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パラサイト半地下の家族 の妹ギジョンについて考える

例の日本用ポスターの改悪問題で、なんとな〜く話題作と知っていたけれど、オスカー旋風に乗るがままに、鑑賞してきました。

※そこから推敲を重ねていたら、更新まで1ヶ月近くかかったよ。

オスカーから一夜明けたばかりの祝日、いつもは閑散としている地元のシネコンが、まさかの超満員。いつか潰れるのでは?と戦々恐々としてただけに、オスカーの経済効果よ偉大なり。

※以下ネタバレ含みます!!!!とにかくこの映画はなんの情報も入れずに見て欲しい!!!!



貧乏一家の兄妹

半地下に住む貧乏なキム一家の末妹キム・キジョンは、美術の才能はあれど予備校にも通えず、兄ギウと同じく燻っているフリーター。そんな中、兄ギウに舞い込んだ金持ち一家の家庭教師の仕事のために、ソウル大学の在籍証明書をネカフェでさくさくと偽造。父・ギテクからは「偽造学科なら首席で入学できる」と褒められます。

ここのね、ネカフェでくわえタバコで作業していたら、店員に「ここは禁煙よ!」という言葉にも物怖じもせず、店員が下げようとした空の辛ラーメン(そうここちゃんと辛ラーメンなの)を手に取り灰皿にするシーン。なんとも言えないヒールさがあるんですよ。

そしてギウのツテで絵画療法士として金持ち一家のパク家に潜入するときも、インターホンを押す前に飄々と「ジェシカ・ソング」を歌います。

この「寄生」は兄が仕掛け人なのに、この兄はどこか人がいいというか、不器用というか。そもそも真っ当に家庭教師をすればいいものを、わざわざ家族にまで仕事を宛がって行くなんて、長兄らしい「面倒みのいい」側面があるんですよね。その反面「慎重で臆病さ」がある。このインターホンのシーンもどこか頼りなさげに息を呑むのですが、末妹の「そつのなさ」が兄をカバーします。

兄弟を持つものなら誰でも染み付いている「役割」が作品に組み込まれているのも巧みでした。韓国は家父長制が根付いているのを感じましたね。兎にも角にも、ご近所にこんな兄妹が居たらおっそろしいなぁと感じるくらい、絶妙なタッグが組まれます。絶対ファミコン貸さない。ドラクエのセーブデータ勝手に消しそう。

特にパク・ソダム演じるギジョンは、特徴的な一重まぶたで、飄々とした出で立ち、陶器のような肌も、パッと見地味に感じますが、アジアンビューティーの妖しさもあり、「こいつぁ、とんでもねぇ悪役だ!」と思ってしまうんですよね。こういう顔の嫌がらせしてくる御局様OLいるんだわマジで。

しゃべくり007でも有田が「金持ちの妻(チョ・ヨジョン)もいいけど、パク・ソダムの靴を舐めたい!」って言ってましたわ。わかる。

しかしこれはミスリードだと後に気付かされます。


妹ギジョンの叫び

ギジョンが仲間入りすると、トントン拍子でドライバー役を父に、家政婦役を母にあてがい、パク家に寄生していきます。

特に運転手の兄ちゃんに口説かれるシーンでは、「安物買いの銭失い」とばかりに相手にせず、自分の履いていたパンツを脱ぎ捨てて彼を失脚へと追い込みます。ここもね、しつこくギジョンを家へと送りたがるんですが、「だめだめ、半地下に住んでることがバレちゃう!」とヒヤヒヤさせられつつも、「イリノイ州に留学に行っていた娘の実家はさぞ豪邸だろう」という浅ましさが滲み出てるんですよね。所詮は彼も運転手で、キム一家ほどではないにしろ、挫折を味わってきたのかも。

物語中盤で父が「あの運転手の彼は新しい仕事につけているかなぁ」と心配するのですが、ギジョンは「そんなことより、私たちのことを心配して!」と叫ぶと同時に雷が落ち、ここからは予想だにしなかった展開へ。

