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アヤックスを見て、来季のユナイテッドのスタイル展望してみる【後編:PSM2試合を通じて】

どうも。リヴァプールに4-0、メルボルン・Vに先制を許しながらも4-1と上々の出来を見せているテンハグ・ユナイテッドですが、結果と内容はセットということで、PSM2試合を通じてチームが見せた変化、アヤックスからの継承、課題などを①ビルドアップ(主にリヴァプール戦)②崩し(主にメルボルン戦)③プレッシングの3つの点から語っていき、最後にだらっと予想スタメンなどの展望をしたいと思います!!

Ⅰ局面ごとの分析

1⃣ビルドアップ

まずはビルドアップ。色々な意味がありますが、ここでは相手のプレッシングに対する前進と捉えて、(メルボルンは引いた守備が多かったので)リヴァプール戦からそれを紐解いていく。

⑴アンカーポジションのローテーション

①リヴァプール戦スタメン(アリソン背番号ミスすみません)
②メルボルン戦スタメン

ユナイテッドの2試合のフォーメーションは4-2-3-1。ただ、ボール保持の際、リヴァプール戦はマクトミネイ、メルボルン戦はフレッジが2CBと三角形を形成する「アンカー」的な役割を担い、もう片方は相手のライン間へ侵入するなど、どちらかというとIHのような振る舞いをすることも多かった。

③アンカーのローテーション(LIV戦)
④ダブルボランチ化(LIV戦)

ただ、③のようにリヴァプール戦でも状況によってはフレッジが下りてきてボールを持つCBをサポートしたり、④のようにダブルボランチのようなかたちでCBをサポートしたり、スペースを空ける動きをしていた。
④のようなダブルボランチ化は多くはなかったが、アヤックスではあまり見られなかったもので、恐らくボール保持の精度が十分ではないために相手のプレッシングに対してCBをサポートする人数を増やすということは意図的に行っていると思われる。テンハグはアヤックスでも最初数シーズンは4-2-3-1を使っていたことも考えるとなおさら。
テンハグはアヤックスでは「4バックとアンカーの5枚でのビルドアップ」を基本としていたが、相手のプレッシングの質と自チームのボール保持の質を考慮したうえで、ユナイテッドでは「4バックとボランチ1枚、困ったらもう1枚のボランチも参加するという5+1体制」でビルドアップを採用しているようだ。

(2)「ハーフスペース(HS)の入口」と「ひし形」の形成

ボールを手放したり、相手にボールを預けてカウンターを狙う形が多かったリヴァプールを相手にしたときの以前のユナイテッド。その相手に対して怯むことなくショートパスによるビルドアップを敢行したチームには2つの原則が見て取れた。
まず1つが「ボールホルダーがハーフスペース(HS)の入口に立つ」ということだ。

⑤ハーフスペースの「入口」について(参考までに)

「HSの入口」は、ピッチを5分割した「5レーン」の外から2番目のレーンにおける「入口」つまり、ボールを配給する起点のこと。サッカーは相手がいるスポーツなので、⑦の図のように相手が引いて守っていれば、そのエリアはより相手陣内に近くなるし、相手がプレッシングをしていてブロックが高い位置にある場合はそのエリアの位置も相対的に自陣に近くなる。いってしまえば相手のFWの脇のスペースともいえる。
ユナイテッドのビルドアップでは、そのスペースに人が立ち、そこにボールを良い状態で供給するところから始まる。

例えば先ほど使った④のシーンのように、右の「HSの入口」のヴァランがボールを持つともう1人のCBのリンデレフが近い距離でサポートし、ショーは逆の「HSの入口」に立ち、疑似3バックのようなかたちになっている(このかたちになることは多い)。
アヤックスと同様、ただ4バックが並んで立つのではなくDFの4枚が上下左右に動きながら、「HSの入口」に立つパスの出し手にボールが良い状態で供給できるような立ち位置を取っている。

⑥CBを「入口」としたひし形の形成(LIV戦)
⑦SBを「入口」としたひし形の形成(LIV戦)

2つ目の原則がボールホルダーに対して「ひし形」をつくるということだ。
一見普通のことに思えるが、パスコースをつくるだけでなく、このひし形をつくることを原則として落とし込めているチームは多くない。
4-2-3-1の布陣を採るユナイテッドには主に2通りのひし形を形成するメカニズムがあり、まず1つがCBがボールホルダーである場合は⑥のようにCB+SB+WG+CHでひし形を形成することが多い。そしてSBがボールホルダーである場合はCBがいない分、当然もう1枚中央の選手が係わりを持つ必要があるのでSB+WG+CH+CF(OH)の4枚でひし形をつくる。
これによってできた3つ以上のパスコースで相手のプレッシングを剥がすことを試みる。特に⑦の13:05〜のシーンはマクトミネイに渡った後も、上手く右サイドに展開してビルドアップできており、このチームの理想形ともいえるビルドアップができている。

