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赤いシグナル

辺りの音が聞こえなくなった。こんな日は、様々な模様の結晶がゆらゆら降りてくる。

私は、お気に入りの毛糸の帽子とエンジ色のマフラー、チェックのコートを身に着けて立っていた。北国の寒さは顔を凍らせる勢いで、頬を真っ赤にさせる。

時折、突き刺す風がやって来ようものなら、風上に背を向けて、何とか耐え忍ぶ。それでも、心までは冷え切ることはない。

雲に覆われて遠くから見える街の灯りが点々と輝いている。小さな宝石箱みたいだ。

幼い頃、私が大事にしていた宝石箱には、鍵が掛けられるようになっていて、ガラス細工の宝石の他にも、仕舞い込んでいるものがあった。

一枚の写真…

ある人から貰ったものだ。今も宝石箱にそのまま大事に保管されている。


地平線の彼方から赤いシグナルが目に飛び込んでくる。

ゆっくりではあるが、着実にこちらに向かって来るのが分かった。

手がかじかみ、両手に息を吹きかける。私の周りは真っ白になる。

無意識に私は歩き始めると、地面に積もった雪がキュッキュッ鳴いていた。


次第に遠くからエンジン音が山なりに聴こえてくる。

あと少し…

私は、大きな建物の中に吸い込まれるように駆け足になっていた。


到着口の前には人集りが出来ている。老若男女、お目当ての人を見つけると、大きく手を振ったり、会釈をしたり、顔がほころぶ。

この場所だけは、何か朗らかな雰囲気を魅せた人と人との終着駅。またひとり、またひとり、一緒に立ち去っていく…

出てくる人は減っていく。

私はキョロキョロしながら入口を目で追っていた。鼓動が増々早くなっているのを感じながら長い時間立ち尽くしていた気がした。


目が合った。


彼は手を挙げた。私は安堵に包まれて、視界がぼやけて見える。

更に彼の姿が大きくなっている。等身大の姿が目の前に現れると、大きな暖かい手が、肩にそっと触れた。

もう抑えきれなかった。私は彼に抱きついた。

「遅くなってゴメン」

「いいの、こうやってここにいるんだから…」

「ありがと…ただいま…」

「おかえりなさい…」

私のエンジ色のマフラーが、微かに揺れた。彼はにこやかな表情を浮かべて頭を撫でた。

私のクリスマスプレゼント…

彼と私は手を繋ぐと、ゆっくり光の射す方へ歩き始めた。

『宝石箱の中に入った一枚の写真と同じ…』

私の心の中が、パッと灯りが差し込んでいく…

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