『アメリカン・アニマルズ』と突発的な旅行

突発的な旅行が好きです。
プロフィール欄に書いてもいいかもしれません。

趣味:突発的な旅行

突発的とはなんぞやと思われるかもしれませんが、そう表現するしかないのです。
行き当たりばったりな旅行、とも少し違います。

直前まで考えていなかった外国行きのフライトを、出発まで1カ月をきった状態で突発的に買ってしまうのです。

来月の連休、イスタンブールにいたらどうだろう?
もし今ニューヨーク行きのチケットを買ったら、どうなるだろう?

そう思いついた瞬間、近いはずの未来が想像できない事にぞわぞわと興奮が沸き起こり、気づいた時にはフライトの手配が完了しています。

予定になかった旅行。
それも、行った事のない土地に。一人で。

このような行動をする裏側には、あまりポジティブでない感情があります。
それはおそらく死にたさに似ているのでしょう。

欅坂46の「月曜日の朝、スカートを切られた」にこんな歌詞があります。

死んでしまいたいほど 愚かにもなれず
生き永らえたいほど 従順でもない
あと何年だろう ここから出るには

これは鬱屈した日常に押し潰されるティーンの心情(を秋元康が妄想して書いた詞)ですが、大人にはお金という手段があります。

20万円あれば、人生は変えられなくても、そのうちの5日間は変えられる。

大学4年の秋、内定式後。
あるいは、社会人2年目がもうすぐ終わる頃。

この先に右折も左折もない、見通しのいい道のりにうんざりしたとき、“突発”は起こりました。

最近、Prime Videoに『アメリカン・アニマルズ』が入ったと聞いて、オススメを聞かれるたびにこの映画を推すようにしています。

大学生4人のグループが、図書館に厳重保管されている時価1200万ドルの画集に目を付け、盗み出すことを計画する。
ジャンルでいえば『オーシャンズ11』『ベイビー・ドライバー』のようなクライム・コメディなのですが、普通とは違うポイントが2点あります。

ひとつめは、主人公たちの計画が全くスマートではなく、グダグダで失敗しまくること。

ふたつめは、これが実話であること。
それだけなら他にも例はありそうですが、驚くべきことに元犯罪者である本人たちが映画内に登場します。

事件当時(2004年)に大学生だった彼らは、映画化された時点でもまだ30代なのです。
彼らは画集を盗もうとした動機をカメラの前で答えています。

恵まれた環境にいた彼らは、お金に困ってなどいませんでした。
人生を決定的に変えてしまう出来事。
それが、欲しかっただけなのです。

ブレイクスルーを求めるあまり、犯罪を犯してしまう。
これは決して他人事ではないと思います。

夢を持て、とマンガは語りかけます。
退屈な人生を送るな、と映画は訴えます。
やらずに後悔するよりやって後悔しろ、とテレビは囃し立てます。

その言葉を額面通り、ピュアに受け取った結果が『アメリカン・アニマルズ』だったのではないでしょうか。

コロナで払い戻しになったロンドン行きの航空券を眺めながら、そんな事を考えていました。

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