見出し画像

医療系学部と他学部の大学院は何が違うのか:歯科医療の歴史から学ぶ③

 Twitterで医療系学部と他学部(理学・工学・農学部など)における大学院での慣習の違いがよく取り上げられている。恩師の稲永名誉教授は九大理学部出身で、医学部、歯学部の研究室へと移ってこられたので「いやー、僕は習慣になれるのに苦労したよ!」と、いつも言っておられた。ちょっと思うところを書いてみる。(小野堅太郎、中富千尋)

 歯科医療の歴史シリーズ(マガジン参照)で現在8つの記事を書いている。共通するのは、皆、医学だけでなく科学全般を修めていること。より現在の臨床医に近いラーゼスアブルカシス、アヴィセンナも例外ではない。特に歯科医療は工学からの寄与が大きく、新しい材料の開発のたびに新しい治療法が生まれている。前の2記事でも書いたが、医療には、他分野の科学技術の取り込みは絶対に必要で深い連携が求められている。

 では、その深い連携が最も求められる研究の世界では、はっきりと医療系と他学部では文化が違う。主に医師から構成される日本生理学会ではスーツが当たり前だが、理学部の参加が多い日本神経科学会では私服が当たり前で、たまにスーツの人を見かけると「医者(歯医者)かな」と思う。小野はスーツが嫌いなのでラフな格好で医療系の学会に出席しているため、うちの大学院生もラフな格好で出席してしまい、歯学系の学会会場で「先生、僕はこの格好でいいんですか?」「いいも何も、今更着替えられないでしょ。」ということで、ポスター発表させた。ここで、出てきた「先生」だが、医療系では指導教官のことを「先生」付けで呼ぶが、他学部では「さん」付けである。

 歯学部、医学部の大学院生のほとんどは基礎研究で博士号を取得しても、修了後は臨床の道に進む。研究生活で得た実験手法や思考法などは、修了後にほとんど役に立たない。他学部ではそうではなく、修了後も実験経験は活用される。歯学部、医学部では、博士号論文の作成のために教員がかなり実験を追加し、論文を書いてあげたりするが、他学部では自分でほとんどやるらしい(稲永先生談)。こういったことからも医療系学部と他学部での大学院は内容に大きな違いがあり、目的も異なっている。

 本研究室の中富先生は、北大農学部を卒業し、新潟大歯学部に編入した経験を持つ。彼女の意見を聞いてみたい。

以下、中富————
 確かに、他学部と歯学部の大学院は全然違うと思います。
(とはいっても、私は農学部の大学院に行っていたわけではないので、他学部大学院のホントのところを体験したわけではないです。)

 当時の博士課程の先輩は、「自分の研究に必要だと思ったことは自分で調べて自分で解決する」という人たちでした。
 指導教官の先生方は博士課程の院生に対して具体的な指導はほとんどしておらず、むしろ彼らは学部・修士の後輩たちの指導をする存在でした。
 他学部の場合、学部生~修士課程の間に「自分で実験計画を立てて、実験して、論文を書く」というトレーニングを積んできているので、博士課程にもなると教員からの具体的な指導はほぼ必要なくなるのだと思います。そして、博士課程にはそもそも研究をしたい人しか残りません。なので、ほっといても自分で勝手にやるのではないのでしょうか。

 とりあえず、農学部の研究室では教員が博士課程の学生の実験をしたり論文を書いたりするのを見たことはありませんでした。なので、歯学部にきた時に教員が学生の論文を書いていて正直びっくりしました(院生は自分の論文を全く書かない場合がある)。でもこれは、歯学部では研究について学ぶ機会がほとんどないので仕方がないのかな、とも思います。
 学部によって博士号取得の難易度はかなり違うというのが現状だと思います🐭

最後に小野より————

 もちろん医学部・歯学部でも他学部のような大学院生活を送るようなラボもあります。大まかなアルアル話と受け取ってください。本学の大学院に進学する人には、ここら辺もわかっていて欲しいなーと思います。

全記事を無料で公開しています。面白いと思っていただけた方は、サポートしていただけると嬉しいです。マナビ研究室の活動に使用させていただきます。