家主のいない家、誰かから監視されているようなガラス張りの居間、降り続く豪雨。キム家族が手に入れたまやかしの「裕福」は不安定で脆いものでした。

そして判明する、さらなる地下の住人の存在。

このからの驚天動地はまさに見事で、ワンシーンごとにヒヤヒヤ、ハラハラ。そしてついに「殺人」を犯してしまうんですよね。事故ともいえなくはないが、人が死ぬ。

鑑賞中、ケタケタよく笑うおば様がいたんですが、元家政婦のムングァンが階段から落ちる際に、「あはははっ…えっ!」って言葉を失っててまして、確かにあかん落ち方したよね。いよいよやっちまったな…!と心の中で共感(笑)

それまでは、確かに犯罪なんですが、結果として見れば軽微なものに思えます。身分は偽っていたとしても、仕事はしっかりこなしていますし、何かを盗んだり、壊したりはしていない。なので、ここで完全に取り返しのつかない罪を犯してしまうんですよね。

なんとかその場を凌いで逃げ出すのですが、ずぶ濡れのドブネズミのように半地下へ逃げる様子。地下に向かって流れ落ちる水流は今にもキム家族を飲み込んでしまいそう。この上下の構図がまさに貧富の格差を表していて、この格差は埋まらないんだと明示させられます。

息も絶え絶え、せっかく豪邸の風呂に入ったのに服も髪も靴もぐっしょり濡れて、もしかしたら殺人をしてしまったかもしれないし、ムングァンが生きていたとしても今までの悪事が露見してしまうかもしれない。

さらに、兄のギウは「ミニョクだったらどうするかな」なんて頼りないことを言い出すし、いよいよキジョンは「計画はないの?!」と懇願します。

今までの計画はすべて兄妹が主導となっていましたが、その計画の手綱を握れなくなった瞬間です。その時に頼りにしたのは一番頼りなかった父でした。

ここで、冒頭のミスリードに気付かされました。そうか、あくまでこの2人は「ご近所にいる悪ガキ兄妹」であって、「世紀の大悪党」ではないのだと。

そしてこのシーン!!!自分映画史に残る!!!どうしようもなくなったときって、とりあえず一服するの、喫煙者あるあるでは。私も大遅刻かましたとき、とりあえず寝起きの一服吸いますからね(笑)

この時、父は妻のメダルを、兄は友人から貰った石を持ち出すのですが、ギジョンは隠した持ってた煙草を吸うんです。自暴自棄、厭世観、このまま水死してもいい…そんなやるせなさ。半地下特有の殿様トイレ、恐らく下水が氾濫してもっとも衛生的には良くない場所なんですが、いちばん安全な場所というのも滑稽で、悲しい。

無計画に勝る計画などない

為す術もなくなったキム家族ですが、兄妹にせがまれて、父は「計画はある」と返しますが、その計画とは「無計画」でした。

この辺りで、私も「もうこれ以上罪を重ねても逃げることは出来ないし、罪を認めて引き下がる他ないだろう」という心情でした。もうヒヤヒヤさせられるのはゴメンだね!嘘に重ねる嘘はバレやすいですし、バレた時の怒りや恨みは根深いものになりがちですから。

なので父のいう「(水害にあって)体育館で寝たいと思ってここに来た人はいないだろう。」と諭すように言う台詞にも説得力がありました。頼りないなぁと思うでしょうが、だってキム家族は隣人です。特別なフォースはありませんから。
むしろここで、「お前らが引き起こした種だろ!」「おれは知らん!」となったら、ダメ親です。ソン・ガンホの演技力もあり、「家長」としての尊厳のようなものを感じました。

とにかく、キム家族は「犯罪」を犯してしまったので、どう足掻いてもゼロ地点には戻れないでしょう。ギウは大学にも行けないし、ダヘと結婚することもできないし、家は水浸しで唯一持ち出したのはただの石。ギジョンも同じくです。

