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論理の非論理性:Twitterから学ぶ⑤

 研究を進めるうえで論理性は必須なため、大学院教育はほぼこれに費やされる。一方で、家庭においては子供たちが非論理的なことを言ってくるので、論理的に打ち返すと会話の断裂が起きてしまい苦労する。Twitterではこういった議論がいたるところで起きている。前回に引き続き、研究者はTwitterでどう振る舞ったらいいのかを考えてみる。(小野堅太郎)

 論理性を突き詰めると、常識を否定しなければいけないことも出てくる。「愛について」シリーズ③でも述べたように、論理は冷徹である。ダメなものにダメと言ってしまうのが論理で、投稿した論文に論理性の高い強烈な批判コメントを受けてしまうと反論の余地がなく、投稿前にキラキラと光っていた原稿(もしくは院生の目)が色あせてしまう。若いころ、そういった批判コメントが欲しくて、レビュアー(論文審査員)をわざとその領域の大御所を指定して、どぎついコメントをもらって1年かけて追加実験して論文を通すという変な主義を貫いていた。しかし、大学院生にそれをやらせるわけにはいかず、指導するようになってからは「優しいコメントをしてそうなレビュアー」を指定するようになった(それでも批判的なコメントは沢山もらえる)。

 科学において、内容に関しては論理性を詰めていかなければ、間違った理解を生んでしまい、結果的に研究の発展を妨げてしまう。相手が自然という感情のない「現象」であるため、非人間的な論理的思考をどこまでも高めることができる。しかし、科学外における人と人のコミュニケーションにおいてはそうはならない。ヒトに関わらず生き物はすべて真実(物理現象)よりも感情を基準にして行動する。

 というわけで、非論理的な発言をするTwitterユーザー(アカウント)に論理的な指摘をして気分を害してしまうとせっかくの指摘は相手に届かず、非論理的発言はTwitterで拡散し続ける。これを消すために、スクリーンショットを晒すなどして徹底攻撃によりTwitterをやめさせるとこまで追い込むケースも見たことがあるが、それでは反感を買うだけで逆効果に思います。かといって放置すれば、Twitter内では同じ主義主張をもったクラスターが生じ、各クラスター内の情報はより深淵化して、他のクラスターとの溝はさらに深まります。1ユーザーとしては、心地よい情報に常にさらされることになり、たまに外のクラスターに巻き込まれても援護射撃が期待でき、心地よい環境が形成されるわけです。つまり、現在の研究者たちのTwitter活動では「科学的に間違った情報」は消えるどころか、拡散する方向へと加速させています。さらに、科学者は多面的にモノを言いますので、部分的に取り上げられて情報が歪んだ形で取り込まれていきます。

 つまり、論理的にヒトの性質を考えた場合、論理を突き詰めることでは論理を伝えることはできない、という非論理的結論に達するわけです。すなわち、愛が必要なのです。大学院生たちによく言うのは「教えている研究の論理性を、生活に持ち込まないように!」です。論理は恐ろしく冷たい刃物になりえます。研究者は、この点を考えておかないと、いつもの物言いをすると一般社会は凍り付くわけです。Twitterで研究者がブロックされてしまうのは、大体このケースのように思う。

 Twitterに関わらず、SNSでは「いいね」や「スキ」は「共感」を表しています。共感である以上、「間違った情報に基づく内容」でも抑制なく広く拡散されます。「間違った」にも、ぶっ飛んだ発想からくる陰謀論から、読み間違いによる偏った理解、単純な単語ミスまでいろいろ。時には、根も葉もない誹謗中傷が広まって、人を傷つける事があります。

 研究者は因果な生き物です。研究者は議論が好きなのです!研究者クラスター内でも激しい議論をすることになり、さらに細分化されていきます。極度にコロニー化したクラスターでは、研究成果報告などに若手からの「さすが先生!すごいですね!」などの賞賛のコメントが寄せられている。そうすると業績のある研究者の方々は結構、のりのりで強気の発言をするようになり、そもそも一般社会とは異なる常識で仕事しているのも合わさって、一般の人たちから「ワー!」と非難を浴びるわけです(研究者からの援護射撃あり)。そして、研究者は傲慢で社会からずれているとの印象を広めてしまいます

 個人的な小野の意見としてはTwitterは無法地帯です。YouTubeもかなり無法地帯だと思っています。仁義なき戦いが繰り広げられています。陰謀論には危険なものもあります。「ムー」などに載っていれば「わー、また面白いこと書いてるな!」と読みます。読者達は楽しんだとしても、基本的に本気で信じてはいないのです。しかし、Twitterでは、多くのリテラシーのない人たち(子供を含む)も気軽に読んでしまい、「いいね」がたくさんついて見せかけの信頼度が上がった状態で拡散します。Twitterの「共感をたくさん産む」といういいところは、悪い情報に関しても促進的に働いてしまうわけです。Twitter社は広告のため相互的既読数を上げる必要がありますので、なんら抑制手段を持たないというところが難しいところです。

 さて、研究者はTwitterでどう振る舞うべきなのでしょうか。

1)基本、非論理的コメントには黙っておく。
2)より正しいと思われる情報を自分で発信する。
3)科学者クラスター外に出て、コミュニケーション能力を磨く。

 1)は、戦っても無駄なので戦わないということです。むしろ戦う方が炎上して拡散してしまうので逆効果です。2)は訂正するのではなく、自分なりの正しい情報を発信するということです。空リプになるのでしょうが、1)の直接対決は避けるべきです。しかし、研究者からのTwitter情報は分かりにくいため人気がありませんので、そもそも誤った情報を打ち消すことは不可能です。そこで3)によって、それらのクラスターに入っていき、そのクラスター内でより正確な情報を発信する手段を探すことです。今のところ、これしか思いつきません。


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