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アヤックスを見て、来季のユナイテッドのスタイルを展望してみる【前編:アヤックスの6局面分析】

 さあ、CLが終わってもWOWOWに契約し続けていたバカです。決してWOWOWさんへの批判ではありません。WOWOW大好き。今回はそれを活かして、アヤックスのCLの試合を見て、6つの局面での簡単な分析をしてみて、来季のユナイテッドのスタイルを考えてみようの会です。最初に全8試合見る予定だったのですが、時間のマネジメントに失敗したため、グループリーグ6試合を見てのものなので悪しからず。ではいきましょう。

アヤックスの基本フォーメーション

アヤックスの基本フォーメーション 4-3-3

アヤックスの基本フォーメーション4-3-3。表記ではベルハイスがトップ下の4-2-3-1となっているが、これは後述する守備時の彼のタスクからくるものだろう。スタメン一人ひとりの特徴を少しだけ抑えておく。
GKパスフェール。御年38歳のベテランで、キャリアのどこで覚えたかわからないが、ビルドアップ、フィード能力はそれなりに高い。一方で飛び出しを積極的に行うタイプではなさそう。
CBはティンバーとリサンドロ。両者ともにスピード、パス能力、インテリジェンスの高さをもつ。違いとしては、ティンバーの方が単純なフィジカル能力が高く、リサンドロはアルゼンチン人らしい積極性で勝負するタイプ。ロングパスなどのフィード能力はリサンドロの方が高い印象だが、その分パスミスなども少しだけ見られる。ティンバーのパスミスは見たことがないし、ボールを運ぶ能力は彼の方が高そうといったところ。
右SBはマズラウィ。足元の技術はもちろん、状況に応じたポジショニング、内外の走り分けをするなどかなり賢い選手。スピードもかなりあり、高速で内側のレーンを駆け抜けてWGのアントニーをサポートすることが多い。
左SBはユナサポが愛して止まない(はずの)ブリント。SBにおいて最も重要な要素の1つであるスピードには欠けるが、高い足元の技術、正確無比な長短のパス、インテリジェンスの高さで勝負するタイプ。近年ではそこに経験からくる守備の読みなどの能力も加わり、32歳ながらキャリア全盛期を迎えている。
アンカーはエドソン・アルバレス。ほぼロドリ(雑)。真面目にいうと、手足の長さとアジリティの高さを生かしたしぶとい守備、チームを助けるポジショニングとリズムをつくるダイレクトプレーと派手さはないがこのチームの核の一人といって間違いない。巷ではマルケス2世といわれているらしい。
IHの2枚はベルハイスとグラフェンベルフ。ベルハイスはWGからコンバートされた選手で技術の高さに加えて高い献身性からベルナルドシルバに近いものを感じる。グラフェンベルフがポグバ2世といわれているのは有名な話かと。ポグバの角を丸くしたような選手で、ポグバほどの「スーパーさ」を見せるプレーは多くないが、献身性が高く、球離れも良いためアンカーも任されることがある。
右WGはみんなご存じアントニー。あの方のせいなのか、自分はこの名前から愉快そうな人をイメージするのだが、彼のプレーは切れ味鋭いジャックナイフそのもの。ブラジル人らしいドリブルと左足の高いキック精度からアシストを量産。このチームの中で異質で、タイプは少し違うがシティでのマフレズに近い存在。
左WGはキャプテンのタディッチ。0トップで名を馳せた彼だがハラー不在時以外ではこの左WGが主戦場となっている。説明不要のパス、ドリブルの技術に加えて、攻守両面で状況・配置に応じたポジショニングをとる能力も高いため、縦への突破能力がそれほど高いわけではないが、左サイドで新境地を開拓している。ちなみに都並さんがこのタディッチをべた褒めして、第5節スタメンだったダラミ―のポジショニングをこき下ろしていたくらいだ。
最後は1トップのハラー。アヤックス入団直後からゴールの量産体制を築き、ウェストハムでの不振からカムバックした選手。上背を活かした空中戦の強さはもちろん、足元の技術も高く、中盤に下りてきて散らすプレーやボールをキープする能力も高い。このアヤックスはハラーが点を獲るために構築されているようなところはあるが、彼のこれだけの活躍はいわゆる「得点への嗅覚」や駆け引きの面においても向上が見られることの現れなのかと。

