川崎ゆきお超短編小説 コレクション 5

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試行誤錯



「どうだね。何とかなりそうかね」
「今までにないことですから、方法が分かりません。それで、試行誤錯の日々です」
「え」
「何とかなるでしょう」
「大丈夫かね。試行錯誤の間違いだろ」
「だから試行誤錯を繰り返しています」
「だから、間違いなんだ。錯誤だろ」
「え」
「試行誤錯なんていわない。試行錯誤だ」
「あ、そうでしたね。少し誤錯していました」
「錯誤でしょ」
「ああ、はい」
 翌日、試行誤錯

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朝の目覚め



 朝、ふっと目を覚ますと、夏の陽射しの関係からか、室内は水槽のよう。澄んだ水のように部屋の空気に透明感がある。空気は透明なので、それはおかしいが、空気ではなく、壁とか、敷居とか、奥の部屋とか、廊下とかがよく見える。見晴らしがいいというより、見映えする。
 目を開けた瞬間、光が入ってくる。それが少し眩しい。それで、急に明るいものを見たので、そう思ったのだろう。夜中、目を覚ましたときは、その感じは

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習い事



「たまには休まれては如何ですか」
「いや、それじゃ止まってしまいます。一度止めると、立ち上がるのが大変で」
「でも、毎日毎日続けていては疲れるでしょ」
「それほど大したことはしていません」
「何かの都合で休まないといけないこともあるでしょ」
「最近はありません。暇ですので、他の用事で休まないといけなくなることは、ほぼありません。体調が悪いときは別ですが、寝込むほどのことじゃなければ、続けられま

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寿司屋に行ける夏



 今年の夏と、去年の夏とは違う。そっくり同じなら、逆におかしいだろう。夏に入ってからの三ヶ月間の日々の天気まで同じだと、これは作り物の世界になる。
 だから、それは現実ではないし、有り得ないが、多少の違いはあっても、似たような夏はある。
 夏なので、似ていて当然だが、暑さがましな夏とか、暑すぎる夏とかがたまにある。それがいつの年の夏だったのかまでは思い出せないが。
 平田は今年の夏の天気、普通

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現実と想像



 そのものズバリの現実を見てしまうと、それまでだ。その入口とか、手前とか、それに達していないときの方がよかったりする。
 完成されすぎたものは完璧で、それ以上のものはもうない。想像の余地がない。想像していたものがズバリそこにある。これは目的を果たしたことになるが、それだけの話だったりする。意外と極めて当たり前のものが、当たり前のようにそこにあるような。
 当たり前とは、予想が当たった場合、その

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暑苦しい動き



 暑いとき、じっと座っているとますます暑くなる。座っているだけでも暑い。その状態でやっていることは、暑い暑いと言っているだけの感じだが、そう始終思い続けられるるはずがない。暑い暑いにもネタが切れる。
 それで佐久間は動くことにした。部屋の片付けを本気でするわけではないが、ここにあってはいけなものを持ち、本来あるべきところに戻すとか、その程度。これはトイレに立つとき、ついでにやっているのだが、そ

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何ともならない



「暑いので、何ともなりません」
「私は寒くても何ともならん」
「寒いのに弱いのですか」
「いや、季節に関係なく、年中何ともならん」
「それは安定していて、いいですねえ。私なんて、ムラがある。春の終わり頃から秋の初めの頃まで何ともなりません」
「それは長いですね」
「しかし秋の半ばから、春の中頃までは調子が良いのです」
「年の半分はいけないと」
「はい、いけません。特に真夏は絶不調です。何をする

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飽きる



 同じことを繰り返していると、要領が分かってくる。処理が上手くなり、早くなったり、効率が良くなる。
 しかし、あるところで、それは頭打ちになる。日常的によくあること。それ以上はもうないような。普通は、そこまで行けば、もういいだろう。最初の頃に比べ、かなり慣れたということ。
 そうなると、次に何か来るのか。まずは飽きが来る。この飽きも、飽きたことさえ分からなくなるほどの飽き方になれば、立派なもの

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森へ行く



 森に入るのがいいと聞き、高岡は、木の生えているところへ行った。近くで複数の大きな木があるところは神社。森と言うよりも林だ。木、林、そして森。広い林のことを森というのだろうか。林よりも木の本数が多いところ。
 神社に神木があり、これ一本で何本分かあるので、遠くから見ると、これだけでも立派な林だろう。また、枝の拡がりから、何本も立っているように見えたりする。
 高岡はその神木の下で、じっとしてい

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心頭滅却すれば



「暑いですなあ、三十五度越えですよ。今年初めてじゃないですか。こりゃ炎天下、外に出られない」
「しかし、ここまで来たじゃないですか。一応、真夏の空の下を歩いて来られたのですから大丈夫ですよ。真冬から、いきなり真夏なら別ですが、徐々に暑くなっていくので、身体も準備していますよ。急激な高温じゃない」
「でも、暑くて、もうフラフラだ。これはえらい。もう日中の外出は控えます」
「そうですか。それは残念

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