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プレミアリーグ第12節 マンチェスター・ユナイテッドVS.トッテナム レビュー

 至高の勝利。「ロナウドに負けた」とコンテが発言したように、昨季の勝利はまさにロナウド個人によるものでしたが、今回は違いました。チームとしての振る舞いでスパーズを上回っての完勝だったと思います。贔屓目抜きにしても、このチーム強いです。そう思う理由がこの試合に詰まっていたので、そのへん含めてレビューできればと思います。

①スタメン

Ⅰ.「静」の2局面を支配したユナイテッド

1⃣スパーズのビルドアップとプレッシング

 まずはスパーズのビルドアップとプレッシングから。そして次にユナイテッドのそれに対する対応ってかたちでみていきます。

②スパーズのビルドアップ

 3-1-4-2で入ったスパーズ。ただ、保持時はベンタンクールをシャドウに置いたいつもの3-4-3気味の配置。当然ながら、ビルドアップもプレーモデル通りの3-4-3⇒GK参加による4バック化であり、相手を自陣ゴール付近まで引きつけて相手のライン間にスペースを作り、GKロリス、CBロメロ、ダイアーの3枚がボールの配給を担うかたちとなる。4-2-1-3でプレッシングをかけるユナイテッドにとっては、トップ下のブルーノのところに数的不利が生じるほか、サイド(WGとSB)のマークの基準点も少しずらされており、スパーズとしてはそのズレから生まれる「時間」を使って、ライン間の2シャドー&ケインにボールを届ける狙いがあったといえる。

③スパーズのプレッシング(概念図)

 一方のスパーズのプレッシング。表記上、ユナイテッドの4-2-3-1に対して3-1-4-2と嚙み合わせが完全に合うので、WBを相手SBまで縦スライドさせる同数プレッシングという方法もあるが、そのプレッシングをするのはユナイテッドのゴールキック時のみ。それ以外の場合には③のように5バックを縦にずらさないリスクの低い方法で、相手のボール保持をサイドに誘導していくスタイルだった。

④スパーズのプレッシング(具体図)

 ③の補足として。相手2CB+アンカーを2トップ+ビスマ(アンカー)で抑えることで相手SBにボールを誘導し、相手SBにボールが移動すると同時に④のようなかたちで、ボールサイドのIH、両脇のCB、WBが動きをつけて、それ以外の非ボールサイドの選手はスライドして中央を固める。上述したように、5バックを縦にずらさずにプレッシングするために後方のスペースのアタックに対するリスクが軽減できる一方で、ボールへの圧力はそれに比べて弱まり、プレッシングの強度としては決して高くないといえる。(スパーズとしては「最悪の場合プレッシングは、はがされても良いよ」という意図のプレッシングだったのかもしれない。)

2⃣スパーズに相対するユナイテッド(ボール非保持)

 まずはスパーズのビルドアップに対するユナイテッドの振る舞い。つまり、ユナイテッドのプレッシングから。

⑤ユナイテッドのプレッシング(対3バック)

 今季のユナイテッドは相手が3バックでもプレッシングの根本的な考え方は変わらない。いつもの試合と同様に4-2-1-3気味の配置をとるが、この試合では右CHカゼミロを相手左IH(保持時はダブルボランチの一角)に縦スライドさせて4-3-3のようになり、それによって相手のボールを両脇のCBに誘導させることが基本となっていた。そこから両WGと1トップのプレッシングで相手のパスコースを限定させ、相手WBにボールが渡りそうな場合にはSBが縦スライドできるように準備。後方も同数での守備覚悟で積極的に縦スライドを見せることでマークを浮かせないようにして、入ってきたボールを狭いエリアで密集して奪う狙いが見て取れた。フォーメーション上は、相手の3-1-4-2に対して、4-2-1-3と嚙み合わせがあっていたため、それを基準にマーカーを考えられていたのも良いプレッシングができた要因だろう。