アヤックスの6局面

6局面とは、サッカーにおけるチームとしての振る舞いを理解しやすくするために分けられた従来の4局面である「ボール保持」「ボール非保持」「攻⇒守の切り替え」「守⇒攻の切り替え」において、「ボール保持」の局面を「ビルドアップ」(主に自陣)「崩し」(主に相手陣内)、「ボール非保持」の局面を「プレッシング」(主に相手陣内)「撤退守備」(主に自陣)のそれぞれ2つに分けて、サッカーの局面をさらに嚙み砕いたものである。ほかの方のブログを見て、確かに―って思ったので、今回は6局面にしました。

(1)ビルドアップ

ビルドアップの原則

アヤックスのビルドアップ①(第1節スポルティング戦)

まずはアヤックスのビルドアップを左サイドに焦点を絞ってみていこう。右サイドと左サイドで人の配置は少し異なるが、基本的な考え方は同じである。それは3つ以上のパスコースを確保するためのトライアングル・ひし形の形成、幅を取る、ピッチ全体の配置を「逆三角形」のかたちにする(逆サイドのSBは中に絞り、WGはワイドに張る)である。
左サイドの場合、ブリントがワイド気味のポジショニングを取っている分、WGが最初から幅を取らない。リサンドロからブリントにボールが渡ると、IHのグラフェンベルフがサイドに流れる動きを見せ、ボールに対して幅を確保し、その空けたスペースにアンカーのエドソンが入ってトライアングルを形成する。状況によってはタディッチやハラーもボールに関わる動きを見せ、パスコースを確保する。また、右SBのマズラウィも内側に入り、中央を経由したサイドチェンジの際のパスコースをつくっておく。

アヤックスのビルドアップ②(第1節SPO戦)

相手が中央のパスコースを消し、ボールが幅を取るグラフェンベルフに渡っても、さきほどの原則は変わらない。今度はWGのタディッチがサイドに流れる動きを見せてパスコースを確保し、タディッチの空けたスペースにハラーが顔を出して、エドソンもボールに近づくことでサイドでひし形やトライアングルを形成。ハラーの代わりに逆のIHであるベルハイスがその空けたスペースに斜めのランニングを行う形で相手DFラインと駆け引きを行う。

アヤックスのビルドアップ③(第1節SPO戦)

タディッチにボールが渡れば、そのまま左サイドでの「崩し」のフェーズに入るし、ハラーやエドソンにボールが渡った場合にもそこから相手を押し込んでの遅行や図のようにそのまま右サイドの「崩し」に突入する場合もある。
右サイドの場合、WGのアントニーが最初からワイドに張っているため、マズラウィが偽SB的な動きを見せたりしながらSB+WG+IH+アンカーがお互い近い距離感で相手のプレッシングからの突破を狙う。アントニーが少し降りてきてその空いたスペースにIHのベルハイスが飛び出したりなど連動性のある動きが見られる。

少ない人数でのビルドアップと選手の個人戦術

このシーンのGKからの展開を見るとわかるように、アヤックスは低い位置からのビルドアップをCB+アンカー+SBの5枚で行う。相手のハイプレスに対して4-3-3を採用する多くのチームがDF4枚+アンカー+片方のIHの6枚で行うことが多いが、アヤックスのIH+WG+CFの5枚はできる限り降りてこないで、後方のスペースを確保する。もちろん、右のIH(特にクラーセンの場合)が降りてくることもあるが、その際は右SBが高い位置をとるなど、基本的にはGKを入れて5枚もしくは6枚で行うこととなっている。
ビルドアップの選手の枚数が少ない分、後方の選手の止めて蹴るの技術、今どのポジションが最適かという個人戦術の高さが求められる。この動画のエドソン、ティンバー、マズラウィのように自身のアンカー・CB・SBというフォーメンション上のポジションの概念に囚われずに選手一人ひとりが「空いているスペース」「空けたいスペース・パスコース」を考えたポジショニングや動き出しが繰り返し行い、「最少人数でのビルドアップ」を目指す。

リサンドロの「3人目の動き」を考えたポジショニング(第3節BVB戦)
ティンバーのスペースを空ける動き(第3節BVB戦)
レンシュのトライアングルをつくる動き(第6節SPO戦)

この3つの図のように彼らの「ポジション」の概念はDFなどの区分ではなく、そのときの「最適の配置」なのでCBだからゴールに近くにいないといけないというような意識が少ないので、アヤックスでは最少人数でのビルドアップが成立している。

