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永盛愛美
2020年9月6日 23:18
「お待たせしました。はい、今度はこれね。」葵がそう言って、大樹の目の前に小振りな皿に盛られたパスタをそっと置いた。店内は、また客足が遠のいたのか、誰も居なくなった。「え……あの?」「さっきの続きだよ。ケーキセットとデザートの試食したから、少なめにしておいたけど……若いから物足りないかな?」厨房から基が出て来た。「えっ?こちらも俺が?」「そろそろランチタイムになるからね。その前
2020年9月4日 06:07
大樹、基、葵が試食をしていたら、ぽつらぽつらと近所のお馴染みさんらしき客が来店し始めた。本当だ。葵さんが言ってた通り、さっきのおじいさんの後にお客様が来始めた。と、大樹は思った。皆さんメニューを見ないし、葵さんも注文を聞かない。違うかな。「いつものでいいの?」とだけ聞いている。基はいち早く厨房に戻り、いつもの注文の品を作り始めている。葵は各々のテーブルに座った一人、二人と接客しながら、
2020年9月1日 07:22
真っ赤なシャーベットは、ミニトマトとほんの少しの苺だった。「甘酸っぱいトマトの味がします。え?苺も入っているんですか?」「隠し味にね。バニラアイスよりも、チーズ風味の方が合うと思うんだけど、どうかな?」「ホントだわ。ちょっと塩味があって、トマトと合うじゃない。」「そうですね!俺もそう思います!甘酸っぱいけど塩気のあるアイスがチーズの味してるから、チーズとトマトを食べている感じですね!
2020年8月31日 18:37
コーヒーの香りに惹かれ、本日のケーキセットを自分でも知らない内に夢中で完食した大樹は,やっと本来の目的を果たそうと、立ち上がった。「ごちそう様でした。とても美味しかったです。……あの、それで……後になってしまいましたが、その。」「小西君のお口に合って良かったわあ。……え?何?」大樹は傍らの手提げ袋を葵に差し出すと、「あの、先日は大変お世話になり、ご迷惑をお掛けして、申し訳ございません、
2020年8月28日 20:39
薄いグレー系でテーブルセットやスツールを統一された店内は、照明の明るさをワントーン落ち着かせている。深緑色のブラインド、薄いミントグリーンのカーテンも落ち着いた雰囲気を醸し出していた。ほっとできそうなカフェだなあ……。あまり混んでなかったら、ゆっくりしたいかも……。大樹が店内を見回していると、八十代と見られる男性客が大樹を見て、笑顔になった。「あれ、俺の貸切かと思ったら、珍しい事もある
2020年8月28日 00:25
〔カフェバー 岬〕は、道路沿いの住宅地の中で隠れ家の様にひっそりと営業している。外観は普通の民家の様に見える。小さな看板が入り口付近にこじんまりと添えてある感じで、バス停から5分以内で到着出来る好条件であるのに、売り上げは大丈夫なのか?と疑問を抱くほど、開店状況を前面に押し出してはいない。であるから、初めて店に訪れる客は、八割~九割方口コミで来店している。「あそこにオカマの店長がいる」「
2020年8月26日 21:21
就職して初めてのゴールデンウィークが、思わぬアクシデントにより呆気なく味気なく終わってしまった。大樹はカレンダーを眺めながら、軽いため息を吐いた。「ゴールデンウィークってこんなに短かったっけ?」〔カフェバー 岬〕に連休前日から、30日の夕方まで滞在し、オーナーの基や店長の葵に世話になっていたので当然である。但し、本人は約一日半の間、基の部屋で眠り込んでしまったので記憶が抜けている。
2020年8月24日 21:27
ゴールデンウィークに入って2日目の昼。ブランチを基に用意して貰い、さあ食べよう、という時、ピンポーン……とインターホンが鳴った。その時、基が低く「チッ」と舌打ちをした。大樹は(どうしたのかな?)と、今までにこやかに話していた基が一瞬で表情を崩した事に驚いていた。「あっら~眠りの国の王子様はお目覚めになったのねえ?良かったわ~!」(店長さんだ!)声を聞いて、大樹は倒れる寸前の記憶
2020年8月23日 07:33
……今、何時だろう。大樹はベッドの中で、寝返りを打ちながらぼんやりと思った。なんだか身体がスッキリしている様な気がする。ぐっすり眠れたのかな……もう起きる時間かな……?ベッドのヘッド部分に置いてある、小さな目覚まし時計を取ろうと、目は瞑ったまま、右手を伸ばした。あれ?……無い?落っことしちゃったかな。もう一度手を伸ばし、何となく違和感を覚える。ヘッド部分が変だ。っていうか、高
2020年8月21日 23:39
「重要書類良し、名刺良し、身だしなみ……多分、良し。」小西大樹(こにし ひろき)は、初めてのおつかいの様に緊張していた。(この重要書類をお得意先の〔カフェバー 岬〕のオーナー様にお渡しすれば、明日からゴールデンウィークだ!)深呼吸して、ドアを開ける……が、鍵が掛かっていて開かない。「あれ?今日は営業されているはず……それとも、入口が違うのかな。」営業課長の本橋和弥(もとはし か
2020年8月20日 15:23
いつもの様に手早く食事も後片付けも済ませると、基は翌日の食材の確認に入り、葵はメモ帳を前に腕組みをして再び悩み始めた。「そんなに考え過ぎなくてもいいだろう。呼ぶのはお前の兄弟とかでいいんじゃないか。」厨房から基が手元の食材をチェックし、控えを取りながら葵に言った。葵の父が社長をしている杉崎商事(株)北関東支社。そこに葵の従兄弟がそうとは知らずに入社してきた。本人は全く知らない。伯父が社
2020年8月16日 09:05
「基(もとい)、和(かず)兄から連絡が来たわ。調査結果が出たそうよ。」葵(あおい)がエプロンを取りながら珍しく深刻な面持ちで調理場へやって来た。「和兄(かずにい)って、たまにウチの店に来てくれるお前の従兄弟の本橋和弥さんか?」「そうよ。支社の営業課長なのよ。連絡は父から来ると思ってたら違ったわ。」基は洗い終わった食器類を乾燥器に入れてから、翌日の準備作業に入ろうとして手を止めた。
2020年8月10日 14:42
俺は、杉崎基(すぎさき もとい)。母方の従兄弟、杉崎葵(すぎさき あおい)と共に、カフェバー岬をやっている。断っておくが、アイツがオカマだからと言って、オカマバーでもゲイバーでもない。至って普通のカフェバーだ。そのつもりである。ただ、俺たちがゲイだと言うだけだ。葵はわかりやすいからいいとして、俺は身内以外誰にも話していないから、ゲイとは分からないと思う。まあ、分かる奴には分かるだろう。俺も、
2020年8月10日 07:06
アタシは杉崎葵(すぎさき あおい)。身体は男の子だけど、心は乙女よ。いわゆるオカマってワケ。母方の従兄弟の杉崎基(すぎさき もとい)と、昼はカフェ、夜はバーになるお店〔カフェバー 岬〕を経営しているの。基がオーナーでアタシが店長だけど、共同経営者って事ね。実はアタシ達、ゲイなの。基は男の子が好き、アタシも男の子が好き。偶然その事実が発覚した時は……ビックリしたと同時に「ラッキー!」って思っ