DSC04208のコピー

【人気漫画家座談会】「漫画家さんってどのぐらい稼いでるんですか?」マンガボックス編集長・安江亮太のスランプさんいらっしゃい

株式会社ディー・エヌ・エーが運営するマンガ雑誌アプリ「マンガボックス」。有名作家の人気作から新進気鋭の話題作まで、枠にとらわれない幅広いラインナップを擁し、オリジナル作品の『ホリデイラブ』はTVドラマ化、『恋と嘘』はアニメ・映画化するなど数々のヒットコンテンツを生み出してきました。
そんなマンガボックスの編集長を務めるのは安江亮太さん。今回は安江さんがファシリテーターとなり、人気漫画家3人と座談会を敢行。
前後編の後編となる今回は、漫画家のマネタイズの話をメインに、漫画家ってどのぐらい儲かるのか、紙とWEBの違い等について語っていきます。
前編はこちら→https://note.mu/mangabox_yasue/n/nae6a4af8184b

画像1

安江亮太
やすえ・りょうた
DeNA IPプラットフォーム事業部長 / マンガボックス編集長
2011年DeNAに新卒入社。入社1年目の冬に韓国でのマーケティング組織の立ち上げを手がける。2年目に米国でのマーケティング業務。その後全社戦略の立案などの仕事を経て、現在はおもにマンガボックス、エブリスタの二事業を管掌する。DeNA次世代経営層ネクストボード第一期の1人。
Twitter: https://twitter.com/raytrb

▼参加漫画家紹介

画像2

浦田カズヒロ
うらた・かずひろ
2009年『馬男-UMAO-』(週刊ヤングジャンプ)でデビュー。主な連載作に、『JINBA』(週刊少年チャンピオン)、『僕のおじいちゃんが変な話する!』(マンガボックス)、『もももも百田さん』(マンガボックス)などがある。YouTubeチャンネル「漫画家チャンネル」でも活動中。
Twitter:https://twitter.com/urata_k?s=17
Youtube:https://www.youtube.com/channel/UCOEEUZaHYDrgSFq5BHNMrlA

画像3

凸ノ高秀
とつの・たかひで
過去に週刊少年ジャンプ、『アリスと太陽』を連載。著作に『童貞骨稗』、短編集『蝉の恋』。また、Web にてオリジナル作品を多数発表するなど、幅広く活躍中。Twitter のフォロワー数は 56,000 以上の人気漫画家。
Twitter:https://twitter.com/totsuno?s=17

画像4

吉田貴司
よしだ・たかし
2006年「弾けないギターを弾くんだぜ」でデビュー。「フィンランド・サガ(性)」(講談社刊)「シェアバディ」(作画:高良百)(小学館刊)などを発表。2016年「やれたかも委員会」がネットで話題に。AbemaTVとTBSテレビでそれぞれドラマ化される。現在3巻まで(双葉社刊)発売中。
Twitter:https://twitter.com/yoshidatakashi3?s=17

お金がなくても、描いているときが一番乾きが癒えた

画像5

安江:吉田さんは以前noteで『やれたかも委員会』の収益を公表してましたが、反響はいかがでしたか?

吉田:おかげさまでたくさん見ていただけて、みんなお金の話が大好きなんだなと思いました。

“やれたかも委員会売上(2017年7月〜2018年6月の11ヶ月間。)
電子書籍の総売上 8,147,871円
note、cakesでの直販売上 1,586,338円
合わせると9,734,209円でした。
11ヶ月分なので1年分にすると1,000万円ぐらいになりそうです。
紙書籍は定価が950円なので、6万部で印税額は約570万円。”
バズった後のこと。やれたかも売上報告

吉田:1億2億となると「すげー」ってなってなると思いますけど、1000万という金額がリアルだし、ヒリヒリしている感じが伝わるかなと。

安江:あの記事は衝撃で、既存の仕組みじゃない漫画家のマネタイズについて、とても勉強になりました。お二人はどのような形でマネタイズしていますか?