⑥ユナイテッドのプレッシング(対相手のGK参加ビルドアップ)

 1⃣で言及したように、スパーズのビルドアップの基本はGKにボールを持たせて、相手を最大限に自陣近くに引き込んでおいてGKが参加したビルドアップで崩すというやり方である。これに対しても、ユナイテッドは特に守備のマークの基準点などを変えることはせず、⑤と同じく、⑥のように同数も恐れないプレッシングを見せる。
 シティ戦でそれまでの課題であったプレッシングの問題が大きく露呈したユナイテッド。シティが強すぎただけなのか、はたまたカゼミロの定着も大きかったのか、エヴァートン戦以降はプレッシングもかなり安定し、このスパーズ戦においても、それぞれの選手の細かいポジション修正、後方の選手の大胆な縦スライドなど、高い練度・強度を持ったプレッシングができていた。スパーズサイドにミスが多かったのも事実だが、そのミスを誘うくらいに相手に有効なプレッシャーを掛けられていたということだろう。(感覚的には、特に両SBの縦スライドの出足がかなり良くなった印象です。)

3⃣スパーズに相対するユナイテッド(ボール保持)

 ビルドアップにおいても、スパーズのプレッシングに対応して見せたユナイテッド。そのキーワードは「アンカーの列を下りる動き(サリーダ)」と、「(主に左)SBからの再現性のある前進」の2つ。

⑦ユナイテッドのビルドアップ(アンカーのサリーダ1)

  1つ目の「アンカーの列を下りる動き」。相手アンカーがタイトにマークをするユナイテッドのアンカーカゼミロ。彼がCB間に落ちる動きを見せることで、「"人"を守るのか、"ゾーン"を守るのか」という迷いを相手アンカーに生じさせる狙いである。スパーズはそれに対してもアンカーのビスマに縦スライドをさせて、カゼミロに対して一定の距離を保った規制をする守備を敷いてきたため、⑦の黄色で示したようにスパーズの両IHが陣取る中盤はかなり広大なスペースができることとなった。

⑦ユナイテッドのビルドアップ(アンカーのサリーダ2)

 具体的にみると、6',18'のヴァランからの同じようなビルドアップの局面がわかりやすい。ヴァランがボールを持ったとき、ボールサイドの相手IHホイビュアは1⃣で確認した➃の図のように守るのを想定しているため、右SBダロトをケアしなければならない。それによって、カゼミロのサリーダによってワイドでボールを受けたヴァランから見ると、(逆サイドの相手IHもスライドが間に合わないため、)中央のパスコース、スペースが大きく開けている。6'18'ではスパーズ側のマークの受け渡し方が違うため、配置は若干異なっているが、ほぼ同じようなビルドアップができているのは、ビルドアップの狙いが機能していたからといえる。

⑧ユナイテッドのビルドアップ(SBからの前進)

 上記の「アンカーの列を下りる動き」がスパーズ対策としてのビルドアップの方略とするならば、この試合での「SBからの再現性のある前進」はテンハグ体制になってから継続的に取り組んでいるプレーモデルの成就ということになる。この試合では、ユナイテッドのボール保持の(考えられうる)約束事としてシーズンプレビュー【後編】で紹介した「①ボールホルダーがハーフスペースをとる②ボールホルダーに対するひし形の形成」の2つによって、⑧のようなかたちで相手のサイドへの追い込みを反転させるSBから(主にCFへの)斜めのパスを中央に差し込むシーンを多くつくることができていた。
 これはまさにチームとしての継続した取り組みの賜物である。前半は1つ目の「アンカーの列を下りる動き」、後半は2つ目の「SBからの再現性のある前進」によってビルドアップを多く成功させ、ボール保持の機会と時間を増やせていたのがこの試合のユナイテッドだった。

