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ドイツに住みたくなった理由

 「ドイツってどんなところ?」って聞かれると俺はいつも、「汚い、ざつ、時間をまもらない。」って答える。

 これを聞いて、どのように感じるだろうか。「汚くて、雑で、時間を守らない? 最悪じゃん。」そう思う人もいるだろう。でもよく考えてみてほしい。こんなんでも社会はきっちり成り立っているんだ。

 つまり、ちょっとくらい汚しちゃってもいいし、雑にやってもいいし、少し時間に遅れたってなにも問題はない。

 「なんてすばらしい国なんだドイツ!」って俺はいつも思う。

 対して、日本はいつもきれいだ。なんでもしっかりしている。いつも時間通りだ。じゃあなんで日本はいつもしっかりしているんだろうか。

 そこには道徳だったり、世間だったり、日本独特の文化がある。と俺は思う。

 それらは非常に強力な強制力を持っていて、人はいつもそれに従って動いている。ルールを破ることは厳禁であり、人に迷惑をかけてはいけない。自分で自分を律しているのだ。

 これに生きづらさを感じた人はいないだろうか。いつもちゃんとしなければいけない。人のために、世のために。じゃあ自分は?自分は大事じゃないのか?自分を削ってまで誰か知らない人のために働かなきゃいけないのか?なんだか納得がいかなかった。

 ドイツに横並びの文化はないし、なんなら縦の文化もあんまり見かけない。そこにはただ自由がある。スーパーでは店員は座って接客するし、客が多くても仕事のペースは変わらない。忙しいときなんかは怒りの感情が丸出しだ。でも、それに対して怒る客はいない。みんなどこか心の余裕を持っている。

 よく海外でも日本のスーパー、コンビニの接客は素晴らしいと評判になるが、労働者たちの苦しい環境にはあまり目が向けられない。特にコンビニなんかは、店長にほぼすべての責任が委ねられている。通常業務に加え、バイトの指導、スケジュール管理、給料の支払い、売上管理。かなり厳しい仕事である。

 それでも日本の客は毎日のようにクレームをいれる。店員は常に客のペースに合わせなければならない。もうこんなに頑張っているのに。ドイツで買い物をすれば、客も店員もいつも挨拶を交わし、相手がいい日を過ごせるように願う。もちろん、ただ口にするだけなのだが、それでも良い。だってそこには対等なコミュニケーションがあるから。

 ドイツで、俺はあるシールを見かけた。それは電柱にぺったりと貼ってあり、端はめくれていた。そこには黒のマーカーで「Work less Live more」とだけ書かれていた。働く時間を減らせ、長く生きろ。ということだ。俺には強く、深く刺さった。何のために生きているのか、もう一度よく考えろ。そう言っているようにも聞こえた。

 日本ではみんなのためにと、周りのためにと散々言われてきた。だから俺も子供のころから、みんなのために、人の役に立つ仕事を頑張らなければならないと、そう強く信じていた。でも、もっとよく周りを見渡してみてほしい。自殺者数は先進国内で一位、いじめは年々増加、引きこもりの数なんて正確に把握さえできてない。日本よ、これが美しい国なのか?

 日本には非常に多くのルールが存在する。その多くが、空気を読むことだったり、常識に従うことだったり、周りに合わせることだ。おかげで日本人の多くはおそろしく几帳面で、しっかりしていると言えるだろう。ルールに従っておけばいいので、器用な人は余計なことは考えなくていいし、人によっては非常に楽である。

 ドイツには自由があると言ったが、もちろんいいことばかりではない。自由だからこその問題も数多く出てくるものだ。皆が自由に表現し、発言し、ぶつかる。

 でも、自由だからこそ人は考え、妥協点を導き出し、考えを昇華する。だからこそ、全く違う思想を持つ人が出てきたり、少数派の声も通りやすい。度々問題にはなるものの、これは悪いことではないと俺は思う。ちゃんと解決していけばいいだけのことなのだから。そうすると、そこにまたコミュニケーションが生まれ、理解が生まれる

 俺はまだドイツに来て月日が浅いから、この国に対して期待の感情をこめすぎているだけなのかもしれない。でも、海外に出たことで、本当によく日本のことを深く考えられるようになってきた。いい部分もたくさんある。日本の風景は美しいし、なんでも整っているし、特に飯なんかは本当に美味しい。なんなら毎日日本食がいい。

 でも、俺は住むならドイツの方がいい。故郷を捨てるつもりはない。けど、人々に根付いた日本の古い思想はいつまでたっても抜けない。だから日本は変わらない。俺にとって日本は合わない。これは本当に人の好みだと思う。きちっとしたものが好きな人は日本が適していると思うし、無理に海外に出る必要もない。ただ、人のためにと自分を殺して苦しんでいる人がいるのならば、俺は一度海外にでることをお勧めしたい。そこにはもう常識は存在しないし、自分を縛るものもない。それを実感し、理解することができる。

 自分の居場所は自分で見つけるものだ。
 人に期待するのはもうやめた。

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