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娯楽にみる教養とマナビ

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教養のマナビは人生を豊かにする。味気ない物語も背景を知ると輝きだす。娯楽作品の中にあるマナビについて、他のクリエイターの皆さんの記事も含めてまとめています。今日から使えるちょっと… もっと読む
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記事一覧

賭け精神は冒険を産んだ:ギャンブルについて③

 我々ヒトは確率を直観的に把握できない無謀なギャンブラーだという話をしてきた。しかし、その愚かさは悪いことだけではなかったのではないか。(小野堅太郎)  これまで確率を「コインの表が出る割合」として話してきた。これは数値化して計算することができる。しかし、世の中は数値化できない確率も多い。科学のデータの確かさはある意味「確率」だが、数値化できず、研究者それぞれの知識と経験からからくる「確度」みたいなものである。研究者は、それを仮説として、実験にて確度に磨きをかける。  1

確率はチャレンジ回数で乗り越える:ギャンブルについて②

 前記事で、ギャンブルで勝つ確率を計算すると第一印象とのギャップがあるとの話をした。そもそも確率とはなんだろうか。(小野堅太郎)  コインを5回投げて全て表が出る確率は3%である。うーん🧐、表裏表裏表になる確率も3%、裏表表表裏になる確率も3%であり、あらゆる順番が3%なので全部表になることは「特別」ではない。同じモノごとが続くことに、我々人間は「特別」を感じてしまう。ゾロ目、スリーセブンなど、「運がいい」と感じてしまう。逆もあって、初詣でおみくじを引いたら「凶」が出たので

確率は第一印象と異なる:ギャンブルについて①

 吉野先生とはよくギャンブルの話をするのだが、どれだけ儲かったか損したかの話をしているのではなく、確率の話をしている。なぜその低い確率に我々は賭けてしまい、手持ちのお金を失ってしまうのか、という議論になる。まずは、ギャンブルで勝利する確率について述べてみたい。(小野堅太郎)  ギャンブルといってもいろんなものがあり、言葉の定義をはっきりさせておかないと議論が混乱してしまう。ここでは、賭け事全般とギャンブル(賭博)という言葉は同じに扱いたい。パチンコ・パチスロは日本の法律上で

チ。—地球の運動について— 完結!:最終巻を考察

 C教支配下で異端とされる「地動説」を巡る苛烈ドラマを綴った漫画「チ。ー地球の運動についてー」が完結した。最終巻となる8巻には読者を混乱させる長いエピローグが挿入された。小野なりの考察を交えて「チ。」の凄さを紹介したい。ネタバレを含むので、未読の方はご注意を。  1年以上前に「チ。」の感想と今後の展開予想をnote記事に書かせてもらった(下リンク参照)。残念ながら最も望んでいた長期連載とはならなかった。とはいえ、何代もの主人公が入れ替わる大きな物語で、余計なストーリーを好ま

若山牧水と虫歯

虫歯って「百害あって一利なし」だと思っていたけどこの人だけは違った。牧水に虫歯があったからこそ、これらの素晴らしい歌が世に生まれたのだ。牧水ではない私は、毎日の歯磨きを欠かしません(吉野賢一) 若山牧水:酒と旅をこよなく愛した歌人。友人に北原白秋や石川啄木などがいる。歯にまつわる歌を少なくとも三つ読んでます。歯科医療人は牧水を、そしてその歌を知っておくべきでしょう!? しら玉の 歯にしみとほる 秋の夜の 酒は静かに 飲むべかりけり 私が一番好きな歌。若山牧水記念文学館(後

三国志覇道からの学び

五十にして天命を知って数年後、三国志覇道というネットゲームをはじめた。ゲームも楽しいけど、チャットって面白いね。三国志覇道からX世代が学んだことを紹介しましょう。(吉野賢一) 文末「w」は「笑」:学生がPCで書いた文章に「w」があるのを不思議に思ったことがある。タイプミスかな~ってその時は思った。でも記憶に残っているのでなんか気になってたんでしょうね。それが、三国志覇道のチャットで頻繁に「w」を見るではないですか!こりゃ調べるしかない。ググって分かった「w」=「笑」、「ww

松かげに憩う:松下村塾の吉田松陰先生

 雨瀬シオリ著「松かげに憩う」(秋田書店)は、史実に従って劇的的な吉田松陰の人生を描いた漫画である。いかんせん松陰先生が長髪の妖艶な美男子として描かれてBLっぽいが、商業上いたしかたない。吉田松陰は山口県萩の人は良く知っているが、一般にはあまり知られてない。「松かげに憩う」は2巻まで既刊であるが、1巻について紹介させていただく。(小野堅太郎)  数か月前、山口県萩に行って松下村塾を訪ねたが、「松かげに憩う」は全くプッシュされていなかった。外見は美化されたもののリアルな松陰像

