川崎ゆきお

漫画家

川崎ゆきお

漫画家

最近の記事

是非

「何とも言えんなあ」 「半々ですか」 「決め手がない。どちらとも取れる」 「判断はこちら次第ですか」 「どうだろう。稲垣に敵意があるなら非と取る。好意があれば是と取る。これでは判断ではなく、好み、好き嫌いをいっているだけのこと」 「でも曖昧でして、どちらにでも受け取れることができるのが怖いです」 「おぬしはどうじゃ」 「稲垣様に関しては何も思っていません」 「好きでもないし、嫌いでもないか」 「だから判断が難しいかと」 「それなら簡単かもしれんぞ」 「どのように」 「どちらに

    • 嘘と真

       嘘であり、それは作り話。しかし、それが入ることでよりリアルになり、しっくりといくし、説得力もある。さりありなんという感じで話が分かりやすい。  そうあって当然で、そうでないと嘘になる。これが本当のことなら嘘ではなく、実際にはそうなっていたのだが、それではギクシャクし、スムーズに流れない。  嘘、大げさ、盛りすぎ、誇大解釈のしすぎ。しかし、それの方が耳には良い。本当のことも耳で聞くのだがそれは話として聞く。実際に見たわけでも聞いたわけでもない。又聞きのようなもの。  古い時代

      • 日常

         日常から少し離れたくなるのは、またすぐに戻ってこれるためだ。  今までの日常よりも快適だと良いのだが、条件が多くなり、たまになら行けるが始終行けるものではない。旅行などもそうだ。たまだから良い。久しぶりなので良い。それに旅費も掛かるので、始終行けないのはいうまでもない。  そこが快適な場所であり、そこを日常の場にしたとしても、いろいろと問題が出てきたりする。  日常の場ではこなせる程度の困りごとになる。つまり日常というのは安定している。こなしやすく作り上げているためだろう。

        • 暑い日

          「今日は暑い。一段上がりましたねえ」 「暑さのレベルですか」 「自転車のシート、座ると焼け尻。昨日までの夏はまだそのレベルじゃない。今日からです。一段上がったのは」 「しかし、気温は昨日とそれほど違いませんよ」 「日差しです。これがきつい」 「それで気温も上がるのでは」 「どうなんでしょ。そこまで見てませんが、部屋の寒暖計で見る限り、それほど違いはありませんでした。それと風はあるのですが、熱風。涼しい風が来ません」 「じゃ、空気そのものが熱いのでしょう」 「そうだと思います。

          一線越え

           予測が当たることがある。おそらくこうなっておれば良いだろう程度で、その線を越えてくれると有り難い。その線はさほど高くはないが、それ以上を望むと期待外れになる。  そのある線とは境界線を越えているかどうかで、これは簡単に越えられるもので、それほど難しい問題ではないし、問題になるような一線越えではない。  ただ、この一線、曖昧なことがあり、越えているのかいないのかがはっきりとしないことがある。見た目は越えているのだが、本当は違っていたりする。  越えていない状態で越えているよう

          蝉丸

          「蝉丸」 「はっ」 「そちが死んでおるぞ」 「ほんに」 「この前、鳴き出したのに、もう落ちたか」 「ちと早うございますなあ」 「そちはどうじゃ」 「蝉丸ではございますが、蝉ではございません」 「なぜ、蝉丸なのじゃ」 「生まれたとき蝉が丁度鳴き出したとかで」 「それは風雅でいい」 「花鳥風月ですか。蝉は何でしょう。鳥ですか」 「虫じゃ」 「では私は虫なのですね」 「蠅の大きなのと変わらぬ」 「じゃ、便所バエよりも大きなのが蝉ですか」 「さあ、それは分からぬ。蠅はいつ生まれ、いつ

          不機嫌

           機嫌の良いときと不機嫌なときがある。また機嫌を感じないときもあるのだが、これが一番良いのかもしれない。  上機嫌ではないが、機嫌は悪くない感じ。だから機嫌としては良いのかもしれないが、ニュートラルに入っているのだろう。  しかし、どちらかに一寸ぐらいは傾いているが、それさえ感じない状態が好ましい。ただ、機嫌の良さを感じるときの方がいいに決まっている。  ただし、いつまでも続かないので、その良い機嫌が途切れると不機嫌になりかねない。機嫌が良すぎるときほど不機嫌を感じやすくなる

          神はサイコロを振らない

           朝、あるものをチラッと見たのだが、ああ、これもあったかと思いつつ、そのままにしていた。  その後すぐに、またそのものが飛び出してきた。いろいろなものが無作為と思えるように出てくるのだが、朝見たものがそこにある。関連するものだ。  この出方には理由があるのだが、日下の意志とは関係なく、不規則に出る仕掛け。誰もコントロールしていない。  だから偶然とも言えるのが、サイコロを誰かが振っているわけではない。  繁華街での人の流れと同じようなもので、そこを通るには一人一人理由があるだ

