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マイノリティーの中のマイノリティー

 小さな頃、世界の全ては、お母さんだった。お母さんは私を取り巻くすべての砦で、私はお母さんの事が大切だった。本来母という存在は我が子を守り、暖かくアンコンディショナルな愛を注ぐ、聖母のようなものだと思う。しかし、それが鬼のような存在だったとしても、それが世界の全てである子供たちは、殴られようが食事を与えられまいが、その手に縋りつくのだ。ママ、私を捨てないで、と。守られず、虐げられた子供たちは、本来築くはずだった健全な人とのつながりを築けないまま大きくなる。
 山寺香著の「誰もボクを見ていない」を読み終えた時、私にはどうしようもない憤りと、ある出来事に対しての自分への情けなさがあふれてきた。
 2014年、埼玉県で発生した老夫婦強盗殺人事件。事件の犯人は、老夫婦の孫である17歳の少年だった。世間一般の人々はこのニュースを聞き、ああまた少年犯罪か、物騒な世の中になったなあ、とか、非行少年が遊ぶ金欲しさに自分の祖父母を殺したんだろうなあ、なんて感じで受け止めたと思う。しかし、この事件にはその時誰もが考えもしないような、闇があった。
 17歳の少年は、その頃問題になっていた「居所不明児童」だった。その頃問題になっていたのは、虐待の末殺された子供たちが大半を占めていた。2014年の時点で居所不明児童の数は三千人近くいたのだが、二年後には未確認の児童が35人まで減っていた。という事はそれだけ行政がほったらかしにしていたという事であろうか?しかし、居所不明、という事は戸籍や住民票があるというわけで、世の中には出生届すら出されていない子供たちがいるのも事実だ。そういう子供達は、存在しない子供達なのであるから、どういう風に安全を確認したらよいのであろうか?
 少年は小学五年生から中学二年になるまで学校にも通わず、母親とその恋人に連れられラブホテルに泊まったり、野宿をして各地を転々と連れまわされた。
 少年の母親は三回の結婚と四回の出産をしているそうだが、最初の結婚の時にできた二人の子供は夫が引き取ったそうだ。二度目の結婚で少年が生まれ、その後二番目の夫と離婚し、少年を連れまわしているときに、三人目の夫との間に子供が生まれる。母親は浪費癖があり、ホスト通いや遊ぶ金欲しさに平気で嘘をついて、親戚や両親に金の無心をしていた。夫の稼ぐ金も全て浪費してしまい、給料の前借も日常茶飯事だから堪ったものじゃない。しばらくすると家賃が払えなくなり、夜逃げ同然で逃げていく。二番目の夫の母親が善意で借りてくれたアパートも、家賃分のお金はあったはずなのに全て別の事に使ってしまい、家賃を滞納してしまうのだ。普通の感覚の人間であったら、こういう環境に耐えきれなくなると思う。二番目の夫もついに愛想をつかしたのか、別の恋人を作り出て行ってしまう。その頃まだ母親は、水商売などをしてお金を稼いでいた。少年とサッカーの練習なんかして、優しかった。
 私の住む国にもお金の使い方がわからない、子供のような大人たちがいる。嘘を平気でついて、その嘘をカバーするためにまた別の嘘をつく。私の心臓は、数年前の私に対して、ひどく嫌な感じで訴えてきた。ああ、この少年は、私のそばにもいたじゃない。思い出すのが怖かった。
 トレイシーは、連れのいとこだった。連れよりも三つほど年上で、初めて彼女に会ったのは、私たちが結婚する前だった。連れの父方の親戚にはよく会っていたのだけれど、母方の親戚に会うのはその時が初めてだった。テレビでフットボールか何かの試合を友達と観る、そんな感じの集まりだったと思う。彼女には三人の子供たちがいた。五歳のディエロ、四歳のアイゼア、そして末っ子で三歳のテリー。みんな男の子で、みんな肌の色が違った。そして最近結婚した夫は、その三人の父親ではなかった。三人の子供たちはそれぞれ別々の父親がいた。
