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マニタ酒房

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ライターとみさわ昭仁による酒エッセイ2021年度版です。酒にまつわる様々なことを楽しんだりボヤいたりします。毎週土曜に更新する予定ですが、酔っ払って休むことも多いだろうことは容易… もっと読む
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記事一覧

50 一人飲みを生き直す

50 一人飲みを生き直す

これまで何度も書いてきたように、ぼくは“一人飲み”を愛している。酒の相棒であるキンちゃんと馬鹿話をしながら飲むのはとても愉快な時間の過ごし方だが、やはり気に入った店で一人、本を読んだり、スマホを見たり、あるいはぼんやり考え事をしながら飲むのが、いちばん好きだ。

だから、酒のことをエッセイに書こうとすると、どうしても一人飲みに関する話題が多くなる。一人で飲んでいるときに見た光景。一人で飲んでいると

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49 落語と駅弁

49 落語と駅弁

助六寿司というものがある。いなり寿司と巻き寿司がセットになったやつで、駅はもちろんコンビニでも買えるから、おそらく日本でもっとも見覚えのある寿司ではないかと思う(関東だけかな?)。

なぜあれを「助六」と呼ぶかというと、歌舞伎の演目「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」に由来する。

検索すれば解説ページがいくつも出てくるので、詳しくはそちらを参照してほしいが、簡単に言えば、この話に登場

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48 おやじ様ランチ

48 おやじ様ランチ

お子様ランチで飲めたら最高なのではないか? と思うことがある。

一般的なお子様ランチといったら、まず中央に円錐台のチキンライスがあり、てっぺんには旗が立っている。その周りをハンバーグ、玉子焼き、エビフライ、タコさんウインナーといったあれこれが取り囲んでいる。まるで食える盆踊り。

その舞台となるのは、男の子用だったら自動車や機関車、女の子用はクマさんやパンダさんなど可愛い動物の形をしたプレートだ

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47 ちょうどいいうなぎ

47 ちょうどいいうなぎ

先日、仕事で久住昌之さんにインタビューをする機会があった。『夜行』『かっこいいスキヤキ』『プロレスの鬼』『小説 江ぐち』『写真四コマ漫画』……ぼくがこの世界に入る前から散々読んでいた、憧れの先輩である。

インタビューのテーマは「食」に関することで、久住さんに食について話を聞くということは、必然的に『孤独のグルメ』の話になる。その際にどんなことを話してくださったかはここには書かないが、せっかくのチ

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46 酒と油

46 酒と油

酒好きのことを「左党(さとう)」という。

酒と甘いものはあまり相性がよくないのではないかと思うのだが、なぜ酒好きのことを砂糖(さとう)なんて呼ぶのだろう? そう疑問に思ったので検索してみると、その語源はすぐに見つかる。

江戸時代、大工は右手に槌(つち)を持ち、左手に鑿(のみ)を持つ。そこから左手を「ノミ手」と呼び、それが転じて「飲み手」となり、酒好きのことを「左利き」と呼ぶようになった。その派

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45 豆で飲む

45 豆で飲む

豆で飲むのが好きなんである。が、納豆については、すでに散々語ってきたので、今回は糸を引かない方の豆の話だ。

まずは酒のつまみの定番であるところの「枝豆」から。

うちの地元の町中華では、ビールを頼むと、お通しに枝豆が出てくる。小皿に10莢(さや)ほど乗ってるだろうか。枝豆というのは、だいたいにおいてひと莢に3粒、少なくとも2粒は入っているので、10莢あったらだいたい25~30粒はあることになる。

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44 酒刑事

44 酒刑事

もしも自分が七曲署の刑事だったら。どんなあだ名を付けられるだろうか?