ここで、「あーもうやだー死にたーい!」と痛烈に思ったんですよね。簡単に死にたいとかいうんじゃありませんよって言われたって、ムリポなもんはムリポです。

止まることなく、クライマックスへ

一方、お金持ちのパク一家ときたら、ガーデンパーティーをする!と言い出します。昨日の豪雨も「PM2.5がなくなって良かったわ〜」などといい、ギテクの「半地下の匂い」に鼻をつまむ。なんと呑気で無神経な、でも、そういうものだよね。東日本大震災のときも、昨年の台風15号の時も、パーティーはせずとも変わらぬ日常を過ごしていましたもの。「知らない」ことは理解できませんから。

昨晩の惨劇や脱出劇、家を丸ごと飲み込んだ豪雨も、たった一夜明けただけなのにパク家は日常を取り戻しています。明るい日差し、ケータリングのシェフ、楽器を演奏し、歌う人々。ギウはガラス一枚隔てた空間に、とてつもない「格差」を見せつけられます。進撃の巨人みたいな壁があればいいものを、ただガラスだけなのもまたやるせない…。

そして、パーティーでの惨劇。もう誰も悪くないよ…。キム家も、パク家も、ムングァン夫妻も。

ここでね。1番感情移入していたギジョンが亡くなってしまったこと。ひどく悲しかったのだけど、むしろ安心さえしてしまいました。だってこれから待ち受ける人生に比べたら、何倍もマシに思えて。この辺りの死生観も、日韓共通なのかな。自死出なく他殺、加害者から被害者への転換に安心してしまうのは、間違いなのかもしれないですけど。生きることほど辛いことはないのだわ。

「パラサイト〜半地下の家族〜」がオスカーを受賞した理由

いよいよクライマックス、事件後に父ギテクは豪邸の地下に潜んでいることを知り、いつかお金を稼いで助け出すと誓うギウ。まるでKーPOPアイドルも顔負けのスタイルで、母を連れ、あの豪邸に舞い戻り、父と抱擁するシーン。
おやおや、大団円のハッピーエンドか??と思いましたが、シーンは薄暗い半地下へ戻り、全ては「計画」で幕を閉じます。

正直ここでハッピーエンドになったら、マイナス星一つでしたよ。犯罪歴、事件のせいで脳に後遺症があり、まして学歴も職もないのですから、あの豪邸を本当に買ってしまったら薄っぺらなフィクションになってしまう。
オープニングに繋がるショットで、そこには父も妹も居らず、将来への希望すらもてない状態に陥って、より暗澹たる気持ちにさせられました。

ここでさ、「自業自得じゃん」って思ったらおしまいなんですよ。キム家は職を手にいれるために詐欺まがいなことはしましたけど、仕事中は真面目に取り組んでいましたからね。その能力はあるのに、就職するチャンスがなかっただけ。それって一部の富裕層に富が集中している社会の仕組みに原因があるんじゃないの?

あと、最近、ジョーカーのホアキン・フェニックスや、ジュディ虹の彼方にのジュディ・ガーランド、ミッドサマーのアリ・アスターなど「家族の絆」がかえって「毒」だったという作品に触れていたからか、このパラサイト〜半地下の家族〜については、本来の家族(夫婦・親子・兄弟)が持っている絆についても考えさせられました。

結果がどうあれ、登場する3家族とも家族愛はありましたから。パク家はちょっとドライですけど、ドンイクはまず家族の安否を最優先にしましたし、キム家夫妻も水害の時まずは妻のメダルを持っていきましたし、ムングァン夫妻も夜の営みやダイニングでの素敵な時間を過ごしてましたからね。家族の絆が、唯一この作品で希望のある設定でした。

とにかく最初から最後の1秒たりとも気が抜けなかった。ホームドラマやコメディ、サスペンス、ややホラーの要素もありながら、社会派な訴えもある。また、韓国文化の発信も多方面からされており(南北問題ですとか。あのモノマネ韓国人もするのね笑)、エンターテインメントとしてスキがなく、オスカーも納得の一作でした。ポン・ジュノまじで天才!

日本もこういう作品作れないものかなぁ。








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