とみさわ昭仁

プロコレクター、ライター、ゲームシナリオ、マンガ原作、マニタ書房など、いろいろやってる…

とみさわ昭仁

プロコレクター、ライター、ゲームシナリオ、マンガ原作、マニタ書房など、いろいろやってるとみさわ昭仁のnoteです。

マガジン

  • フード病

    お酒以外の食べ物に関するエッセイです。毎週土曜日更新で、全60回の予定。

  • ゆりかごから酒場まで

    ぼくが酒と関わりその魅力に没入していく人生を時系列に従って振り返ったエッセイです。

  • 酒の顔

    酒というものを代表する様々な顔についてのエッセイです。

  • マニタ酒房

    ライターとみさわ昭仁による酒エッセイ2021年度版です。酒にまつわる様々なことを楽しんだりボヤいたりします。毎週土曜に更新する予定ですが、酔っ払って休むことも多いだろうことは容易に予想されます。

  • 酔ってるス

    このマガジンは、とみさわ昭仁が2014年12月22日から2015年11月30日にかけてウェブサイト「it-tells」に連載した酒エッセイ「酔ってるス」を再掲したものです。本日(2020年2月2日)より、毎週日曜と木曜に1本ずつアップしていきます。再録の許可をくださった関係各位には、厚くお礼申し上げます。

最近の記事

36 基地の街の韮菜万頭

 ぼくは1997年の夏に結婚した。相手は東京都昭島市に父親と二人で暮らす女性。彼女は三人姉妹の真ん中で、姉と妹はすでに嫁いで家を出ていた。母親は数年前に病気で他界しており、実家に残された彼女は家業である工務店の事務職をしながら、父親の身の回りの世話もしているという状況だった。  その家へぼくは転がり込む。いまから20年以上も前のことだ。  当時のぼくは、社会における男女の地位の格差などよく理解していなかったから、結婚したら妻が夫の籍に入るのは当前のことだと思っていた。そう

    • 35 有楽町のサムズアップ天丼

       ドンブリめしが好きだ。  というか、ぼくはごはん(白米)とおかずで食事をするというのがそんなに好きではないので、ドンブリめしのように上に何かを乗せたり、カレーのように汁的な何かをかけたものが好きなのだ。  牛丼、かつ丼、親子丼、うな丼……ドンブリめしにもいろいろある。なかでも好きなのは天丼だ。  神保町でマニタ書房をやっていたときは、何度も「いもや」のお世話になった。あそこは天丼が安くて美味いのはもちろんだけど、セットで付いてくるしじみの味噌汁が嘘みたいに熱くて、たいへん素

      • 34 シネコーンのポップコーン

         シネコンに行ったら、ほぼ毎回ポップコーンを買う。好きなスナック菓子のNo.1がポップコーンだからだ。そしてシネコンのポップコーンはすこぶる美味い。ぼくにとってシネコンへ行くというのは、映画を見に行くというより、ポップコーンを食べに行くことを意味するのだ。相変わらず極端な性格ですみません。  コンビニとかで売っている、いわゆる市販のポップコーンはうまくない。なんというか、油っ気が足りない感じで、どうもカサカサしている。油というのは時間が経つと劣化するから、工場で生産されて、小

        • 33 鮮度の対義語は1000℃である

           前回書いたような事情で、ぼくは生牡蠣は食べられないが、生魚は大好物だ。これも以前書いたが、子供の頃は魚が大嫌いだった。でも、大人になって酒を飲むようになったら、魚の美味さがわかってきた。ホッケ、秋刀魚、銀ダラといった焼き魚もいいけれど、刺身はもっといいね。最近はホッピーばかり飲んでるので、つまみに刺身をチョイスすることは滅多にないけど、日本酒を飲むときはやっぱり刺身が欲しくなる。  これは酒飲みだけに限った話でもなく、日本は海に囲まれた島国というお国柄もあって、全体的に生魚

        36 基地の街の韮菜万頭

        マガジン

        • フード病
          36本
        • ゆりかごから酒場まで
          50本
        • 酒の顔
          30本
        • マニタ酒房
          50本
        • 酔ってるス
          50本