GKからのロングボール

この動画の0:12のようにGKパスフェールからのロングボールも多い。選手が積極的に降りてこないアヤックスの場合、激しいプレッシングを掛けてくる相手にショートパスによる構築が不可能な場合もそれなりにある。パスフェールはそこで強引につなごうとせず、サイドの深いエリアやハラーを的にハイボールを放ることも少なくない。
ビルドアップのために降りてこない5人の選手がそれに反応することとなり、相手もプレッシングを掛けるために中盤が間延びしているため、このボールを拾っての一気の速攻や陣地の回復を狙いやすい。ただ、タディッチが1トップの場合は選手が降りてでもショートパスによる構築をすることも多い。

(2)崩し

左サイドの崩し⇒オーバーロードとトライアングルの循環

アヤックスの崩しの基本は、「左サイドオーバーロードと右サイドでのアイソレーション」といってもいい。先ほどのビルドアップと同様に左サイドに選手が多く集まり、右サイドに展開した際に広いスペースを活かしたアントニーの仕掛けからフィニッシュにつなげるというやり方だ。もちろん、右サイドに選手が集まったところで左サイドに展開というケースもあるので、「同サイドに選手が密集して、そこで崩すor逆サイドに大きな展開」ということだが、圧倒的に左サイドがオーバーロードしている割合が高く、選手の特徴を活かした戦い方になっている。

この得点シーンのように左サイドの崩しに右のIHのベルハイスまで加わっていることがアヤックスの攻撃の特徴。そしてタディッチがボールを持ったときに上述した「サイドに流れる動き」をグラフェンベルフが行い、その空けたスペースにベルハイスが入って、最後はタディッチのドリブルのスペースを空けるためにポジションを取り直し、得点している。

左サイドのトライアングルの循環①(第2節BES戦)
左サイドのトライアングルの循環②(第2節BES戦)

このシーンはタディッチが中央にドリブル突破を仕掛けたことによる崩しだが、多くの場合は相手が中央のスペースを埋めるため、サイドに流れたグラフェンベルフにボールが渡ることとなる。グラフェンベルフがワイドな位置でボールを持つと彼のリーチの長さとフィジカルを活かして、相手から遠い右足でボールをキープしながら移動してサイドの深いスペースを空けて、そこにベルハイスが入っていき、中央にタディッチが入るという「トライアングルの循環」「再構築」を行うことで、相手のマークの混乱を狙う。
そのトライアングルの循環に、エドソンやブリントもそこに加わり、相手ブロックを崩したり、サイド攻撃を仕掛ける。仮に崩せなかったとしても相手を左サイドに集結させ、右サイドでのアイソレーション(1on1)につなげていく。

右サイドの崩し⇒アントニーの仕掛けマズラウィのインナーラップ

この2つのシーンのように上述したような崩しで、味方も相手も左サイドに集結させ、右サイドに素早く展開してアントニーに勝負させる。このときに右SBのマズラウィは近すぎず、遠すぎない適切な距離で相手CBとSBの間に走り込み、アントニーのドリブルのスペースを確保する。

右サイドの崩しとエドソンのポジショニング①(第2節BES戦)

相手が11人でもやり方は同じ。マズラウィがインナーラップを行い、そこにマーカーがついていかなければマズラウィにパスを供給。DFが釣られたらアントニーが斜め後ろにドリブルしゴールに近づく回転のアーリークロスを挙げる。

右サイドの崩しとエドソンのポジショニング②(第2節BES戦)

この際にエドソンやティンバーが3人目として崩しに参加し、アントニーに横や斜め後ろのパスコースを確保してアントニーの仕掛けをサポートする。

相手が集結したときの右サイドの崩し(第1節SPO戦)

相手が右サイドに集結したときでも、アントニーのドリブルのスペースを確保しながら前・横のサポートを増やしてフィニッシュにつなげる右サイドの崩し。ただ、このときにハラーがボールに近寄ることはなく、必ずボールから遠いエリアもしくはゴールに近いエリアでクロスを待ち、駆け引きを行う。この原則によってハラーが得点を量産する仕組みになっている。