凸ノ:僕は従来の出版社からいただく原稿料と印税、あとはネットでのPR記事を描いて生計立ててますね。吉田さんの動きを遠巻きにみていて、いいなあと思いながらもnoteや他のツールにまだ手を出せていない状況ですね。

浦田:僕も出版社からもらうのがメインです。ネットでファンボックス初めてみたり、YouTubeのチャンネルを作ったり新しい動きは少しずつしているのですが、まだ数千円レベルなので、今後大きくなってほしいなあと。

安江:そうですよね。前編ではどのようにしてブレイクしていったかを語っていただきましたが、最初の連載が始まるまでは給料が発生しないケースが多いじゃないですか。生活はどうしてされていたんですか?

凸ノ:新人は専属契約を結ぶ人も多いですよね。簡単に説明すると、バイトしなくても生きれるぐらいの金額は入ってきますが、契約するとその雑誌以外で描けなくなってしまうというもの。
僕は担当編集に聞いたら、契約料をもらうよりも、ネットのPR記事を受けてる方が稼げるだろうと判断されて、話もされなかったですね。話ぐらいしてほしかったんですけど(笑)。

浦田:僕の場合は2年間持ち込んでいた雑誌で、新人の専属契約を結んでいました。ただ、その前はアシスタントの時給が1100円とかなので、会社員時代の貯金を切り崩しながらなんとか食いつないでいましたね。実家暮らしというのも大きかったのかもしれません。

画像6

凸ノ:貯金は大事ですよね。僕も大阪での会社員時代に200万だけ貯金して上京してきたんですよ。それで東京では他にバイトはしないと決めたんです。

安江:えええ! 原稿料だけで食べてくってことですか?

凸ノ:そうですね。月の収入が3万の時期もありましたが、29歳で出てきちゃったので、ハタチで出てきた方に比べて、9年も原稿を描いている時間に遅れがあるんですよ。
その場合、バイトをしてたら追いつけなくて。だから自分でハードルを課して、絵の仕事だけしかしないと決めたんです。どこかで使う4コマを必死で描いたり、小さな仕事をひたすらやって、なんとか稼いでましたね。

安江:下積み時代はツラくなかったですか?

凸ノ:これ、結構重要な資質だと思うんですけど、僕下積み時代もそんなに辛くなくて、この歳でワンルームのボロアパート住んでるみたいな社会的立場みたいなものまったく気にならないんですよ。アパートで庭みながらカリカリ描いていて、楽しいなあと。漫画描いているときが一番乾きが癒えるというか。

浦田:なにかを決めるというのは僕もわかる気がして、僕は連載と連載にどうしても合間があるので、連載中にこそなるべく貯金をしようという考えなんです。なので、アシスタント代も細かく計算して、なんとか7~8割ぐらいは残すようにしてました。一回連載すると短期打ち切りになっても数百万は貯まるので、それがなくなる2年ぐらいで次を決めるぞと。

吉田:厳しい世界ですね…。

電子書籍の印税料率を徹底解剖!


安江:僕、原稿料と印税については、これまでの構造が厳しくなっているなと感じているんですよ。

凸ノ:どういうことですか?

安江:デビューのときの原稿料ってだいたい1ページ7〜8000円から、よくても1万円くらいじゃないですか。それに紙/電子の単行本が発売されて、印税が入ってくるシステムですよね。でもこの印税が今はキツい。

どういうことかというと、今までの作家さんって、毎月入る原稿料を食い繋いで、紙の単行本になったときに、まとまった金額が入ってたと思うんですよ。その印税も、実売じゃなく刷った部数に対して入ってくるので、出版社が2万部刷ったら、ドカっと入ると。
ただ、紙の市場が電子にシフトしている一方で、電子って実売計算で印税をお支払いするのが通例なんですよね。そうすると作家さんの手元に入るお金ってドカン、と入るのではなく、単行本の刊行を重ねるごとに増えていく。逆に言うと、連載開始初期の印税収益は少なくなっているので、漫画家さんが生計を立てるのが難しくなってきている