        記事

          32 アタック・オブ・ザ・キラー・オイスター

           カキはテキである。  響きがいいのでカタカナ表記してみたが、漢字で書くと「牡蠣は敵である」となる。  そう、ぼくは生牡蠣が食えない。口にすると百発百中で食当たりを起こす。  最初に当たったのが30代のとき。フリーランスで参加していた、あるゲーム会社で行われた忘年会でのこと。社内に料理をケータリングし、お酒もどっさり用意して、仕事終わりにみんなで飲み始めた。  そこにクール便で発泡スチロールの大箱が届いた。中を開けると、氷詰めにされた大量の生牡蠣が。そりゃ盛り上がりますわね

          32 アタック・オブ・ザ・キラー・オイスター

          31 熱から始まる五大味覚

           昔は「塩味(しおあじ)」、もしくは「塩っ気(しおっけ)」と言っていたものが、最近はテレビの調理番組なんかを見てると、みんな「塩味(えんみ)」って言うよね。あれ、いつからそうなったんだろう。誰か言い出しっぺがいるのかな?  基本の味覚というのは「甘味」「塩味」「酸味」「苦味」「うま味」の5つだそうだ。最後のうま味ってなんだよという気がしないでもないが、まあいい。本来ならそこには「辛味」が入るんじゃないの? とも思うが、辛いのは味ではなく、舌にある痛点への刺激によるものである

          31 熱から始まる五大味覚

          30 カップヌードル逆再生

           いちばん好きなカップ麺といえば、なんといっても日清のカップヌードルに尽きる。これは共感してくれる人も多いだろう。  カップヌードルを初めて食べた日のことは、いまでもよく覚えている。発売されたのは1971年。ぼくがそれと出会ったのも、発売されてそう間もない時期のはずだから、10歳のときだ。  当時は両国の社宅に住んでいて、自分の家では犬を飼う経済的な余裕などなかったが、隣接している社長の家で犬──名前を〈チビ〉という──を飼っていた。コイツを散歩させるのは、ぼくと姉と、あとは

          30 カップヌードル逆再生

          29 灼熱の焼きおにぎり

           熱いのは汁物だけではない。例えば焼きおにぎり。そう、焼きおにぎりもまた、作り方によってはどこまでも熱い食べものにすることができる。  ここで、また死んだ親父が登場。  うちの親父は異常に焼きおにぎりが好きで、ごはんの残り物があると、すかさず焼きおにぎりをこさえてしまう人だった。  作り方は、とくに変わったことはしない。適度な量のごはんを手のひらにとり、両手でニギニギと丸めていく。そのまますぐ焼いてもいいのだが、表面が湿っていると金網にくっついてしまうので、ざるにのせて少しば

          29 灼熱の焼きおにぎり

          28 シモキタ労働者の空腹を満たすメシ屋

           初めての一人暮らしは28歳のとき、下北沢に借りた6畳の1DKだった。約4年ほどそこに住み、一旦は松戸へ戻るが、仕事上の都合で都内に事務所を設ける必要があって、明大前にマンションを借り直した。明大前と下北沢は近いし、ゲームフリークを退社したあとも仕事は請け負っていたので、なんだかんだと下北沢に通う日々は続いた。  下北沢でどれほどのメシを食べてきたか、とてもじゃないが数えきれない。米を何升食べたか、というよりも、ぼくの場合は麺を何メートル食べたか、という数え方の方が相応しい。

          28 シモキタ労働者の空腹を満たすメシ屋

          27 マグマ舌の憂鬱

           マグマ舌な人生を歩んでいるぼくだが、しかしマグマ舌を満足させてくれるような灼熱の食べ物と出会うのは、非常に困難である。  それはどういうことか?  この世に辛い料理を好む人は多いし、激辛ブームが起こったこともある。椎名誠さんの著書に『からいはうまい』というのがあるくらいなもんで、料理にとって「辛さ」は肯定的にとらえられる。つまり、辛い食べ物というのは市民権を得ているのだ。したがって、ネットで「激辛+料理名」で検索すれば、いくらでも辛さ自慢の料理を出す店がピックアップされる

