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「人の原稿を直すとき」の心得-編集者に求められる2つか3つの視点

Twitterでの編集人材とのやりとりを企画にするこの企画。予想だにせぬ反響で、、ありがとうございます。「教えることこそ一番の勉強」という通り、僕自身が多くの気づきをいただいておりありがたい限りです。ありがたや、ありがたや。Twitterなどでご感想いただけると励みになるので、ぜひいろいろ教えてください。
さて今回もご質問をいただきましたので、取り上げさせていただきます!

ライターさんへの赤字やフィードバックにどのくらい時間や労力をかけるか、どのようにしているかが知りたいです。どのように修正指示を伝えているのかもしりたいです。

 
おっしゃる通り、編集者のみならず、ライターとして一定の経験を経るようになると、「人の文章を直す」という瞬間が誰しも訪れるのではないかと思います。そういうときのさじ加減って、ほかの人の事例を見ることも少ないからよくわかんないですよね。
 
僕自身も、ライター・記者から編集者に転向し、「どこまで直していいの?」「どうやって修正意図を伝えたらいいの?」と右往左往している人材を何人も見てきました。
今回はそういう人を見かけた時に何を伝えているか、お伝えします。

そもそもなんで、編集が必要なのか


具体的なノウハウに入る前に、「なぜ原稿に、編集者が必要なのか」について考えてみたいと思います。

・ライター1人の視点で仕上げると、視点が硬直ししてしまうから
・ライター1人だけの対応だと、自身のミスに気づけないことがあるから
・ほかのコンテンツとの標準化が必要だから

などなど、たくさんの理由が思い浮かぶのではないでしょうか。

僕個人としては、「編集者とは、その原稿の1人目の読者でもあり、その後に続くであろう多数の読者の代弁者である」というふうにとらえています。

そのうえで以下の「大きく2つから3つの視点」で工程を分けて、それぞれをつぶすように、原稿に手を入れていきます。

①  一人目の読者として、読む
②  編集者としてあらゆる方向から、直す
③  校閲校正者として、確認する
※③まで編集者がやるかは媒体によります

それぞれご説明します。

【1】  まずは「一人目の読者」として、読む

ライターから原稿が届くと、「すぐさまWordファイルを開き、印刷し、赤ペンを持って一文字ずつよくチェックしながら赤を入れていく…」という編集者がいます(あるいは、校閲ボタンをクリックして、さっそく直し始めるみたいな)。

人によってスタイルがあるとは思いますが、その編集者が「やり方を模索しているフェーズ」であれば、僕は「まず、読者として読んでみてください」とお伝えしています。想定する読者はおそらく、記事を印刷して赤ペンもって読んだりはしません。特にウェブコンテンツの場合、電車内にスマホで、仕事中にPCで…とか、他のことも考えながら読んでいる人が多いのではないでしょうか(※うちがウェブ媒体だからというのはあります)。

だから僕自身も原稿が届いたら、あえて印刷もせず、そしてあえて「大して集中もせず」、1本3分くらいで「さらり」と読みます。地味にこの瞬間が「最もフレッシュな視点で原稿に向き合えている」、唯一のかけがえのない時間だったり。

そして、以下大きく2点を、どこかにメモしておきます。

①   記事全体への感想
 (こういうメッセージだととらえたとか、面白い・面白くないとか)
②   特に面白いと思った箇所、逆に集中力が途切れた個所はどこか

正直ここは、「変にプロっぽく」せず、ある程度主観的でもいいんじゃないかと思っています。そしてここで一度原稿を印刷し、次の工程に移ります。
 

【2】  編集者としてあらゆる方向から、直す


ここから「ザ・編集者」としてのお仕事が始まりです。

ちなみに、原稿を印刷するかどうかは人によるとは思うのですが、他の作業に邪魔されず没頭できるので、僕は印刷することが多いです。

それはさておき今度は原稿を「しっかりと」「内容を理解することを意識して」読んでみます。すると①の工程で「読者として」読んだときと比べて「あれ…ここの理解間違ってたな」とか「ここって初見では印象に残らなかったけど、大事なこと言ってるな」とか、“1回目とはまた違う印象”を覚える箇所があったりします。
 

なぜ、自分は1度目に読んだとき、読み違えていたのか。


そう感じた時に、編集者としての自分が登場します。
 
まずは、その違和感を「記事全体の構成レベルの問題」と、「個別段落の文章レベル」に分解したうえで、まずは構成レベルで「分かりにくい段落」を入れ替えたり、章立ての順番を変えるなど「ダイナミックな編集」を行い、それから段落や文章レベルなど、「ミクロレベルの編集」も加えてみましょう。

このときに気をつけたいのは、冒頭でも申し上げた「その後に続くであろう多数の読者の代弁者である」という姿勢です。媒体にもよりますが、読者には様々な思い・境遇の人がいるはず。「その軸」を多重的に準備し、1軸ずつつぶしていくような気持ちで、何度も読み、必要だと思う編集を考察し、手を加えていきます

軸の例)
・読者が気になるであろう話題に焦点が当たっているか
・読者がその原稿に求めるであろう目的に合致するか
・タイトルと内容に乖離はないか
・記事を読むシチュエーションに配慮できている
か・そのトピックをめぐる賛成派・否定派への配慮はできているか
・誰かを傷つける表現になっていないか など