Ⅱ.試合をものにしたユナイテッド 4局面の重要性

1⃣トランジションを制するものは試合を制す

 トランジションを制するものは試合を制す。誰が言ったわけでもないですが、元ネタの「リバウンドを制するものは試合を制す」に似たところがあると思います。「攻→守・守→攻の切り替え」の2局面を指すトランジション(ポジティブトランジション・ネガティブトランジションの2つ)。
 つまり、この局面はどちらのチームのボール保持も落ち着いておらず、人の配置が整っていなかったり、ルーズボールになっていたりすることがほとんどで、バスケのリバウンドでの状況に似ているといえます。そのトランジションをものにして、自チームのボール保持に移行することができれば、ゴール前では一気にチャンスとなり、ゴール前でなくても試合を自チームのコントロール下に置くことができます。
 この試合でいえば、4局面のうち「静」の局面である「ボール保持」「ボール非保持」の局面で攻勢を敷いたユナイテッドですが、相手のスパーズはその状況を改善させるために後半からプレッシングの強度を強め、ビルドアップではロングボールを用いる回数を増やしていきます。そうすると、ユナイテッドも(相手の激しいプレッシングの背後を使うために)ビルドアップでのロングボールは増えることとなり、結果的に空中から落ちたボールがほぼ五分五分のボールとなり、トランジションの局面が多くなります。
 お互いが相手の対策をしあい、試合の結果がもつれればもつれるほど、勝敗を分けるゴールが決まる可能性の高いトランジションの重要性は増していくということです。これは3節リヴァプール戦や直近のエヴァートン戦、ニューカッスル戦にもいえることで、(そこには「静」の局面による影響もありますが、)トランジションでの両チームの選手の意識やプレー、ときとして運が試合を左右するのだと思います。

⑨試合全体のトランジション関連スタッツ(左:MUN 右:TOT)[Sofascore]

 前段が長くなりましたが、この試合のトランジションを制したのはユナイテッドだといえます。
 今季の課題の1つであるロングボールの空中戦でも各選手が奮闘して相手に主導権を握らせず、攻守の切り替えでも素早い切り替えで意識の高さを見せていた。特に、ネガティブトランジションではフレッジを筆頭に相手のボールホルダーへのファーストチェイスを高強度・高頻度で行い、スパーズを苦しめることができていた。
 そして、周知のとおり結果はフレッジが全得点に絡んでの2-0でユナイテッドの勝利。それも1点目は相手のロングボールを回収したところから、2点目は自陣で相手のボールを奪っての速攻と、どちらもトランジション局面でのゴールであった。

2⃣総括

 ユナイテッドの現状としては、「自チームのコントロール下に置けないトランジションを増やさない!」という意味でもⅠで言及した「ボール保持(主にビルドアップ)」・「ボール非保持(主にプレッシング)」も重要ですが、選手のアスリート能力・守備戦術が進化しすぎた現代フットボールにおいて、得点が最も決まりやすいのは相手のブロックが整っていない「トランジション」の局面です。結局、どれだけ盤面上での試合が上手くいっていても、カウンター一発で敗戦ということがざらにあることがそのことを物語っています。
 Ⅰで言及したようにユナイテッドのプレッシング、ビルドアップはかなり研ぎ澄まされた完成度になってきていると思いますが、それでも試合を決める要素の多くはトランジションに詰まっており、最後に試合を決めるのは一瞬の切り替えの意識、球際のひと踏ん張り、1つの空中戦、そのルーズボール争いなどの部分です。語弊のなきようにですが、最終的には「気持ち」という言論は時代遅れなようで、一理あるはずです。
 ただ、最近の試合の選手たちを見ていると、ユナイテッドにはそんな心配もいらない気もしています。各選手が今までには考えられないほどのハードワークをしてくれているので。本当にこのチームには、"強いユナイテッド"が帰ってきている最中なのかもしれないと期待するばかりです。では。

タイトル画像の出典
https://www.football.london/tottenham-hotspur-fc/man-united-spurs-live-updates-17362967


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