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きみトリ×ラーンネット|10代とトリセツをつくる授業|最終回レポート「観て話す」

きみトリプロジェクトの舟之川です。

神戸のラーンネット・グローバルスクールで、5・6年生の人たちと「トリセツをつくる授業」に一年かけて取り組んできました。この授業は、同校のプログラム「思春期クラス」の一環です。

10代とトリセツをつくる授業

この授業では、『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』の筆者3人が講師となり、1つの学期を担当します。学期あたり2回の授業を行い、次のように進めてきました。
・1回目は、担当講師が一つのテーマについてのレクチャーとデモンストレーションを合わせた「シェア」をする。みんなで実践や体験をする。
・2回目までの期間に、テーマについての「トリセツ」を各々がつくる。
・2回目の授業で、一人ずつ「トリセツ」をシェアする。感想や質問を出し合い、みんなで学びを分かち合う。

詳しい内容は過去のレポートをご覧ください。

初授業のようす
通年授業について
1学期 1回目授業 イヤだとOKについて
1学期 2回目授業 イヤだとOKのトリセツ発表
2学期 1回目授業 心の声を聴く
2学期 2回目授業 心の声を聴くトリセツ発表
3学期 1回目授業 観て話す

3学期は、舟之川による、「観て話すのトリセツ〜作品を通じて人とつながる」でした。

以下は、3学期の2回目であり、全体の最終回にあたる日のレポートです。
写真や感想は許可を得て掲載しています。

「私の観て話すのトリセツ」シェアの進め方

3月2日(水)午後、岡本わくわくハウスにて今年度最後の授業を行いました。この日のメインは、前回の授業をふまえて作った「観て話すのトリセツ」のシェアでした。

進め方は以下の通り。
・1人3分でトリセツをシェアする。
・シェアには、「なにを・なぜ・紹介したいか」「これをみんなで観て話すときに、どんな会にしたいと思うか」をなるべく含める。
・シェアする人は、前に出て話し、スライドがある人は投影しながら。
・聴く人は、思ったことや質問があれば手元の紙にメモし、全員のシェアが終わった後で共有する。

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私が現地に到着したときにはもう、皆さんで順番を決めておいてくれました。前回の終わりに、「時間に限りがあるから1人3分で、でも延びたりしてきっと5分になるから、13人分でええっと……」など話していたので、できるだけ効率よく進められるように考えてくれたのだろうと思います。

トリセツでシェアされた作品

映画『ぼくらの7日間戦争』
建築《One Hundred Museum》ザハ・ハディド
映画『メン・イン・ブラック2』
絵画《ゲルニカ》パブロ・ピカソ
絵本『なにを食べたかわかる?』長新太
映画『スター・ウォーズ』シリーズ
本『四つ子ぐらし』ひのひまり
動画 TED × Sapporo「思うは招く」植松努
映画『グレイテスト・ショーマン』
絵本『りんごかもしれない』ヨシタケシンスケ
挿画《花まつりのお客さま》熊田千佳慕
本『人生はZOOっと楽しい!-毎日がとことん楽しくなる65の方法』長沼直樹、水野敬也
絵画《愛はごみ箱の中に》バンクシー 

※リンクは舟之川が選定、貼付しました

ご覧の通り、さまざまな表現形式、さまざまな分野の作品がシェアされました。あらすじ、特徴、作者、どこで観られるか、この作品を選んだ理由、自分なりに感じている見どころなどを、スライドを使ったり、実際に物を見せながら、紹介してくれました。

一部をご紹介すると、

『グレイテスト・ショーマン』:「差別する側とされる側の両方を見てほしい」
『四つ子ぐらし』:「今読んでいて、全巻持っている小説。家族がいるのは"ふつう"じゃない、ふつうってなんだろう。友達と家族は違うと考えた」
『メン・イン・ブラック』:「お母さんが好きで持っていたDVDの中から選んだ。いろんな宇宙人がいることや宇宙人のリアルさを観てほしい」

「ゲルニカ」「花まつりのお客様」「りんごかもしれない」などの映像や画像ですぐに観られる作品は、その場で即席の観賞会がひらかれたようにもなりました。

個々のシェアに対する直後の質問やフィードバックは、時間の都合上、確保できなかったのですが、シェアの時間内のわいわいとした雰囲気の中で、交換できていたものもあったようです。

シェアの場のようす

お互いの好きなものを知っている同士だからといって、「そういうの好きだもんね」という馴れた反応ではなく、「へー!そういう作品があるんだ、そういうのを選ぶんだ、そこが見どころなんだ」と新鮮な興味関心を持って受け取っている様子が印象的でした。

