マガジン一覧

本を読む

退職老人の本についてのエッセー集

今月読んだ本 (22)

2025年1月  今年最初に読んだkindle本は、SAMANTHA HARVEY"Orbital"でした。未知の著者でしたが、昨年度のブッカー賞の受賞作で、おまけにSFだと聞いて、大いに期待して手に取ったんですが、期待外れに終わりました。地球を周回する狭い宇宙船の内部で過ごす、日本人女性一人を含む、宇宙飛行士6名(だったかな)の物語。といっても、ほとんど物語は動かない。立花隆さんが「宇宙からの帰還」で描いたような、宇宙で神と出会うといった宇宙飛行士たちの精神のドラマもない

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今月読んだ本 (21)

2024年12月  今月も、kindleで読んだ英語の本から。今月はMichael Connellyの"THE WAITING"を読みました。ルネ・バラードとハリー・ボッシュのシリーズ6冊目です。ハリー・ボッシュとの付き合いもずいぶん長くなりました。フィクションではありますが、ハリーは1950年生まれで、私と同学年です。娼婦の私生児として生まれ、ベトナム戦争に従軍し、無事帰還してからロサンゼルス市警の刑事になりましたが、目前の事件の解決に奔走しながらも、母親殺しの犯人や本当

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今月読んだ本 (20)

2024年11 月  谷川俊太郎さんが92歳で亡くなられました。漱石や鷗外が近代日本語をつくり出したとすれば、戦後の日本語をつくったのは谷川俊太郎だと私は思っています。 谷川さんの存在が消えても、その膨大な言葉のかずかずは消え去ることはありません。ご冥福をお祈りします。  例によってkindleで読んだ英語の本から。今月は、CAN XUE"VERTICAL MOTION"を読みました。CAN XUE(ツァン・シュエ)、漢字で書けば残雪は中国の女性作家です。もちろんペンネー

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今月読んだ本 (19)

2024年10月    今月kindleで読んだ本は、Yuval Noah Harari "Nexus"でした。 "Sapiens"(「サピエンス全史」)と"Homo Deus"(「ホモ・デウス」)が世界的な大ベストセラーになったことで、今や、現代世界を代表する知識人の一人と目されているイスラエルの歴史家の最新作です。"nexus"を辞書でひくと、つながり、集団、結合体、中核といった意味が載っています。この本の副題は、「石器時代からAIまでの情報ネットワーク小史」とありますの

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神須屋通信

神須屋通信のnote版 2020年11月以降 毎月更新

神須屋通信 #36

我が家の松の内  昭和100年、戦後80年でもある、巳年の2025年が明けました。関西では、門松が飾られる期間である松の内は15日までとされていますので、今回の通信は、「我が家の松の内」と題して、例年以上に忙しかった、この15日間を記録しておきたいと思います。  まずは元旦。現在の家に引っ越してきてから30数年、毎年必ず初詣をしている近所の土生神社に今年も参拝して、巳年の絵馬のついた破魔矢を頂いてきました。例年と違ったのは、見慣れない絵馬が社殿にたくさん懸かっていたことで

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神須屋通信 #35

「グラングリーン大阪」を見に行く  昔から建築と街づくりに関心があって、東京へ行くたびに変貌する渋谷の再開発の様子を観察しているし、(今年は渋谷ではなく、麻布台ヒルズを見物する予定です。)来年は生まれ変わった広島駅と長崎のスタジアムシティを見物するつもりです。そんな私が、地元大阪で、ここ十年近くずっと定点観測していたのは大阪駅の北側、通称「うめきた」地区でした。例えば、下の写真は2018年に撮影したものですが、大阪駅の地下駅の工事が進んでいますが、地上部の工事はまだ始まって

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神須屋通信 #34

 能登半島地震の被災者の方々に心よりお悔やみとお見舞いを申しあげます。  私が友人たちと奥能登の海縁にある「ランプの宿」に宿泊したのはもう何十年も前のことですが、ネットで確認したところ、「ランプの宿」には大きな被害はなかったようです。でも、当時訪れた輪島の朝市は消滅してしまいました。地震大国に住む身とはいいながら、なにも元旦早々こんなに揺らすことはないだろうと、何者かに恨み言を言いたくもなります。今はまだそんな事を考える時期ではないでしょうが、被災者の皆さんが少しでも早く日常

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神須屋通信 #33

イオン復活!  今回は地元の話題です。2020年の8月に閉店した「イオン東岸和田店」が、先月下旬、「そよら東岸和田」として復活しました。12年前に私は60歳で定年退職しました。嘱託として残ることもできたのに60歳で辞めたのは、子供も孫もいない気楽さもありましたが、一日も早く、読書三昧の生活を送りたかったからです。未読の本が溜まっていました。それに文章も書きたかった。でも、亭主が一日中家にいることが、家内にとっては大きなストレスになることにまでは思いがおよびませんでした。いろ