          神はサイコロを振らない

          錬金術

          「何もないようなところから何かを見出す。これが極意でございます」 「ただの水から砂金が得られるか」 「そのようなことは起こりませぬ」 「では条件があるのだな」 「何もないと思われているところに何かがあります」 「それは先ほど聞いた」 「ないはずのところにある」 「条件付きでな」 「はい」 「ありふれたものの中にも凄いものがあるのか」 「ございます。それこそ、何でもないようなものの中に何かが入っているようなものです」 「何が」 「だから、何かが」 「その何かとは何だ」 「あなた

          鳥獣戯画

          「今年も暑いですねえ」 「梅雨も明け、真夏ですからね」 「頭がボーとしますよ」 「気をつけてください。あまり気持ちがいいと危険ですよ。そのままいってしまいますからね」 「熱中症のようなものですか」 「まあ、身体に熱がこもり、ややこしくなるのでしょ」 「ボーとしているとき、あらぬものを見ます」 「あらぬとは」 「あり得ないようなものを」 「それは珍しい。幻想とか幻覚というやつですね」 「そんなものいないのですがね」 「何がいるのです」 「庭に出るのです」 「広い庭をお持ちだった

          袴とベンベン

           古くて広い家。下田は親戚が住んでいたその家で一人暮らし。寝床は奥の部屋。玄関までは何部屋も通り抜けないといけない。部屋が繋がっているのだ。それらの仕切り、ふすまを開ければ大広間になる。  そこを通り抜けるとやっと廊下に出る。ここから他の部屋へ行けるのだが、かなり入り組んでいる。その先の中庭の手前に縁側があり、その先に便所がある。  だから夜中トイレに立つとき、結構遠い。  下田が見たのは袴で座っている人。ただ椅子にでも掛けているのか、一寸中腰。そして股を思いっきり開いている

          袴とベンベン

          陳腐と珍奇

          「なかなか珍しいものはありませんなあ」 「かなり、お持ちのようで」 「見たり聞いたり直接触れたり、珍しい行動もそれなりにやり倒しましたからな。今更探すとなるとかなり難しい。掘り起こしすぎた感じです」 「珍しいものがいいのですか」 「そうです」 「どう言うところが」 「驚きがあります。刺激や、わくわく感も。これはありがちなものでは弱い。まあそれでもいいのですがね」 「それでもいいと?」 「楽ですからね。緊張感もドキドキ感もありませんから」 「でも刺激はない」 「無刺激が欲しいと

          何もしない夏

           夏場厳しいので、何もしないで過ごそうかと竹田は考えたが、これは考えるだけ無駄。やることはそれなりにあるし、日々やらないといけないこともある。  それを少し減らし、涼しくなるまで放置してもいい。それでも一割程度減らせるだけで、これでは何もしないで過ごすというのにはほど遠い。  ご飯も食べないといけないし寝ないといけない。これは略せないだろう。暑いので睡眠は秋から、とかにはいかない。食事もそうだ。  しかし暑いので食欲が減り、食べる量が減ったのか、食べるのが早い。それで時間的余

          何もしない夏

          順調

          「順調ですかな」 「ほどほどに」 「それはよろしいなあ」 「すらすらと片付くことがあります。やる前までは腰が重くて、何度もやる前にやめています。やる気が起こらないのでしょう。これは面倒なことになる可能性がある場合ですが、サッとできることでもやり始められないことが多々あります」 「多々ですか」 「そうです。だから順調にできていることなどごく僅か。多くのことは多々の中に入っています。なかなか気が進まなくてねえ。やればサッとできるのですが」 「でも、順調に進んでいるとおっしゃってま

          老婆心

          「気のせいだと思いますが、何か異変が起こりそうな気がいたします」 「気のせいじゃ」 「しかし、それがしの勘は良く当たるのです」 「何か思い当たるところでもあるのか」 「ありません」 「火のないところに煙は立たぬ。火を付けぬ限りな」 「そうなのですが、少しだけ思い当たるところがあります」 「そこが火元か。では思い当たるところがあるのではないか」 「勘違いかもしれません」 「だから、気のせいじゃ。他言するようなことではない。ましてやわしの耳に入れると言うことは、何か頼みがあるのか

          前評判

          「予想とは違うことがある」 「ありますねえ。予想ですから」 「前評判もそうだ。噂なので、そんなものかもしれないが、かなり違っておる。現実はな」 「予想も予測もそうですか」 「予想ではなく、それを見た人の評判も現実とは違っていたりする」 「まあ、当てにならないと」 「目安にはなるが、それが大きく外れると信用ならん。当てにはできんが、おおよそのことは分かる程度」 「それでよろしいのでは」 「現実に接してみると予想も評判も関係しなかったりする」 「全く別のものだと」 「そこまでかけ