(3)プレッシング

プレッシングの原則と基本形

支配的なサッカーを志向するテンハーグ・アヤックスは、当然、相手陣内でのハイプレスを行い、ボールを相手から取り上げ、自チームの速攻・遅攻につなげる。

この動画の0:26の得点シーンは相手のビルドアップをプレッシングによりボールを奪っての得点となっている。

プレッシングのかたち①(第1節,第6節SPO戦)
プレッシングのかたち②(第3節,第4節BVB戦)
プレッシングのかたち③(第2節BES戦)

相手の配置に受動的である分、試合によってプレッシングの配置や約束事は多少異なるが、基本的な原則は決まっている。それは1⃣4-3-3の配置2⃣「人」を強く意識する守備3⃣GKまでプレッシングをかけるの3つである。
1⃣4-3-3の配置とは、基本的に4-3-3の配置を崩さないということ。状況に応じてSBが縦スライドをすることはあるが、中盤の3枚が列を上げて、逆にWGの選手が中に絞って4-4-2のようなかたちになることはない。
2⃣の「人」を強く意識する守備は1⃣の中盤が列を上げないことと繋がる部分があるが、BVB戦でのプレッシングのかたち②のように、3トップから後ろの選手は一人ひとりマーカーを請け負い、受け渡すことは合っても、自分のマーカーにパスが入ったら激しく当たれる距離に常にポジションをとる。中盤はほぼマンツーマン気味に相手をマークして、ボールから逆のサイドの選手はもちろんマーカーを捨てて、中央のスペースを埋める。
3⃣はそのままで、基本的にハラーがCB1枚のパスコースを切りながらGKまでプレッシングを行い、相手の選択肢を限定する。
(「崩し」でもその傾向にあるが、)これら3つの原則はビエルサのリーズに似た部分がある。ただ、ビエルサのリーズの場合はIHの選手が飛び出したりする一方で、アヤックスの場合は基本的にWGが相手SBへのパスコースを切りながらCBにプレッシャーを掛けることで相手の攻撃を中央に限定し、中央で待ち構える「マンマーク軍団」でボールを刈り取る。相手の縦パスが入ったときのプレスバック・収縮もかなり激しいものがあり、そのあたりはリヴァプールに近しいものがある。
ユニットでいうのであれば、4-3-3の3トップが相手の攻撃エリアを限定するユニット、4-3の7枚が相手のパスコースを切り、ボールを刈り取るユニットといえる。

プレッシングの弱み

プレッシングの弱み①(第3節,第4節BVB戦)
プレッシングの弱み②(第5節BES戦)
プレッシングの弱み③(第1節,第6節SPO戦)

アヤックスのプレッシングにおける弱みはWGが相手CBまでプレッシングにいく分、コースを切っている「WGの裏のスペース」である。ドルトムント、ベシクタシュ、スポルティングとアヤックスのプレッシングに対してどのチームも準備しながら、この「WG裏のスペース」へのボールの供給を意識していた。もちろん、アヤックスのプレッシングの強度が勝ってボールを奪うことは多かったが、このスペースにボールが供給され相手に前進されることも少なくなかった。
リヴァプールの場合、相手のアンカーポジションの選手も3トップの選手が見るので、WG裏にボールが渡った際にもIHの選手が素早く対応することができるが、中盤がマンツーマン気味のアヤックスはWG裏のスペースをSBがケアすることとなるため、その分後方のスペースも空いてしまういわば「諸刃の剣」のプレッシングといえ、そこが弱みになることもある。

また、このシーンのように極端なハイラインを敷く分、その裏に広大なスペースがあることも弱みの1つである。これはプレッシングをするチームの宿命ともいえるが、アヤックスの場合はそれが顕著。恐らくこのシーンはリサンドロが長いボールは出ないと判断して前方のロイスをマークをしてリスクを負ったが、フンメルスの素晴らしいパスがティンバーとの間にできたギャップに走りこんだハーランドに渡ったと推察できる。これは何もリサンドロのミスではなく、チームとしてドルトムントのビルドアップに対するプレッシングを修正した故のピンチであり、その攻撃性が裏目に出ることもあるのがアヤックスの超攻撃的プレッシングの弱みとなる。

(4)撤退守備

基本的にここからは言うことがないので、短めにいこうと思う。
なぜ、撤退守備について言うことがないかというとボールを多く保持し、相手陣内で激しいプレッシングを掛けるアヤックスにおいてこの撤退守備の局面はあまり多くないからだ。
4-1-4-1の陣形で中央のパスコースを限定し、相手をサイドに誘導することを基本とするが、ここでも「人」に対する守備の意識が強くWGが高い位置を取る相手のSBをマークするためにDFラインに入ったりもする。
相手のバックパスを起点にプレッシングのフェーズに入ることを常に狙っており、相手がバックパスをすると、DFライン全体が押し上げて前線の選手もスプリントし、上述したプレッシングフェーズに入るためにボールホルダーのパスコースを限定していく。