思いはあるけれども表現がまだ途中、という人もいましたが、たくさんある要素の中から選んだ言葉が光っていました。それでも聴いている側が広く深く受け取って言葉にして返しているのは、やはり日頃の関係の濃さでしょうか。「こういうこと?」「これに似てるね」など、自分の持っているものを使って知ろう、わかろうとする姿勢がありました。これがごく自然に起こるのです。

あまり言葉で出てこない人がいて私は少し気になりましたが、ふりかえりの時間に本人が「みんなの反応がいまいちで恥ずかしかった」と、もやもやしている気持ちを口にしてくれたのはよかったです。それに対して、「そうやったんや、ぼくはそうは感じてへんかったで」とまっすぐに返している人がいたりするのもよかったです。

一見寡黙だけれど、内では実はいろんな考えや想像が渦巻いているのが言葉の端々にあらわれるような人もいたり、オタク的に追求しているものを全開にしつつ、ただ自分の好きだけではない、「みんなに見てもらうこと」を前提にシェアしているような姿がありました。皆さんなりに、今回のトリセツづくりにあたって、考えを深めていたことを感じました。

絵本『なにを食べたかわかる?』をシェアした人は、本を忘れてきてしまったのですが、「じゃあ今検索してみれば?」の声で、パソコンの近くに座っていた人が、画像検索でサッと出してスクリーンに投影してくれて、中身まで少しみることができました。これもその場で鑑賞したような体験になりました。

また、「こうしたい!」とリクエストを出す、「(想定と違っても)それならそれで、こうすればいいんじゃない?」とアイディアが出る、それに対してパッと動きが起こる。今回もまた、ラーンネットの自由と信頼、学び合いの場の蓄積を感じました。

休憩時間は、みなさんのリクエストで、動画(TED)の続きを流しました。みんなでツッコミも含め、あーだこーだ言いながら観るのは楽しかったです。「めっちゃいいこと言うやん」と、感じ入っている人がおり、「あ、クールなんかと思ってたら意外!」となんだか新鮮な気持ちになりました。こうしてその人についての新しい一面が垣間見えるのも、「観て話す」時間の醍醐味です。

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これをみんなで観て話すときに、どんな会にしたい?

課題を出しておいてなんですが、この問いの解釈はとても難しいのではないかと思っていました。こちらの意図としては、「プレゼンではなく、これから感想を話すとしたら?」を念頭に置いてほしいという思いはありましたが、具体的にどのようにやるかなどは伝えませんでした。そこを自分で開発してほしい思いもありましたし、前回鑑賞対話の「デモ」はしてみたから、それを参考にすることもできるかなと考えました。

実際にやってみると、全体として「13人分のミニ鑑賞対話イベント」のような場になりました。
「これからその作品で鑑賞対話の場が始まるにあたり、主催者から作品紹介を受けた」ような感じ。あるいは、「まず紹介者が感想や見どころを述べ、それに続いて参加者から感想も出る」ような。

また、「ゲルニカ」や「愛はごみ箱の中に」などは特に、「観る前に知っておくといいこと(前提知識)」の共有をしていたのが、鑑賞対話の場づくりとして非常に高度だと思いました。この2点は、制作背景が重要で、それを知ることでより鑑賞体験が深まる作品です。おそらくラーンネットの皆さんは批判的に観ることに慣れているから、前提知識があっても左右され過ぎず、自分なりの軸で観る人たちであることを、シェアした人も知っていたからできたことだろうと思います。

「対象者が見えている」これは全員に言えることでした。そこに驚きました。

フレームをつくった私自身があまり想像できていなかったところまで連れて行ってもらえて、新しい場をみんなと一緒に開発したような、わくわくする時間でした。

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皆さんのふりかえり

シェアを聴いての発見は?
・この場で一緒に観られないのがもどかしい
・自分がまだ観ていない作品のことを思い出した
・自分の持論、見え方と人とは違う。(『スター・ウォーズ』の主人公はルークかアナキンか論争が勃発)
・建築や映画などいろいろだった
・いろんなシェアの仕方をしていた
・知っている作品も誰かに紹介してもらうと見え方が変わる、興味がわく
シェアをしてみてどうだった?
・やってみるとシェアが3分は案外早い、もっと言いたい
・自分で見ているだけではわからなかった、他の人が見たらどうかなという視点がもてたのはおもしろかった
好きなものがたくさんある中で、なぜその作品を選んだ? 違いは?
・自分が好きな音楽はトガりすぎていて、他の人には理解してもらえないだろうからやめておいて、比較的受け入れられそうなものを選んだ
・2つのうちで迷って、みんながあんまり観たことがないほうにしてみた 
・ 自分の本棚を眺めてみて、他の本と違うなと思った
・「ただただおもしろいやつ」というより深くいろいろ考えられるもの、掘り下げられるものを選んだ
・みんなに見てほしいから選んだ!