以上の「ボールホルダーがHS入口に立つ」・「ボールホルダーに対してひし形を形成する」という2つの原則、つまりHS入口からのひし形によって前進を試みることがこのチームにおいてもビルドアップの根幹となりそうだ。

(3)ビルドアップの課題

リヴァプール戦、結果とは裏腹に前半に関してもビルドアップに苦しんでいるシーンは多かったです。どんな基準やねん問題は置いといて、LIVの「プレッシング成功」とMUNの「(ロングボール以外の)ビルトアップ成功」を手集計してみると以下のようになった。
LIVプレス成功:5’,8’,11’,14’,34’,36’,43’,45+2’
MUNビルトアップ成功:15’,16’×2,19’,20’,21’,23’,24’,25,26’,28’,29’ 35’
ユナイテッドが13回成功、リヴァプールが8回成功と数字的には上回っていますが、8回もプレッシングに捕まっていること、前半15分まで相手のプレッシングに圧倒されていたことを踏まえると、当然ながらまだ改善の余地はありそう。また、19',21',25'のビルドアップはヴァランの高い個人の技術で剥がせていたといっても過言ではないため、チームとしてのビルドアップのかたちがまだまだ求められる。
一人ひとりの止めて蹴るの技術はもちろん、ポジション二ング、動き出し、サポートの角度など、課題は多い。

2⃣崩し

上述したように相手が低い位置で守備ブロックを敷いてきたメルボルン戦を題材に、ユナイテッドの「崩し」の局面を見ていく。

(1)崩しにおける配置

この部分は原則というより、その試合や状況ごとによって異なるゲームプランの部分になるが、メルボルン戦での配置の基本形は2-3-5⇒3-1-6といえる。

⑧メルボルン戦の基本配置2-3-5
⑨メルボルン戦の基本配置3-1-6

メルボルン戦では両SBが絞った位置で相手2トップ脇に構える2-3-5を基本としながら、相手を押し込んでいくとともに、両SBが幅をとったり、相手のライン間に侵入していく。その際に1⃣(2)で確認した原則はここでも変わらないため、フレッジがCB脇に下りたり、マクトミネイが2トップ間に立つことでCBに幅を取らせる動きをし、3-1-6のようなかたちになる。
ただ、「2-3-5」や「3-1-6」のように綺麗な配置にこだわるのではなく、アヤックスでも見られたようなボールホルダーへのプラス方向へのサポート、三角形、ひし形の形成を原則として選手はポジションを取っていく。

(2)ひし形による崩し

ひし形つくって満足!で終わらないのがサッカー。そのひし形による崩しを見ていきたいのだが、下のメルボルン戦の2点目のシーンはそれがうまくはまったことによる得点だった。

⑩ひし形の形成による崩し1(MEL戦)

2点目のシーンでは⑩のように、マグワイアが相手2トップ脇でひし形の「起点」になったときに、幅を取るサンチョが位置を下げてボールを引き出す動きを見せる。その動きで空いた相手WB裏のスペースにダロトが侵入すると、相手のIHが付いていくので、その空いたスペースにブルーノが入り込み、サンチョとチャンスメイクをし、最終的に動き直したダロトにボールが渡り得点につながっている。

⑪ひし形による崩し2(MEL戦)
⑫ひし形による崩し3(MEL戦)

このように幅を取る選手が相手WBを釣りだしたスペースに選手が侵入し、さらにスペースを空けるというプレーは⑪や⑫の場面のように繰り返し見られ、明らかに狙いを持ってこのかたちが行われていたことがわかる(後半も60’:62’,64’と同じ崩しがあった)。
この試合と同じような動きが他の試合でも見られるかはわからないが、アヤックスをお手本としたような、「適切な配置をとり、そこから空いたスペースへの動き出しの連鎖によって相手を崩す」という場面はこれからも繰り返し行われるはずだ。

