映像ディレクターのための音楽言語化スキル (Music Expression Skill for Film Directors)
10年以上作曲の仕事をしてきて、必ず言われること。
クリエイティブディレクター、映像作家、映画監督、アニメーターなど、音楽やサウンドデザインを必要とするすべてのクリエイターに、このnoteをおすすめする。
作曲、サウンドデザインをする時、いつも私は何をイメージし、何を考え制作してるか説明することで、あなたは音楽家目線を理解し、新しいクリエイティブディレクションが生まれるだろう。
しかし、近年急速に音楽発注する機会が減っていることは知っている。
MuseNet、RIFFUSIONをはじめとするAI自動作曲の台頭、AudiostockやPond5などのサブスクリプションサービスが主流になり、作曲家に音楽を頼む頻度が減っている事実は、理解している。
実際、新型コロナウイルスの影響以降、多くのクライアントから「最近は予算が限られていて、サブスクで済ませることが増えてしまった」という言葉をもらう。
とはいえ、ディレクターが音楽の言語化を知ってて損はない。
AI自動作曲のプロンプト入力の時や、サブスクで音楽を探す時の検索ワードで、音楽の言語化能力は必ず役に立つ。
一番大事なこと
最初に一番大事なことを書く。
音楽家に発注する際、あなたは説明過多してはダメだ。最初の段階では、「フワッ」と発注しても構わない。音楽家を下請けとしてみて、全てを指示して作らせると必ずダサいものになる。音楽制作のレールを敷くだけで良い。あとは、音楽家のセンスとアイデアに任せることが、素晴らしい作品を生み出す秘訣である。
あなたの感性と音楽家の感性が合わさる偶然を楽しんでほしい。
傑作は偶然が作る。偶然を作るレールをうまく敷てあげてくれ。
音楽の三大要素
まず、あなたは、音楽の三大要素を知っているか?
音楽発注をする時、自分の思い描く音楽の三大要素を伝えるだけで、お互いのイメージのずれを最小限に抑えることができる。音楽の三大要素は以下である。
リズム (拍子)
メロディ (旋律)
ハーモニー (和音)
この三大要素をどのように作曲家に伝えるかを説明する。
リズム (拍子)
リズムはこの三大要素の中で、最も大事な要素だと思っている。音楽のジャンルと雰囲気はリズムで決まるのだ。
リミックスを考えてみてくれ。
メロディをアレンジしてジャンルが変わったリミックスを聴いたことがあるか?
ハーモニー(コード進行など)をアレンジしてロックになったリミックスを聴いたことあるか?
では、リズムだ。
4つ打ちにしたら、ジャンルが変わらないか?
リズムのスピードを落としたら、雰囲気は変わらないか?
もちろん、メロディでもハーモニーでも、ジャンルや雰囲気を変えられる。
メロディにブルーノートを入れると、ジャズ/ブルースぽくなる。
和音の響きをパワーコードにすると、ロックぽくなる。
しかし、そのようなアレンジをしても、速いテンポの4つ打ちにしたら、全てを回収し、ダンスミュージックになる。なんなら、ドラムマシーンのRoland TR-909のキック音にしたら、テクノ(ジェフ・ミルズ)で確定だ。
例を聴いてくれて。粗い編集だが、聴かないよりマシだろうと思い、ぱっと作ってみた。
Bolero by Ravel + Roland TR909 Kick (BPM135)
どうだろう、オシャレなダンスミュージックに聞こえないか?
音楽にとってのリズムがどれだけ影響を及ぼしているかわかってもらえたか?
では、どうやってリズムを伝える?
リズムの言語化だ。
リズムは2つの要素を伝えれば、クリアに言語化される。
スピード (BPM)
ビート (拍子)
スピード (BPM)
大体数の作曲家は、作曲を始めるときに、まずBPMを決めていると思う。
スピードは、音楽のジャンルや雰囲気を作る上で大きなファクターであるからだ。
戦闘シーンに当てはめる音楽が遅かったら、何も盛り上がらない。
まずは作曲家に速度の提示をしてあげてくれ。
ゆっくり
歩く速さ
速い
このどれかを言えば問題無い。
スピードのアイディアが明確にあるのなら、BPMで伝えてもいいかもしれない。
BPMとは、テンポが「120BPM」の場合、1分間に120回の拍が発生することを意味している。
バラード:60~90 BPM
ヒップホップ:60~100 BPM
ポップス、ロック、ハウス:115~130 BPM
EDM、テクノ、トランス:120~140 BPM
ジャズ:120~160 BPM
ハードロック、メタル:160~180 BPM
上記のリストが全てではない。
ジャンルの種類は星の数ほどあるし、90BPMのジャズだってある。
だが、ディレクターが理解するのはこれぐらいで十分だと思う。
では、ここから音楽の言語化の例文を書いていく。
ビート (拍子)
拍子とは、強拍(アクセント)と弱拍が連なっているパターンが繰り返されること。一般的に言うと、2拍子(2/4)、3拍子(3/4)、4拍子(4/4)などがある。
2拍子 (2/4・2/2)
2拍子の取り方は、「イチ、ニー、イチ、ニー」となり、歩くテンポのイメージである。行進曲やサンバなどでよく使われる。牧歌的な曲調になるのも特徴である。
歩くようなイメージの曲調が欲しければ、「2拍子」と伝えればいい。
そして、6/8拍子があり、これは2拍子の仲間である。
図を見れば理解できるだろう。
2拍子の1拍を3拍で数えるリズムを、6/8拍子という。
2拍子の強拍(紫文字)と3拍子の弱拍(黒文字)が交互に繰り返され、リズムが揺れ動くように感じられ、優雅な印象が出る。
6/8拍子は、感情豊かなゆったりなバラード曲でよく使用される。
6/8拍子を言語化するのは、音楽プロデューサーなので、あなたが覚える必
要は無い。しかし、6/8拍子があるということは知っておいて損はない。
6/8拍子の参考曲をシェアする。
スネアの発音タイミングが、「イチ、ニー、サン、ニー、ニー、サン」の4拍目であるところに注目して聴いてくれ。リズムが揺れてる感じがすると思う。
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