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旅をする

中江広踏の旅の記録

東京の旅・福井の旅 ③

 翌日の27日、水曜日の朝。私たちは東京駅から北陸新幹線に乗って北陸へ向かいました。途中、所用があったので富山駅で下車。昼食は、いつもの富山駅構内「すし玉」で食べました。普段食べている回転寿司とは、さすがにネタが違います。富山の寿司はおいしい。寿司を堪能したところで再び北陸新幹線に乗車。金沢駅を越えて、今回の延伸部分である福井駅まで乗って、そこで下車しました。福井では、駅前の「マンテンホテル」を家内が予約してありました。部屋は狭かったけれど、駅から近くて便利だし、大浴場が広く

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東京の旅・福井の旅 ②

 前回は、森鷗外、森まゆみさん、森ビルと、森づくしでしたが、今回も神宮の森をめぐるお話です。正確には、神宮外苑の話。   神谷町駅から六本木駅まで一駅戻り、大江戸線に乗り換えて青山一丁目で下車しました。次の目的地は神宮外苑です。大阪在住ながら、建築や街づくりに興味がある私は、数年前からの神宮外苑の再開発をめぐる様々な賛否の声にも関心を持っていました。地球温暖化の危機が叫ばれる中、都市においても更なる緑化が必要であることは理解しますし、そんな中で、せっかく豊かに育った樹木を伐

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東京の旅・福井の旅 ①

 11月下旬、東京を経て北陸へ行くという旅をしました。今年の3月に北陸新幹線が福井県の敦賀まで延伸されたので、その様子を見に行くというのが旅の目的でしたが、どうせなら、昨年行けなかった東京にもついでに行こうということで、今回の東海道新幹線と北陸新幹線を乗り継ぐ3泊4日の旅になりました。  まずは東京。昼過ぎに品川駅に着き、今回の宿舎である品川プリンスホテルに荷物をあずけ、巨大ホテルの構内にあるフードコート「品川キッチン」で急いで昼食をすませた私たちが向かったのは、千駄木にあ

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2024夏ダイプリの旅③

 済州島&静岡  北海道を離れたダイヤモンド・プリンセスは、日本海のほぼ中央部を南西に向かって二日間に渡って航行し、昨年と同じ、済州島南部の西帰浦市にある江汀クルーズ港に入港しました。終日航海日には船内で洗濯をしたりデッキを散歩したりして過ごしますが、二日も続くと退屈します。でも、船内で知り合った人たちの中には、終日航海日の多いツアーを選ぶという人もいました。そんな人は、寄港地に着いても下船せずに船内で過ごしたりするそうです。船旅そのものが好きなんですね。まあ、船内は快適だ

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モノを書く

中江広踏の連載小説のまとめ他

八道湾の家・魯迅と周作人

                           中江広踏     まえがき  ここに掲載するのは、私の義父、首藤功一郎の遺稿「八道湾の家」です。首藤は長年中国駐在の通信社の記者をしていましたが、退職後はいくつかあった大学や専門学校からの教職の依頼を全て断って、自ら小さな中国語の塾を営んでいました。もう宮仕えは嫌だと言うことだったようです。それでも、書くことは好きだったのでしょう。あちこちからあった原稿の依頼には応えていたようで、自宅には寄稿した文章が掲載された会報や

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申叔舟の航海(小説)

                             中江 広踏                      「府事様(ブサニム)!」と叫ぶ、護衛官尹昌儀の甲高い声に振り返るのと、顔の横を矢が通り過ぎるのがほとんど同時だった。幸い、矢はそれたが、矢の風切音が申叔舟の聴覚ではなく触覚として感じられるほどだった。危ういところだった。日本語、朝鮮語、明国語、琉球語の怒号が乱れとんで、屋敷中が大混乱になった。客人たちは散り散りに避難し、警護の武士たちは矢を放ったものを手分けして捜

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立山奇譚(短編小説)

 世界中で新型コロナが流行って、みんなが巣ごもり生活をしていた頃の話だ。もちろん、当時の流行語でもあった三密を避けて、室内でもマスクをしての話だが、いつもの仲間が集まって、「デカメロン」ごっこをしたことがある。「デカメロン」というのは14世紀のイタリアの作家、ジョヴァンニ・ボッカッチョの小説で、当時、フィレンツェでペストが蔓延した時に、上流階級の人々が森の館に避難して、毎日交代で面白い話を披露するという物語。以下に紹介するのは、その時の仲間の一人だった、紀平歩美さんが披露した

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千本松渡し a story #1/6

  一、北村まゆみから南希美子へのメール   南 希美子 様  「夏花」届きました。お手数をおかけしました。コピーを送ってくださいとお願いしたら現物が届きました。考えてみると、何ページもコピーする方がかえって手間でしたね。いつもの事ですが、私の考えが浅かった。でもこれで我が家に一冊しかなかった「夏花」が3冊揃ったので、私もようやく父が高校時代に書いた「幻の短編小説」の全容を読むことができます。同時に、南おじさんの高校時代の詩も。希美子おばさんが書かれた「虎とホーキ星」に

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