見出し画像

『翻訳できない世界のことば』(エラ・フランシス・サンダース)

今回より、評論教材をはじめとした、文学作品以外を扱う授業で使えそうな本の紹介を始めます。「対応テーマ」では、評論文の題材として主な4つのテーマ(哲学・思想、言語・文化、自然・科学、近代・現代)から、1つを選んで表記します。

忙しい先生のための作品紹介。第42弾は……

エラ・フランシス・サンダース『翻訳できない世界のことば』(創元社 2016年)
対応テーマ     言語・文化
ページ数      111
読みやすさ     ★★★★★
図・絵の多さ    ★★★★☆
レベル       ★☆☆☆☆
生徒へのおすすめ度 ★★★★★

作品内容

 世界各国の、その国にしかない言葉を取り上げた絵本です。バナナを1本食べるのに必要な時間を指すマレー語の「pisan zapra」、複雑に絡まったケーブルを指すドイツ語の「kable salad」など、日本語には全く同じ意味を持つ単語がないような言葉たちが紹介されています。各単語が見開き1ページずつ取り上げられていて、言葉の意味と説明が書かれています。ページによって使用されている色合いも違い、該当する言葉をイメージしたイラストが描かれているため、とても色鮮やかな本です。

おすすめポイント その言葉を知っている人にしか見えない世界

 ある国の言葉から別の国の言葉に言い換えることを「翻訳」と言いますが、訳したいものにぴったりの意味をもつ言葉が存在するとは限りません。私たちが普段使っている日本語では正確に表せない事柄が他の国にはあり、逆に日本語でしかうまく表せない言葉があるのです。そう考えると、言葉って面白いなと思いませんか。

 大抵の人は、普段1カ国語しか使わないので、自分の使っている言葉を様々な国の言葉と比べることができません。しかしこの絵本を読むと、翻訳できないと思ってもみなかった言葉が、実は日本語話者しか理解できない言葉だったと分かり、私たちにしか見えない世界があることに気付くことができます。

 反対に、世界にはいろいろな事柄を表す言葉があることも知ることができます。例えば、アラビア語の「ya’ aburnee」は、直訳すると「あなたが私を葬る」という意味の言葉です。日本語で端的に表現するならば「執着心」だそうですが、ここでは相手がいなければ生きていけないから、あなたが私を葬ってほしいという願望が含まれています。「執着心」や「好意」など、日本語にも想いを表す言葉はありますが、1単語で「好き」という感情の度合いが色濃く伝わってくるところが、面白い言葉だと思いました。

活用方法

 高校では評論教材、中学校では説明的な文章で、言葉について書かれた文章を読むことがたびたびあると思います。特に言語学に関する文章は難しいものが多く、生徒の理解を促せるような副教材が大いに役立ちます。そこで本書を使えば、「翻訳できない言葉なんてあるの?」「言葉がものより先にあるという『記号論』って何?」など、言葉にまつわる疑問と合わせて紹介することができるのではないでしょうか。

 イラストが多く文字も大きめな絵本なので、スライドに映し出して紹介したり、1冊丸ごと生徒の手に取らせる時間を設けたりと、授業で使いやすい1冊だと言えます。1つの言葉に対する説明はとても短いので、気になる言葉があれば、さらに調べてみるという活動につなげることもできそうです。

 内容は易しくて読みやすく、一方で知らない言葉に出会える点では大人が読んでも十分面白いので、校種を問わず授業で使える本としておすすめです。

Amazonページはこちら

この記事が参加している募集

#私の作品紹介

96,726件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?