3⃣プレッシング

(1)アヤックスと同様のマンツーマン・プレッシング

少し無理やりだが、リヴァプール戦の3点目のこのシーンもプレッシングによって生まれたゴールだ。マルシャルやラッシュフォードの守備意識の向上に感動する人も多かったかと思うが、PSM2試合の計8ゴールのうち、LIV戦の2,3点目、MEL戦の4点目の3得点はいずれもプレッシングによるボール奪取を起点としたゴールで、得点におけるプレッシングの重要性がわかる。
そのユナイテッドはアヤックスと同じく、「マンツーマン・プレッシング」を基本としていた。

⑬ユナイテッドのプレッシング1(LIV戦)
⑭ユナイテッドのプレッシング2(LIV戦)
⑮ユナイテッドのプレッシング3(MEL戦)

上の3つの図のように、相手の中盤3枚に対して3枚の中盤をマンツーマン気味に見させ、3バック・4バック問わず相手のCBに対してWGが相手のSB・WBのパスコースを切りながらプレッシャーを掛けて、CFとともに相手の攻撃のエリアを限定し、「人」を基準とする後ろ7枚でボールを取り切るかたちだ。
相手がWGのプレッシングを交わしてSBやWBにボールを供給した場合は、⑭のようにSBの縦スライドを起点としたDFラインのスライドでボールホルダーにプレッシャーを掛け続けるようになっている。
もちろん非ボールサイドの選手はボールサイドに大きくスライドするが、原則として⑬のようにそれぞれの選手にマーカーが設定されており、「人」を強く意識した「マンツーマン・プレッシング」といえる。
PSM2試合ではこの強烈なプレッシングで相手からボールを奪い取り、攻撃、得点につなげていた。

(2)プレッシングの課題

プレッシングの課題といったらこれやろ!と思った方も多いかと思うが、このシーンも相手のゴールキックからプレッシングを剥がされての失点であった。

⑯メルボルン戦の失点シーン

⑯がその失点シーンを表した図である。この試合のWGの「基本的なマーカー」は相手のWBであり、マルシャルが相手の右CBにプレッシャーを掛けているので、エランガはマーカーのWBにプレッシャーを掛けているが、ワンツーで剥がされて目いっぱい引き出されたDFライン裏のスペースを上手く使われたかたちだ。
なぜこのシーンでフレッジが8番をマークせず、ショーが縦スライドしているかは不明だが、人が余っているにも拘らず、上手く対応できなかった場面となっている。

⑰リヴァプールの0トップによるビルドアップ

メルボルン戦がかなり印象的だが、むしろリヴァプール戦の方が相手のビルドアップに剥がされて、後方のスペースを使われてのピンチが多かった。
この図のようにSBが高い位置を取りユナイテッドのWGをCBから引き剝がして「時間」を得たCBからフィルミーノが降りることで中盤を4枚にして数的優位をつくるかたちがリヴァプールの十八番のビルドアップだ。
ユナイテッドは下りるフィルミーノに対してCBが付いていくという約束事になっていたが、それによって残り3枚のDFが絞ることによって空いたスペースにWGが侵入したりと、「0トップフィルミーノ」という相手が相手なだけに仕方ないところもあるが、リヴァプール戦はこの問題による序盤の失点で試合が別の状況になってもおかしくなかった。

これはアヤックスも抱えていた問題なのでチームの成熟度に拘わらず、強烈なプレッシングを掛けるが故の弱みといえるが、プレミアリーグともなればビルドアップの質が高いチーム、アダマトラオレのような広大なスペースで決定的な仕事をする選手がゴロゴロいる。
「行くときは行く」というチームとしての意思統一の練度の向上や選手の質などどのようにそのリスクをケアするのかというのはこれからの課題となってきそうだ。

Ⅱ2試合を通じての感想・予想スタメン

1⃣2試合を通じての感想

この2試合を通じて、自分を含むユナサポの何人もがこのチームに感動を覚えたわけだが、まだこんなもんじゃないと個人的には思ってます。本記事で挙げてきたテンハグ・ユナイテッドのプレーは、現代サッカーにおける定石でもあり、今のBIG6であればどのチームも備えているメカニズムだったりします。今までのユナイテッドにそれがなかった分、それが稀有なものに見えますが、この2試合で落とし込まれたテンハグ・フットボールの基礎からまだまだ進化を続けるはずです。
上記した課題の改善はもちろんのこと、切り替えのスピード、特に攻撃における「縦の速さ」はアヤックスに比べてかなり劣るものがあり、ここからよりその鋭利さが増してくると考えてます。
ただ、この2試合はただのPSMであり、今季もその資金力を武器に大型補強を見せるプレミアリーグのチームは下位も含めてかなり魔境を極めている。それゆえに、今季の現実的な目標は4位以内となりそう。