(5)攻⇒守の切り替え(ネガティブトランジション)

大体のチームの攻⇒守の切り替え、いわゆるネガティブトランジションのときの選択肢としては①即時奪回を狙う②陣形を整えて、「プレッシング」のフェーズに移行③陣形を整えて「撤退守備」のフェーズに移行の3つに分けられるが、アヤックスはもちろん①のいわゆるゲーゲンプレス(カウンタープレス)を行う。
上述したように、アヤックスはボール保持の際に逆サイドのWG以外のほとんどの選手がボールサイドに近寄り、近い距離で連携するわけだが、これはボールを奪われた際の即時奪回を狙う際にも機能し、多くの選手で相手を囲い込み、ボール狩りを行うのがこのチームの強みだ。その際のキーマンはアンカーのエドソンで彼は後ろで待ち構えるのではなく、ボールホルダーに即座にプレッシャーを掛けたり、その近くにいる選手の自由を奪うためにどんどん前に出て相手に圧力を掛ける。
そのため、アヤックスのカウンタープレスはかなり強烈なものだが、これまた諸刃の剣でエドソンの背後のスペースにボールが入ると、待ち構えるのは2CBと逆サイドのSBの3枚、ときにはCB2枚のみの場合もあり、第4節BVB戦、第5節ベシクタシュ戦の失点はこのカウンタープレスを剥がされての失点だった。

(6)守⇒攻の切り替え

アヤックスにおいて、守⇒攻の切り替えいわゆるポジティブトランジションでは縦への速い攻撃を狙う。相手の陣形が整う前に攻めるというのは現代サッカーのセオリーだといえるが、アヤックスはそのイメージと裏腹にブンデスリーガのチーム並みにその「縦の速さ」に対する色合いは濃い。
自陣でボールを奪ったりロングボールのこぼれを拾ったときには多くの選手が縦へスプリントしてロングカウンターを仕掛け、プレッシングでボールを奪った際に縦へつけることをまずは狙う。極端に裏にほうるということはないが、チーム全体としてポジティブトランジションにおける縦への速さは共有されているようにみえる。

まとめと感想(長いと思った人はここだけ読んで)

(6)でも言及したようにアヤックスやテンハーグといえば、配置を整理して相手を殴るというポジショナルプレーというイメージが強いが、意外と縦に速い攻撃や切り替えの早さで勝負するストーミング系に近いものがあるのかなと。
もちろん、シティとリヴァプールに見られるようにこの2つは相反するものではなく、現代サッカーではこの両方の要素が求められ、両者の概念は近付いているといわれるが、上述したようにその塩梅や色合いにチームの特徴や監督の思想が色濃く表れる部分である。
それを踏まえるとテンハーグはオランダ人でバイエルンでのコーチ経験などもあることから、ポジショナルプレーの源流であるクライフやペップの影響を強く受けていることは間違いない。ただ、アヤックスにおいて①ロングボールを有効活用していること、②ボールサイドに多くの選手が集結し「整理されたカオス」を生もうとしていること、③ボールホルダーに対してバックパスをもらえるようなマイナスのサポートよりもプラスのサポートを多く行うこと重視していることなど、ストーミング系のチームに見られるようなプレーが多い。恐らくストーミングの聖地であるドイツでペップの下で研鑽を積んだことがテンハーグのこの思想とチームスタイルに大きく影響しているのではないかと考えられる。
つまり彼はポジショナルプレーとストーミングの攻撃性の融合によって超攻撃的チームをつくる野望をもっていることが伺える。ただこれには個人戦術、足元の技術、フィジカル能力と選手にかなり質の高さが求められるいわば「机上の空論」でもある。
結果から判断すると、エールデヴィジにおいてそのチームを創り上げることができたといえるが、それを相手の質がかなり上がるプレミアリーグで実現できるか。ハードルは高いが、それを実現できた先にはプレミアリーグやCLでの栄光が待っているはず。かも。

後編に続く⇒

タイトル画像の出典
"ajax amsterdam" by pupismyname is licensed under CC BY 2.0.


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