この中でもクリティカルな視点として、「誰かを傷つけるような体裁になってないか」には、細心の注意を払います。
特に「何かの是非について論じる記事」においては、必ずと言っていいほど、その記事を出すことで「否定された気持ちになる人」が出てきます。そういう人たちの存在を織り込んだうえで掲載するのか、しないのか。バランスを取るべきか、取らざるべきか。そこに覚悟が持てるのかなど、何度も何度も編集者として読み返し、1回目に感じた「一読者としての所感」と、「編集者として、何らかの軸を持ったうえで読んだときの違和感」を擦り合わせていきます。

※  なお、上述した6つの軸はあくまで例であり、どういう軸があるかは、媒体によります。あまりにたくさんの軸に備えすぎるとターゲットが細かくなりすぎたり、逆にファジーになったりするので、優先順位をつけながら多様性に配慮することが大事かなと思います。
 
可能であれば、「編集者として感じた違和感」はワードのコメント欄にも記載し、どういう読者に対して想定した修正であるのかを、ライターに伝えるようにしてみましょう。

さてここで、「いやいや、修正一つ一つにコメント入れてたら自分で書いた方が早いでしょうが」「エアプかよwww」と感じる編集者も多いと思います。ほんそれです。僕の場合、そういうときは実務上、どういう「軸」で編集を行ったかを記載し、「総論」としての編集意図を記すようにすることも多いです。とはいえ、やり取りをして間もない相手であれば、そのあたりのさじ加減が伝わりきらない可能性もあるので、特に初回はできるだけ細かく修正の意図を伝えるようにしています。メール本文にも「初回なので少し細かめにコメントを入れさせていただきました」というふうに但し書きしておくと、その後の原稿に密な編集コメントがなくても、編集者としてのスタンスの統一性が伝わるのでおすすめです。

なお、段落を入れ替えるような大規模な編集を行うとWordファイルが真っ赤になってしまい、どこを直したのかが逆に分かりづらい&ライターさんのモチベーションを削ぎすぎることがあるので、真っ赤すぎる原稿になったとき、僕はあえて修正履歴が見えないようにしたりすることもあります(この辺はコミュニケ―ションかなと)。

【3】校正・校閲者として確認する

ここは社内外に校閲者がいるのかや、デスクがどこまで原稿の細部までチェックしているかなど、編集部の体制によって大きく対応がわかれるところだと思います。仮に編集者に校正・校閲な役割を担っている場合は、固有名詞の間違いや公的データと照らしたときの食い違いがないかなどを把握し、必要があれば修正を行います。
 
とはいえ、事実関係についてはライター自身がかなり経緯を把握していることが多いので、編集視点ですぐに真偽が分からない箇所については、「どういうふうなエビデンスに基づいた記載なのかどうか」など、具体的に参照元を聞き直して、やり取りさせていただくことも多いです。

フィードバックを「どう伝えるべきか」


ここからは、「ライターにどうフィードバックを返していくのか」。
僕の場合、フィードバックのメールは大きく3点の構成で成り立ちます。

①  一人目の読者としての感想
②  ライターに追加でお願いしたいこと(事実関係の再確認など)
③  全体的な修正意図

 ①  一人目の読者としての感想

 まずメール冒頭に、上述した【1】の工程で控えておいた「一読者として感じた感想」を率直にお伝えするようにしています。

よく、ライターが編集者に修正稿を送り返すとき、編集意図だけを伝える形の機械的なやりとりになりがちなのですが、ライターの側も色々な工夫をしたり、時間をかけて原稿を書き上げてくれている分、「面白いかな」「分かりやすいかな」と不安になっているケースが多々。
あまり冗長になりすぎるのもよくないので、「面白かった」「最初こういうふうに思ったけれども、本当はこうだったというところが少しわかりづらかったように思った」とか、端的に「一人の読者」としての感想を伝えたほうが、人間的なやりとりかなと思っているので、僕はこうしてます。
 

② ライターに追加でお願いしたいこと

次に、「②ライターに追加でお願いしたいこと」を記載します。

特に事実関係に疑義があって再確認をお願いしたいときなんかは、ライターに動いてもらわないと物事が先に進まないので、TODOとして認識してもらえるように明確に伝えます。

もちろん原稿の修正履歴のコメント欄メールにもお願い事項は記載しますが、ファイルの中に質問が入っていることに気づかないライターさんも発生し得るので…。

③  全体的な修正意図

そして最後に、③編集全体の「総括」をお送りします。要するに、「今回どんな軸で編集を行ったか」など、赤字全体に共通することをサマリーとしてお伝えする感じ。「詳細はワードのコメント欄もあわせてご参照ください」と伝え、締めくくっております。
 

ベストプラクティスは人による。考えよう

なんか、緩急もつけずにババーっと記載してしまいました。くどかったらおそれいります。ここまで読んでくれてありがたいかぎりです。

繰り返しにもなりますが冒頭に記載した通り、僕自身は編集者としての自分を、「その原稿の一人目の読者であり、その後に続く多数の読者の代弁者(&必要に応じて校閲・校閲者)」という視点で捉え、そのスタンスで感じたこと・考えたことをできるだけ明確に伝えるようにしています。

ご自身の仕事のスタイルや、媒体特性、編集体制によってベストプラクティスは変わってくると思うので、もしエッセンスとして参考になるところがあれば。あと、「こういう風にしたらいいよ!」「こういう工夫をするといいよ!」というアイデアがあれば、ぜひぜひ教えていただけるとありがたいです。ではまた~(ネタ募集するので、何かあればTwitterでお声がけください!)

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