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水遁の術を使用する際には:忍者ハットリくんへの注意喚起

昔の浴室には掃除で使用するホースがあった。これを口にくわえ水遁の術、浴槽に潜って忍者気分を味わうことができた。懐かしい水遁の術と死腔の話。(吉野賢一)

水遁の術:ハットリくんに限らず、忍者が身を隠すために水中に潜るのが水遁の術。呼吸のために竹筒などを口にくわえた。忍者の時代、さすがにホースは無かった。そして今、シャワーの普及で浴室からホースは消失した。現代の子どもたちは、どこで術の鍛錬をしているのだろうか?

死腔:呼吸の際、血液とのガス交換に関与し得ない容積(≒気道の容積)を死腔と言う。つまり、鼻腔、口腔、気管、気管支などの内容積に相当し、吸気時にはガスの交換場所である肺胞まで届かない空気量、呼気時には肺から体外へ排出しきれない空気量ということになる。ハットリくんの一回換気量(安静時に吸ったり吐いたりする量)が人並みの500 mLで、死腔も人並みの150 mLの場合、一回の換気で350 mL(500-150)がガス交換に用いられる。無駄に150 mLを吸ったり吐いたりしていることになるが、仕方なし。

水遁の術と死腔:水遁の術で竹筒をくわえると、死腔がその筒の内容積分だけ大きくなる。術を駆使しているときは「死腔+筒内容量=新たな死腔」の空気を無駄に吸ったり吐いたりするのだ。以下、ハットリくんの肺活量が人並みの4000 mLとして考察する。

筒の内容積が350 mL未満の場合:ハットリくんが、内容積200 mLの筒をくわえたとする。新たな死腔は350 mL(150+200)となり、安静時の呼吸(一回換気量:500 mL)で 新鮮な空気150 mLが肺胞まで届く。術を駆使している間、普段の呼吸(に近い呼吸)を保つことができる。内容積350 mL未満の筒での水遁の術には問題無い。

筒の内容積が350 mL以上で3850 mL未満の場合:ハットリくんが、内容積2000 mLの筒をくわえたとする。新たな死腔は2150 mL(150+2000)となり、安静時の呼吸(500 mL)では、新鮮な空気は肺胞までまったく届かない。一回の換気で2150 mLを超える空気を、頑張って吸ったり吐いたりする必要がある。頑張れハットリくん、頑張らなければ再び陸には上がれないぞ。

筒の内容積が3850 mLを超える場合:ハットリくんが、内容積3900 mLの筒をくわえたとする。新たな死腔は4050 mL(150+3900)となり、肺活量4000 mLのハットリくんでは、どんなに頑張っても新鮮な空気を肺胞に届けることはできない。同じ空気が行ったり来たりするだけの、ビニール袋をくわえている状態と一緒。数分内にあきらめろハットリくん、頑張っても再び陸には上がれないぞ。

水遁の術に関するその他の注意事項:筒の内容積は基本的に小さいものが良い。間違っても「肺活量ー死腔」を超える筒をくわえないこと。身を隠すという観点から、深く潜りたいので細くて長い筒を選択すべき。内容積は同じでも、筒の内径を半分にすると長さは4倍まで伸ばせるぞ。深く潜られれば発見され難くなる。ただし、時間当たりの換気量を同じにするためには空気の移動速度を4倍にしなければならず苦しむ。さらにピーッ、ピーッとか音が出て水遁の術が台無しになりそう。有事の際に備え、内容積は小さめで、ほどほどの内径・長さの筒を用意すべし。

シュノーケル:水遁の術と同じ理屈のダイビング用品。長いと水が入り難く、水を飲んで苦しむリスクを減らせる。しかし、内径が同じで長くすると新たな死腔が大きくなり呼吸が辛くなる。ほどほどの内径と長さのシュノーケルが販売されている。

ラジオ体操の深呼吸:1回換気500 mLで10回、1回換気1000 mLで5回、この両者の呼吸を比較する。換気される空気量は同じ5000 mLだが、ガス交換に関与する空気量は、前者が(500-150)✕10=3500 mL、後者が(1000-150)✕5=4250 mLとなる。死腔(150 mL)が存在するため、浅い呼吸より深い呼吸の方がガス交換の効率は良い。ラジオ体操の最後を深呼吸で締めくくるのは理にかなっているのだ。さすがラジオ体操。ただし、ガス交換が効率的だからと深呼吸を繰り返すと呼吸性アルカローシスになっちゃうので、手足がビリビリとしびれるまで換気はしないこと。


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