          27 マグマ舌の憂鬱

          26 夏の鍋物

           ぼくの酒や食べ物にまつわるエッセイには、たびたび熱いものの話が登場する。昔から汁温度が高ければ高いほど、それを「美味しい!」と感じてしまう厄介な体質なのだが、この熱い物が好きな嗜好のことを、ぼくは「マグマ舌」と呼んでいる。マグマ舌という言葉の由来については、「酔ってるス」シリーズの第9回「灼熱のおでんうどん」を読んでいただければ話が早い。  さて、ぼくはいつからマグマ舌になったのか。とくに考えてきたことはなかったのだが、本シリーズ「フード病」を書いていく中でその萌芽に気が

          25 密漁オヤジのあさりバター

          「ゆりかごから酒場まで」の第3回「3×5メートルの天国酒場」に、うちの親父が木更津での磯釣りを趣味にしていた話を書いた。  それから数年後、釣りに飽きた親父は、今度は潮干狩りに夢中になった。  夜中にクルマで家を出発し、昼前になると帰ってくる。車庫に停めたクルマのトランクからでかいクーラーボックスを引っ張り出すと、その中には大粒のあさりが、ぎっしりと詰め込まれていた。  その頃のぼくはもう高校生。反抗期というわけではないが、親父とは仲が悪くなっていたので、潮干狩りにはついて

          25 密漁オヤジのあさりバター

          24 納豆バーブド・ワイヤー・ラブ

           かつての我が家は、家族4人とも(父、母、姉、ぼく)納豆が大好きで、週のうち半分以上の朝食には納豆が用意されていた。元日とろろ同様に、納豆を作るのも親父の仕事だった。作るといっても、大豆から発酵させるわけでは、もちろんない。  ぼくが子供だった昭和40年台は、毎朝のように豆腐屋さんが自転車で売りに来ていた。味噌汁の具にする豆腐や油揚げと一緒に納豆も買う。それが朝の主婦のルーチンだった。  そんな母に寝坊助の息子が起こされると、すでに起きている父が納豆の藁包みをばりばりと破り

          24 納豆バーブド・ワイヤー・ラブ

          23 おせちもいいけどとろろもね

           我が家の正月は「元日とろろ」である。世間では「三日とろろ」と呼ばれているようだが、うちの親父はかたくなに「元日とろろ」と言い続けて死んだ。  三日とろろとはどういうものかというと、その名の通り一月三日に自然薯(山芋)をすりおろしたとろろ汁をめしにかけて食うことだ。主に関東以北や中部地方の一部でも食されているようだ。  我が家では親父が元日とろろと言い続けていたように、一月一日の夕食に食べる。つまり元日限定の食べ物なのだ。朝と昼はお節料理で酒を飲んだり、お雑煮を食ったりして

          23 おせちもいいけどとろろもね

          22 うるさいラーメンと静かなラーメン

           ラーメンネタが続きますが、今回はそのビジュアルの話。  前々々回の「19 同じものばかり食べている」では、ラーメン好きな自分を「新店ができたからといっていち早く駆けつけたりはしないし、未知のラーメンの味を求めていたりもしない」と書いたが、たまには初めての店に足を踏み入れることもある。ただし、まったく情報がない状態でそんなことはしない。ぼくが未食のラーメンにチャレンジするときの条件のひとつは、「見た目が自分の好みかどうか?」だ。  見た目って、わかりにくい話ですなー。  でも

          22 うるさいラーメンと静かなラーメン

          21 くせぇラーメン食わしてくれよ

           娘が小学生になったばかりの頃。学校帰りにふたりで近所を歩いていたとき、とあるラーメン屋の厨房脇を通りかかった。道路に面したダクトからは、大きな寸胴で炊いている豚骨スープの湯気が吹き出している。その匂いを嗅いだ娘は、ポツリとこう言った。 「なんか、暗黒っぽい匂いがする……」  我が娘の非凡なボキャブラリーを自慢するところから始まった今回のテーマは「豚骨ラーメン」である。  九州出身の人にとって、ラーメンといえば豚骨スープが当たり前だろう。 「豚骨スープが母乳のかわり」  

          21 くせぇラーメン食わしてくれよ