ただ自分が好きなだけではなく、他の人から見たらどうかという客観的な物の見方を意識的に取り入れられたという実感を持った人もいたようです。

「みんながそれぞれでおもしろかった」という感想もやはり多く出ました。人間は一人ひとりが違って当然であること、いろいろであることを皆さんは本当に心から歓迎しているんだと感じました。誰かを誰かと比べることもなく、いつもオープンである。それって本当にすごいことです。

・・・

授業のあとはやっぱり百人一首で締め! 私も前回決闘を申し込まれていた人と組んで、思いっきり楽しみました。

かるた

3学期のふりかえり

1〜2学期は、自分の感情やニーズ、相手との関係について考えを深めましたが、3学期は作品(物)を介して人や社会や世界を知るという、少し位相や段階の違う体験だったと思います。

作品を通じて、社会や世界を見る。作品を通じて人とまた新しいつながりが持てる。自分の好きな作品や身近にある作品を使って、できることがたくさんあるよと伝えられていたならうれしいです。

今の時代、鑑賞対話の場に出してみると、一緒に楽しめる、共有できる作品が多いのかもしれないという感触も得ました。フラットに「シェア」がやりやすい時代。世代も超えて作品でつながる楽しさも味わえました。

1年をふりかえって

ちょうど昨年の3月に初めてプレ授業に入らせていただいた頃から、1年が経ちました。とてもたくさんの学びと贈り物をいただき、その中身はちょっと簡単に言葉にすることができません。

私が特に印象に残っているのはやはり、子どもたちの軽やかさです。トリセツづくりは、「与えられた課題」という面もありますが、「よき人が差し出してくれるよきもの」として、講師各々の「トリセツ」授業を受け取り、一緒に楽しんで取り組んでくれました。

個々には困ることも起きていたかもしれませんが、ラーンネットのつながりの中で心や身体をいろいろ動かしながら、その人なりに関わってくれただろうと思います。心から感謝しています。

私はどうしても「子どもたち」と表現することができなくて、「皆さん」や「かれら」という言い方をしてしまいます。「子ども」は明らかに過ぎていて、でもまだ「大人」ではない。その間の時期にいる人たちを呼ぶ言葉が案外ないのだなと気づかされました。10歳前後から20歳前後はけっこう長いのですけれどね。何かよい言葉が見つかるといいなと思います。

昨年春にラーンネットさんから年間を通しての関わりをご提案いただいたことは、本当によかったと思います。『きみトリ』を3人で作ったこと、3章立ての意味、トリセツの概念や価値について、授業を導入する前からキャッチしてくださっていて、ありがたく思います。

あおらさんのふりかえり

コーディネートしてくださった思春期クラス担当のあおらさんから、ふりかえりの言葉をいただきました。

1年を通してのきみトリプロジェクトは、生きるための知恵をバトンしてもらって、それがじわじわと手に馴染んでいくような経験となりました。学期ごとに新しい視点や概念を体験し、それがそのまま日常の生活と緩やかに地続きに繋がっていました。
ちょっとした、でも当事者にとっては大きな困難に出会ったときに、
クラスの中での何かしらの関わりの中に、
当たり前に人が違う中で全員が納得するまで話をする中に、
いつでも編集可能な辞書のような存在がきみトリなのではないかと思います。
通年を通して、ちょっと離れた場所から、高学年クラスのみんなと深く関わっていただき、ありがとうございました。

あおらさんとの過去のやり取りを見返していて、
「想いを持つことが既に大きな眼差しであり、一歩であると思います」
という言葉に行き当たりました。くじけそうなとき、迷うときに、ときどき思い出したいです。

あおらさん、ラーンネットの皆さん、一年間ありがとうございました。
6年生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。
皆さんにたくさんの幸いがありますように。

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この一年の取り組みをふりかえり、イベントの形でシェアする予定です。
2022年4月2日(土)21:00〜22:30。事前申込み制、オンラインにて。
ご興味ある方、まずはご予定ください。

Collage_3学期


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きみトリの授業にご興味のある方へ

きみトリプロジェクトでは、学びの場を学校、学童、地域の居場所、コミュニティなどで開催しています。

実施例:
小学校6学年キャリア教育授業「仕事のトリセツ」(東京都足立区)
先生対象:きみトリをつかったワークショップのつくり方(未来の先生フォーラム)
みつけよう!いまのわたしが踏み出せる一歩 ~きみトリプロジェクトから学ぶ、対話と場~(シブヤ大学)
10代と考える:選挙に向けて、朗読を聴いてシチズンシップをゆるっと語ろう

単発/シリーズの実施可。講師/テーマ/内容応相談。オンライン対応可。
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