2⃣現時点のメンバーでの予想スタメン

フレンキーの話をすんな!って言われたので、ここでは新加入のリサ丸、エリクセン、マラシアの3名を含むメンバーでの予想をしたいと思います。

4-2-3-1①

4-2-3-1の予想の基本スタメン。
DF
ジョーンズの他、バイリーも売却はあるのかなと。後方のスペースのカバー能力はピカイチだけど、メルボルン戦のワンシーンのように如何せんビルドアップの軽率なミスが目立つので。ヴァランの怪我を考えるとCBの頭数が足りなそうだが、テンハグの場合ショーやマクトミネイCBもありそう。
SBはテレスを売却と考えて現状維持。ただ、レアードとワン=ビサカの序列が入れ替わる可能性もあり、その場合ワン=ビサカは放出されるかもしれない。個人的にはワン=ビサカが内側でのプレー覚えれば最強なので、今年1年は育成って感じで残して欲しいんですけどね。
MF
ボランチは1枚確実に必要。ガーナーは本人のためにも、ノッティンガム再レンタルでもいいのかなと。
「エリクセン右で使わんのかい!」という声も聞こえてきますが、これまでテンハグは外に張っても仕事ができるWGを置く傾向にあるので。それよりも、ダブルボランチの一角に起用して保持時には相手のライン間で勝負するかたちが多そう。そうなると、相対的にVDBの立ち位置が下がることになりそうだけど、そこは相手によってうまく使い分けてほしいし、交代枠5枚なのでね。
WG
基本変わりませんが、チョンはアマドよりも個人的に印象良く、左利きWGとして戦力になりそうなので選んでみた。オランダ人だし(笑)。アマドの右サイド起用がまだないので純粋な比較はできていないけれど。
CF
ここはロナウドの去就によって大きく変わるポイントだが、ロナウド放出の場合を少し考えてみる。
当然補強は必要なのだけど、どういう選手が可能性としてありそうかというと、長身選手や空中戦に強い選手になるのかなと。昨年はハラ―、アヤックス政権前期にはフンテラールがいたわけで、マルシャルとの色分けという意味でも、技術が高く中盤での仕事もこなす9番というよりもいわゆるワンタッチゴーラータイプを狙うのかも。

4-2-3-1②

ツイッターでいっている方もいましたが、こういうオプションもありかなということで。
ブルーノ0トップでVDBやダブルボランチが飛び出していく形。18-19アヤックスのオマージュ的な。ただ単にブルーノ、VDB、エリクセンの3人の共演をみたいだけという説もあるけど…(笑)。
個人的にはこの場合ラッシュ真ん中もありだと思ってて、そっちの方がハマるかも。

4-3-3

最後に4-3-3パターンも一応。これは昨季のアヤックスのオマージュのつもり。ツイッターでも言ったんですが、アヤックスのWGの利き足が左左のところを右右にして、フレッジにグラフェンベルフ、ブルーノにベルハイスの役割を左右逆にして与えるかたち。詳しくは前編で。なのですが、「フレッジがグラフェンベルフ?」ってなるので、ポグバが残留していたらどういう使われ方していたのかっていうのはちょっと気になる。ピッチ外のことでほんとに構想外だったかもしれないけど。

Ⅲさいごに

まあまだPSMで自チーム、相手の両方が不完全な状態ですので、何とも言えないけど、確実に進歩していることがわかるかなと。それはプレー原則がしっかり設定されていたりとかいう部分で。
あとはそこにはまる選手をどう導くか、既存の選手の魔改造なのか、補強なのか、はたまた下部組織からの押し上げなのか。
正直その辺も含めてまだ未知数の部分も多いですが、3年かけて優勝を争えるチームを作ってくれればと思ってます。ちなみに僕はCL権取れなくても3年は続けてこのチームの完成形を見せてほしいと思っている派です。ネガティブな話はあまりしたくありませんが、みなさんは結果がついてこなかった場合、どの辺りで見切りをつけたいと思ってますか?(どの程度テンハグに期待感を持っているかということと比例しそう)という問いで終わりたいと思います。
でも今季もユナイテッドを楽しもうって気持ちは皆変わらないと思うので、今季もこのチームを見守り続けましょう!!では。

タイトル画像の出典
"File:Erik ten Hag 2017.jpg" by Кирилл Венедиктов is licensed under CC BY-SA 3.0.

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