一定の音。殆ど変わらないのでリズムとかはないのだが。
 田中は扇風機を少し離して風量を上げている。この方が音がよく聞こえるため。そ

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盆帰り

盆帰り

「お盆が近いようですね」
「そうですね」
「去年のお盆はどうでした」
「お盆休みでした」
「お盆、やりましたか?」
「ああ、お盆の行事のようなものですか、迎え火とか送りとか」
「やってましたか?」
「子供の頃は玄関で焚いていました。花火と同じ場所です。でも地味です。それが何か薄気味悪くて」
「しかし、もう住宅地では燃やせる場所がないでしょう。焚き火なども出来ないでしょうし」
「そうですねえ。でも近

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あるバグ

あるバグ

 よい情報は向こうからやってくる。そう見えるが、それを探していないと目に入っていても、目に入らない。
 歯医者を探しているときは目医者の看板は見えない。実際には見えているのだが、目ではなく歯。
 そして歯医者らしき看板はかなり遠くからでも見えたりする。目の前に大きな目玉の看板があっても無視。
 岡田はある情報を得たのだが、その時、探していたわけではない。だから向こうからやってきたようなもの。もし探

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夏越え

夏越え

「夏を越えられそうですか?」
「あと一息だな。あと一山。これを越えれば何とかなるだろう」
「その一山が厳しいかと、今までの疲れが溜まっておりますのでな」
「元気は溜まらぬか」
「溜まりましょうが、それほど続きませぬ」
「そうか、では元気を溜めても仕方がないのう」
「しかし、休息は必要かと。ゆっくりと休み、翌日に備える。これだけでも元気の溜まりでしょう」
「元気の溜まりのう。妙なことを言う」
「可笑

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