以前、ゲーム会社に勤務しているとき、雑談の中でそんな話題になった。テレビドラマ『太陽にほえろ!』では、赴任してきた新任刑事に対して、先輩がその刑事の個性や特徴をそのままあだ名にするという風習がある。それに倣って、自分や友人知人にあだ名を付けてみよう、という遊びだ。

刑事らしからぬ長髪で、拳銃を持った様子がマカロニウエスタンに

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43 近くて遠い名古屋のみそ

43 近くて遠い名古屋のみそ

忘れられない光景がある。初めて名古屋へ行ったときのことだ。

当時、ぼくはアメリカのベースボールカード(トレーディングカード)のコレクターで、収入のほとんどをカードにつぎ込んでいた。面倒な説明は省くが、カードには当たり外れがあり、当たりを引くためにはカードを山ほど買わなければならない。

中にどんなカードが入っているのか分からないパックを買い、ハズレカードは捨て、当たりは残す。ひどい仕組みの商品だ

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42 酒場のチンポジ問題

42 酒場のチンポジ問題

いつもの酒場に着く。暖簾をくぐる。店内を見渡すと、カウンターの端に一席だけ空いている。そこへ歩み寄ってストンと座る。座ったのはいいが、何か居心地が悪い。どうも落ち着かない。腰まわりがムズムズする。

足を組み替える。椅子の位置を調整する。ベルトを緩める。ポケットの中のスマホを取り出す。鍵束も取り出す。ハンカチがわりの手拭いも取り出す。ズボンのポケットを空にして、ようやく人心地ついたような気がして、

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41 汁で飲む

41 汁で飲む

渋谷・兆楽のかた焼きそばの残り汁が、いい酒のつまみになるという話は以前にも書いたが、何らかの汁を肴に飲むのはいいものだ。そんなことを考えるのは、自分が少食だからかもしれない。

世の中というのはだいたいにおいて大食い(ぼくから見ての大食い)の人を基準に設計されている。

ラーメン屋に行くと「ごはん無料でお付けできますが?」と聞かれるし、かつ丼のごはんは多いし、そば屋のかき揚げはデカい。ビリヤニって

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40 屋台千金

40 屋台千金

屋台で飲むのが好きなんである。というか、屋台で飲むのが嫌いな人なんているんだろうか? 

私鉄沿線のとある街の夕暮れ。商店街では夕飯の買い物に出てきた主婦と、仕事を終えて家路を急ぐサラリーマンが交錯する。駅から少し離れたところのガード下には、小さな屋台が店を開いている。大きな赤提灯の向こうに、丸まったグレーの背中がふたつ並んでいる──。

屋台の飲み屋に入るなんて、慣れないと勇気がいるかもしれない

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39 パクチーは色より三分濃い

39 パクチーは色より三分濃い

ラズウェル細木さんの『酒のほそ道』シリーズは、言うまでもなく酒飲みエッセイ漫画の金字塔(いまなお建設中)だ。単行本は、ぼくがこれを書いている2021年の9月現在、第四十九集まで刊行されていて、12月には第五十集が出るという。

縁あってラズ先生とは酒友になり、最近は新刊が出るたびにご本人が送ってくださったりするのだが、それ以前のものはチェックリストを作っておいて、書店で抜け番を見つけてはコツコツ買

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38 山手線一周飲み

38 山手線一周飲み

一日の仕事を終える。日が暮れる。職場を出て、駅までの道すがら、夕飯も兼ねた居酒屋の暖簾をくぐる。旨い魚、旨い酒。そういう当たり前な酒暮らしは、とてもいいものだ。

ぼくは毎日朝4時から仕事を始め、昼前にはその日のノルマを終えて、明るいうちから飲みに出かけて夕方に帰宅するという狂った生活を送っている人間だが、それでも赤提灯に明かりが灯る夕刻の酒場の風景には、やはり心を奪われる。

が、そんな当たり前

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37 酒がこわい

37 酒がこわい

落語に「まんじゅうこわい」という有名な噺がある。ここでの「こわい」はわざと意味を逆転させているので、実際には大好物という意味だ。

それにならって言うなら、ぼくは「酒がこわい」だ。ああ、こわいこわい。おいらァ酒がこわい。とくにキンミヤ焼酎をキンキンに冷やして、炭酸で割ったやつがいちばんこえェ。

普段の会話で「ぼくはタレ目の女の子に弱くてねェ……」などと言うときは、その本心はタレ目が苦手なのではな

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