 彼女の第一印象はよかった。優しくて気さくで、安心できたし子供たちも礼儀正しくて、かわいかった。その後私は結婚して、連れの母親に初めて会った。連れは母方の親戚には私を極力合わせないようにしてきた。しかし、その頃母方のおばあちゃんが病気で、みんな大変だったから、私も力になりたかったので会いに行こうと言ったのだ。そして、トレイシーに四番目の赤ちゃんが生まれたから、プレゼントも渡したかった。念願の女の子で、名前はイザベラ。私は小さくてかわいい洋服を何枚か選び、きれいにラッピングした。
 トレイシーの家に行く前に、近所に住む連れの母親のアパートへ寄った。そしたら、私がラッピングしたプレゼントを見て、連れの母がちゃんとタグを外したほうがいい、と忠告してきた。はじめ何でそういう事を言うのかよくわからなかったのだが、話を聞くうちにトレイシーは贈り物を返品して金に換え、その金を自分の為に使うそうなのだ。そういう事をする人間がいるんだと、初めて知った。まあ、贈り物なので気に入らなかったら返品しようが、私は構わないのだが、赤ちゃんの為にそのお金が使われないのはちょっと悲しい気がした。
 連れの母方の親戚たちはみな近所に住み、私は一種の違和感を感じた。皆が皆を監視しあっているような、お互いに依存しているような、不快な違和感。部外者を排除しようとするような、居心地の悪さを感じた。だけど私は、家族だと認められようと必死に、そこに馴染もうとした。
 しばらくして、おばあちゃんが亡くなった。連れの母とその姉達が最後のお世話をしていたのだけれど、みんな放心状態でお金もなく、少しだけれど私達もお金を出した。おばあちゃんとアパートを借りていた母親は、家賃が払えなくなりそうで、その時ルームメイトと折り合いの悪かった私の事もあり、私達は連れの母と同居することにした。
 そこから私は、深い深い闇に飲まれていくのだったのだが、これは書くと途方もなく長くなりそうなので、今回は省略してトレイシーの事だけ。
 トレイシーの四人の子供達は、個性さえありはしたものの、普通の子供たちに見えた。三男はちょっと多動があったけれど、異常ではなかった。長男は頭の良い子が選ばれるギフテッドというのに選ばれていたし、次男は人一倍繊細で、優しかった。一番下の女の子は、褒めてあげると素直に喜ぶかわいい子供だった。そんな子供達の未来を私達はズタズタにしてしまったのかもしれない。
 連れの母親は昼間トレイシーが仕事に出ている間、政府からお金をもらって子供たちのベビーシッターをしていたのだが、勉強を見てあげることもなく、外に遊びに連れていくこともなく、ヘルシーな食事をさせるでもなく、毎月信じられないくらいのお金を稼いでいた。その稼ぎがあるにもかかわらず、月末にはお金がないのだ。当然、貯金もゼロ。
 トレイシーはよく職場でトラブルになり、職を転々としていた。もしトレイシーに仕事がなければ、連れの母親もベビーシッターをする資格がなくなるので、政府からお金がもらえなくなる。トレイシーが仕事を辞めたり、クビになるとよく叫び合いの喧嘩をしていた。親戚同士でそういう叫び合いの喧嘩をした事のない私はすごく恐ろしかったが、感覚というものはだんだんと麻痺していくもののようで、叫び合いや罵り合い、そして警察を呼ばれることが、私の中で段々と普通の事となっていった。
 かわいそうなのは、子供達であろう。私も一人目の子供が生まれたばかりで、精神的にもだいぶ参っていたと思う。喧嘩が始まると、ベビーカーに子供を乗せてあてもなく夜道を彷徨ったものだ。その頃連れは、大学に通いながら仕事を掛け持ちしていた。私は初めての子育てで、うつ状態ということもあり、なかなか外で働く気になれなかったし、大切な子供を安心できない人に預けるくらいなら貧乏であるほうを選んだ。
