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何度も映像化された名作:DUNEの何がすごいのか①

 60年前にポーランドで生まれた傑作SF小説ソラリス。その発表から数年後の1965年、アメリカでもう一つの傑作SFが生まれます。その名はDUNE(デューン)砂の惑星です。海の話から砂漠に話が移ります。(小野堅太郎)

 太平洋戦争が終結し、アメリカ軍にいた者たちの中からSF作家たちが生まれてきます。アーサー・C・クラーク、ロバート・ハインライン、アイザック・アシモフのSF三大巨匠です。アメリカでは戦争により軍隊に多くの若者が動員され、武器のマニュアル教育や実施訓練が行われ、多くの無線通信や実際の戦闘が行われたわけです。それらの軍事経験、特に理系的経験がこれら3人のSF巨匠たちの作品に反映されています。そしてまた、SF小説が若者の間でブームとなって、後にハリウッドで多くのSF映画が作られるきっかけとなってきます。

 ポーランドのレムは、ドイツやソ連の入れ替わりの支配やアウシュビッツを経験しており、アメリカのSF作家とは全く異なる経歴で作家となっていますので、かなり作風が異なります。戦後も東西冷戦ですので、レムは一時的にアメリカのSF作家協会に入会しますが、ブレードランナーなど傑作SF映画の原作者であるフィリップ・K・ディックに「ソ連のスパイだ。」と言われたりしてすぐ脱会させられたりしています。レムにとって不幸なのは、ソラリスが歪んだ内容で英語翻訳されているため、彼のSF作家としての力が英語圏の作家達に正しく伝わっていないことでした。2010年以降、ようやくレム原作に近い英語翻訳が出版されていますので、レムが今後再評価されて行くことを望みます。

 1960年代のアメリカでは、イギリスで出版された指輪物語やナルニア国物語など中世ファンタジーを舞台として伝記物(伝説?年代記?)が知られるようになり、若者の間で人気が出てきます。さらには、ドラッグブーム。1962年に映画アラビアのロレンスが世界的に大ヒットし、アメリカのみならずアラビアブームも巻き起こっていました。そんな中、1963−65年に出版されたのが「DUNE砂の惑星」です。Duneとは砂丘の意味です。作家のフランク・ハーバートは戦中には写真家として従軍していたらしいです。すぐに評価され、ネビュラ賞やヒューゴー賞といったSF賞を獲得しています。内容といえば、当時のブームをふんだんに取り込んで、砂漠、アラビア文化、ドラッグ、伝記を取り込んだSF戦記物です(基本、ゲリラ的な戦いですが)。

 では、オリジナリティがないかというと、逆です。ブームとなる人気要素を骨組みとして、知略を用いた三つ巴政治闘争、砂漠世界での科学設定(ステイルスーツ)および宗教設定、父と子の信頼、母と子の闘争、サンドワームという特殊怪物の設定と水や植物といった生態学的考察など様々な独自要素が詰まっています。調べると、DUNEがSF作品に初めて生態学的な要素を入れたらしいです。風の谷のナウシカという日本漫画・アニメがありますが、セラミック武器、王蟲(オーム)、腐海などの設定はDUNEを元にしているように思います。スターウォーズ初期三部作(エピソード3-5)にも微かにDUNEの影響がみて取れます。

 DUNEは続編がたくさんありますが、小野は第一部しか読んでいません。映像化に関しては、3回されていて、その前に一度、膨大にお金をかけてポシャっています。原作を読んだら「あーこれは映像化したいなぁ!」と思うような内容です。非常に映画向きなのです。SF作品ではあるのですが、あまりロボやコンピューターが出てきません。どちらかというと超能力(魔術?)がメインとなってきます。スターウォーズの「フォース」の元ネタとなるもので、DUNEでは「ボイス」になります。

 DUNEの映像作品は全ておススメです。

 初の映像化はデビット・リンチ監督が行いました。スターウォーズが1977年に公開されて大ブームとなった後の1984年の公開です。美術的な面は素晴らしく傑作だと思うのですが、商業的に失敗し、デビット・リンチの黒歴史と言われています。とはいえ、実際見てみるとそんなに出来は悪くないです。「第一部をよくこの時間でまとめたなぁ、よくオリジナル要素を付け加えたなぁ」と思います。デビット・リンチといえば意味のわからない映画を作る人ですが、ストーリーを追うことができる珍しい映画です。ただし、原作を読んでいないと使用される言葉や宗教儀式の意味がわからないため視聴者が置いてけぼりになります。また、原作の重要エピソードがごっそり削られています。原作ファンやリンチファンにも受けず、一般視聴者を置いてけぼりしてしまっているため失敗したのでしょう。

 なんとこの失敗を受けて、リンチ版にごっそり紙芝居説明を入れ、未公開映像を追加して前後編の長尺となったTV公開バージョンが存在します。監督はアラン・スミシー、監督不在もしくは監督が名乗ることを拒否した場合に当てがわれていた偽名である。リンチが、このバージョンを拒否したため、アラン・スミシー名義となっったようである。これを小野は見てみたが、紙芝居は作品の質を落としてしまうが、非常に「わかりやすく」なっていた。おそらくリンチは、撮影をしたものの編集段階で自分の作風「わかりにくく」にするため、説明的部分をカットしまくったのでしょう。いずれにせよ、TVアラン・スミシー版は映画デビッド・リンチ版より面白くなっている印象を受けた。

 アメリカは、ケーブルTV時代に入り、目玉番組を用意して加入者を増やすようになります。リンチ版が不人気であったことから、ちゃんとしたDUNEの映像化を目指してケーブルTV版DUNEが企画される。これの出来がめちゃくちゃ良い。DUNE続編の「砂漠の救世主」も作成されている。美術的なところはリンチ版の方が良いのは明らかだが、原作に忠実なストーリーでありながら、一部改変してちょい役だった皇帝の娘を活躍させて、原作における登場人物たちの動機の整合性を計るなどよく出来ている。

 にもかかわらず、2021年、またまたまたDUNEは映像化された。監督は「メッセージ」や「ブレードランナー2049」のドゥニ・ヴィルヌーブである。

 次回の記事では、ヴィルヌーブ版DUNEと企画倒れになったホドロフスキー版DUNEの話をします。

次回の記事はこちら👇


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