体内水分保持のためのスティルスーツ:DUNEの何がすごいのか③

 「DUNE砂漠の惑星」は生態学をSFに取り込んだ先駆けである。砂漠という乾燥地域で生きるためには、失われる水分をできるだけ抑えなければならない。そのために着用するステイルスーツはDUNEの重要アイテムである。その機能を生理学的に解剖してみる。(小野堅太郎)  小野は今でこそ痛みの研究をしているが、研究のスタートは「体液調節」であった。20年前は肥満問題を解消するために「食欲調節の研究」に多額の研究費が投入されて盛んな中、その片隅で「飲水調節の研究」を行なっていた。  お

未完の傑作と未来の傑作:DUNEの何がすごいのか②

 Duneに興味を持ったのは未完となったアレハンドロ・ホドロフスキー版「Dune」のドキュメンタリーを見たことがキッカケである。脚本、絵コンテ、キャスティングまで決まり、すでに膨大な投資をしていたにも関わらず、撮影に至らなかった。しかし、これが後にいくつもの傑作SF映画を生み出すことになる。(小野堅太郎)  1968年に「2001年宇宙の旅」といった非エンタメ芸術SF映画がヒットするぐらい、映画がまだ芸術として認知されていた1970年代。DUNE映画化権を獲得したフランスの

何度も映像化された名作:DUNEの何がすごいのか①

 60年前にポーランドで生まれた傑作SF小説ソラリス。その発表から数年後の1965年、アメリカでもう一つの傑作SFが生まれます。その名はDUNE(デューン)砂の惑星です。海の話から砂漠に話が移ります。(小野堅太郎)  太平洋戦争が終結し、アメリカ軍にいた者たちの中からSF作家たちが生まれてきます。アーサー・C・クラーク、ロバート・ハインライン、アイザック・アシモフのSF三大巨匠です。アメリカでは戦争により軍隊に多くの若者が動員され、武器のマニュアル教育や実施訓練が行われ、多

メタサイエンスと科学の限界: ソラリスの何が凄いのか③

 未だ原作通りには映画化されていないSF小説ソラリス。SF要素、ミステリー要素、ロマンス要素を取り除いても、傑作たりうる詩的哲学要素があることを前回解説した。締めくくりに、メタサイエンス要素について解説する。(小野堅太郎)  「メタ」という言葉は、最近、フェイスブック社が社名変更して報道されたことからご存知の方も多いと思う。これに合わせて「メタバース」もよく知られらることになった。小野は研究者なので「メタ」という言葉は「メタアナリシス」がはじめである。小説やアニメでは「メタ

科学的観点からみた存在の危うさ:ソラリスの何が凄いのか②

前記事でソラリスの映画が全く原作ソラリスとは異なることについて説明したが、じゃあ原作はどんな話なのよということを説明してみたい。(小野堅太郎)  レムによる原作ソラリスとタルコフスキー版映画である惑星ソラリスは共に傑作である。しかし、大まかなストーリー進行は同じであるものの、テーマが全く異なる。同じようなものとしてスティーブン・キングの原作小説シャイニングとスタンリー・キューブリックの映画シャイニングが挙げられる。主人公が思い悩んで徐々におかしくなっていく原作の恐怖とは違っ

未だ映画化されていない傑作SF:ソラリスの何が凄いのか①

 「ソラリス」というSF小説をご存知だろうか。「ソラリスの陽のもとに」という旧訳版なら知っているという方もいるだろう。有名監督により2回映画化されているのだが、原作は全く異なる。(小野堅太郎)  過去記事で「薔薇の名前」について解説したときに、翻訳に次ぐ翻訳により内容が変更されてしまうという問題が小説内に取り込まれている、という話をしました。言葉はそもそも曖昧であり、また、時代と共に意味が変わっていきます。外国語ともなれば、1対1で対応する単語などないので翻訳者の想像や解釈

ゴッホ展に行ってみた

 日本ではファンの多い画家フィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)の展覧会が福岡市美術館でやっているので、その観覧報告です。福岡市では2022年2/13までです。(小野堅太郎)  まぁ、凄い人気でした。地下鉄駅から大濠公園をのんびり10分ほど歩いたら福岡市美術館なのですが、2階入り口には人がごった返していました。午前中にネットでチケット予約して指定時間ちょうどに到着したのですが、100人は並んでいて、入れたのは30分後でした。こんなにもゴッホが人気だとは知りません