暑い日


「今日は暑い。一段上がりましたねえ」
「暑さのレベルですか」
「自転車のシート、座ると焼け尻。昨日までの夏はまだそのレベルじゃない。今日からです。一段上がったのは」
「しかし、気温は昨日とそれほど違いませんよ」
「日差しです。これがきつい」
「それで気温も上がるのでは」
「どうなんでしょ。そこまで見てませんが、部屋の寒暖計で見る限り、それほど違いはありませんでした。それと風はあるのですが、熱風。涼しい風が来ません」
「じゃ、空気そのものが熱いのでしょう」
「そうだと思います。こんな日は猫の子一匹出ていない」
「暑いのに猫の子は出ますか? 涼しいところに入って動かないのでは」
「人通りもまばら、時にはゴーストタウンのように人っ子一人出ていない」
「まあ、暑い日は外に出ない方がいいですよ」
「分かっているのですがね。日課なので。あなたもでしょ。暑いぐらいじゃ欠席しない」
「出席しても大したことをやるわけではありませんので、来なくても良いのですがね」
「この暑さなら、あなたは来ていないだろうと思っていました」
「それはお互い様」
「来ているかどうかを確認に来ているようなものですかな」
「それもありますねえ」
「しかしそれで暑い中、倒れでもすれば面倒ですよ。毎日毎日来ることはない。無理をしないことですよ」
「でも、あなたは毎日来ている」
「あなたもですよ」
「無理っぽい日もあるでしょ」
「ありますが」
「そういう日は休みましょう」
「あなたも休みますか」
「はい、休みます」
「休んでいるかどうかを確認に来ちゃあ駄目ですよ」
「はいはい。お互いに」
 しかし、どんなに暑い日でも二人の姿はそこにあった。
 姿だけかもしれないが。
 
   了

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