浦田:そうですね、僕らの時代はもうどかっと印税がもらえることはないですね。新人作家さんは刷っても1万2000部とかで。単行本が出たとしても、数十万しか入らないんだと。

吉田:10~20年前だとどんな新人でも2~3万部刷られていた時代ですもんね。

凸ノ:印税料率の話でよく、紙は10%、電子は15%って言われるじゃないですか。紙は印刷や物流に持っていかれるので理解できるんですが、電子の割合って謎ですよね。

安江:まさにそれで、なんで15%なのか、なんとなくで片付けられてしまっていて、誰も答えを出せていないんですよ。
この座談会を記事にするので、作家さんにも広く知ってもらえるように電子のシステムを簡単に説明しますね。これは運営元(出版社)によっても違うので、ざっくりですが、僕のわかる範囲ということを前提にして聞いて下さい。

画像7

まずアプリで単行本を販売する際は、売上の30%をアップルやグーグルといったアプリストアさんに決済手数料としてお支払いしています

凸ノ:えええ、そんなにとられているんですか?

吉田:そうですよね。僕も電子書籍の取次の会社で仕事をしていたので、なんとなくわかるんですが、プラットホーム(売り場)ががっちり抑えられてますからね。15年くらい前ならこの仕組みを変えられたかもしれないけど、もう無理ですね。

安江:で、この30%を含めて、電子書店さんの取り分が売上の半分前後。取次さんや作品の運営元(出版社)に残りの半分前後、で、作家さんには15%というわけです。
この運営元と作家さんでどう分配していくのかが重要で、僕はもっと作家さんに返していかなきゃいけないと思ってて、そのためのモデルを作ろうとしています。

浦田:確か、KDP(キンドルダイレクトパブリッシング)というキンドルの専売で自分でやると、70%とか作家に返ってくるんですよね。

安江:各種制約はあるとは聞きますが、そう言われてますね。これ、吉田さんのようにできる人はもちろんやった方がいいと思います。ただ、僕らオリジナルから作っている運営元は、営業担当が電子書店さんに足繁く通っていて、「今度この作家さんの新刊がでるので、無料施策やってください」と交渉を重ねることでランキング1位が取れたりするんですよね。

浦田:作家さんがそれを全部一人でやりきれるというと、少なくとも描きながらというのは難しいですね……。

安江:こういう話しをすると対出版社という二項対立に捉えられがちなんですけど、僕が改めて思うのが、既存の出版社の役割ってしっかりしてるなということで。
大手出版社は売るところがしっかりしているので、作家さんが作品に専念できる構造ができている。僕ら電子の出版社はここを強化していかないといけないわけです。

吉田:とても面白かったです。ちなみに素朴な疑問なんですが、マンガボックスって儲かってるんですか

安江:頑張ってます! うちの売上って主に3つあって、オリジナル作品を作る、他社さんのものを売る、そして広告です。その中でいま一番勢いよく伸びているのがオリジナル作品なんですよね。自社で作って自社プラットフォームでも他社電子書店でも売ると。新しい形の電子出版社になってきているな、と思っています。

作家なのに単行本化する権利がなくなる!? 契約書のトラブル

画像8

安江:今ホットな話題なので、マネタイズとの話に絡めて質問したいんですけど、作家さんは出版社との契約書を交わしているものなんですかね。

浦田:あー、そうですね。連載が始まるときはほとんどなくて、単行本を出すときにって感じですね。

凸ノ:そこまで厳密ではないかもしれないですね。全部の案件契約するかと言われたら、ないですよね。

吉田:僕は契約書は自分でも読みますし、読んでもわからないところは行政書士さんに聞きます。先方にも条件を割とはっきり伝えます。そうしないと漫画を描いてる間にも、その後にもストレスになってしまうので。

安江:契約書ってめんどくさいなと思う反面、必ず締結しなければいけないものです。契約書は作家さんを守るためにも必要だなと。

凸ノ:ちゃんと読まなきゃと思うんですよね。昔とあるところで連載していたときに、単行本にできないという契約になっていたことがあって、連載のみで紙にも電子書籍にもできなかったんです。
「こっちで勝手にやっちゃだめなの?」とも言ったんですが、それもできなくて。

吉田:僕も全く同じケースに遭遇したことがあります。

契約は結ぶ・結ばないも大事なんですけど、嫌だなと思ってることを言えるか言えないかがもっと大事で、言えなかったら契約書を結ぶ意味がないんですよね。新人のうちはどうしても「漫画を載せてもらう」という立場なので、言えない気持ちもわかるんですけど、SNSとかでバズってると強く出れたりもするので、そういう交渉力というか胆力は必要なんじゃないかと思います。

凸ノ:このケース吉田さんはどうしたんですか?

吉田:僕はその連載の時は原稿料さげてもいいから、電子の権利をくださいって言って結び直しましたね。あとでまとめて自分で電子書籍にして出そうと思って。先方も承諾してくださったし、辛抱強く間に入ってくださった編集者さんにも感謝です。
でもまあ、それで描いた漫画を改めて読み返したら、あんまり面白くなかったんですけどね(笑)。

安江:作家さんはご自身の作品を手元に残していたいですよね。めっちゃわかります。
言えることはどんどん言ってもいいと思いますけどね。クリエイターさんが自己発信する世の中で、一緒にやっていくパートナーじゃないですか。そこを無視しても今の時代、無理な話なので。

凸ノ:あー、自分が何社とどんな契約してるかわからないのが怖くなってきた(笑)。
どこがどんな契約だったっけっていうのを、ちゃんと細かく読まないとなあ。

今スランプのクリエイターへ言いたいこと

画像9

安江:この記事が何か考えるきっかけになってくれたら嬉しいです。もうそろそろ時間なので皆さん、この記事をみているクリエイターや漫画家志望の方、編集の方など、スランプさんに一言お願いできますか?

吉田:誰も信じるなということですね。

一同:(笑)

凸ノ:自分を信じろということですか?

吉田:自分を信じろか……。僕は自分もあんまり信じてないんですが、「自分の原稿枚数を信じろ」ですかね。僕は原稿枚数原理主義みたいなところがあって、完成させた原稿の数がすべてなんですよ。だから手塚治虫は圧倒的に偉いし、編集者の言うことはイマイチ響きません。原稿枚数順に人を信じてます。これは信仰なのでご迷惑もおかけするんですけど、すみませんという感じですね。

画像10

浦田:僕は一言でいうと諦めるなということです。僕も諦めがわるくて、壁にぶち当たったことが何回もあったんですが、僕と同じキャリアの人がそこで辞めてく姿をみて、もったいないなと思ってたんです。
結局成功するのって成功するまで諦めなかった人です。僕もアニメ化する夢があるので、そこに向けて進むだけです。腐らずに書き続けてください。

安江:ちょっと自己啓発っぽさがありましたね(笑)。

浦田:『あなたは絶対! 運がある』(笑)。

凸ノ:最後は僕からですね。『スランプさんいらっしゃい』っていう連載なんでいいますけど、あなたはスランプっていうほどやってんのか、と。まだ10ページしか描いてないだろと思うんですよ。
これは過去の自分にも言っていて、思い返すと停滞していた時期は、スランプといえるほどやっていなかったんですよ。でも本当に締め切りに追われてるときは「自分がスランプかどうか」なんて考える時間が本当になくて。とにかく原稿をあげなきゃいけないので、そんなこと考えずにやり尽くせってことを言いたいですね。

安江:皆さんすごくいい締めになりました。本日はありがとうございました!

画像11

※ ※ ※
お知らせ
『スランプさんいらっしゃい』では漫画家・クリエイターのお悩みを募集しています。マンガボックス編集長・安江さんに相談したいという方は下記メールアドレスまでご応募ください!
Mail:info@1000000v.jp
マンガボックス編集部についてはこちら

※ ※ ※

ライター・撮影:高山諒 
企画:おくりバント


この記事が参加している募集

イベントレポ

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?