 トレイシーは、周りのみんなを巻き込み危険にさらした。例えば家賃が払えなくなり、子供四人と夫を連れて夜逃げしてくる。しかし契約に載っていない人間を賃貸に住まわせるのは契約違反なので、大家さんと揉める。他を探してくれと言っても、なかなか出て行ってくれず、しまいには我が物顔でそこに住み着き、立ち退きの危機にさせる。当然のことだが、契約書に名前の載っていないトレイシーは傷つくこともないし、裁判になっても出廷する必要がない。傷付くのは助けた私達で、立ち退きになればそれが記録に残る。
 私もよくトレイシーと言い合いの喧嘩をした。怖かったけれど、我慢できなかった。子供達のことが多かったと思う。でも、何度目かに無駄だと諦めて、関わりたくないと思うようになった。こういう人間は、自分の事しか考えていないから、何を言っても無駄だ。口だけはうまいので、かえって私が不利になった。汚い言葉で罵られ、国へ帰れと蔑まれ、私の中の価値観はズタズタに傷つき、心が空っぽになった。逃げ出したかった。お金がない。私は色々な事に押しつぶされそうだった。
 連れの母は病気になり、入退院を繰り返すようになった。それでもトレイシーは巻き込むのをやめなかった。三男を精神的に異常があると決めつけて、政府からお金をもらい、大量の薬を病院からもらい、その薬を売っていると聞いた。食べ物の援助を政府からしてもらうカードがあるのだけど、それもお金に換え、次男を鬱にしてそこからもお金をもらう。大家さんが不在の際、自分が大家の知り合いだと嘘をつき家賃を横領し、そこから逃げ出した。どうして、彼女が警察に捕まらないのかすごく不思議でたまらない。
 病気になった連れの母は介護が必要になり、トレイシーがすると言ってきた。政府からお金がもらえるのだ。しかしお金だけもらって、彼女は行方不明になった。その間私と連れが無償で(というのは変だけど)彼女の介護をした。
 三ヶ月ほど三男と長女を連れ、新しい恋人と行方をくらましていたトレイシーは、再びのこのこと戻ってきて、何食わぬ顔で居座り始める。
 私は二人目が生まれてしばらくして、働き始めた。連れの仕事がうまくいっていなかったし、一刻も早く自分達だけの居場所が欲しかった。その頃、連れの母親名義の2LDKのアパートは私と連れ、そして二人の子供達が住んでいる事になっていたのだけれど、連れの母が慈悲深いのか、家賃を浮かせたいのか、色々な人を呼んでは住まわせるのだ。まず転がり込んで来たのが、連れの兄。彼は仕事もせず、連れの父と住んでいたのだが問題を起こしてホームレス状態だった。生活保護のようなものももらわず、母親の金でアルコールを飲むクズのような存在だった。しかも精神病院に処置入院した時に知り合った、ジャバザハットのような女性を連れ込み、一緒に住み始めた!彼女もアル中でめちゃくちゃな人間だった。その後連れの母の姉が刑務所から出てきて行く所がないから、と住み始め、トレイシーと二人の子供たちが戻ってきた。そういう人間たちが、毎日毎晩何かしら喧嘩を始めるのだった。私たちはベッドルームのドアを閉め、必死に待つのだ。毎日のように警察がやってきた。時に発作を起こした連れの母のために救急車を呼ぶのだが、警察官や救急隊員の人と顔見知りになってしまった。
 五人住んでいるはずのアパートに、最高の時で十一人住んでいたのだ。大人しくしていればいいのに連日大喧嘩で警察が来るのだ、大家さんが見逃すはずがない。立ち退き勧告が来た。一刻も早く次の住処を探さなくてはならない。次は、連れの母親でなく、私達の名義にして好き勝手出来ないようにしようと思った。連れと一緒に、お母さんを説得した。お母さんだけは、一緒に来てほしい、と。
 でも彼女は、トレイシーと一緒にいるほうを選んでしまった。
 私たちが引っ越して一ヶ月後、連れの母が死んだ。
 吐血して、その血をのどに詰まらせ、死んでしまった。酸素ボンベをつけているのに、タバコをやめられなかった。入院しても、医者の許可なく家に帰ってしまう。ストレスもすごかったと思う。
 トレイシーは、連れの母が加入していた生命保険会社に連絡して、受取人は自分だといった。死んでから、真っ先にした事がそれだった。
 連れの母が生前、私に託した事があった。
「少ないけど、もし私に何かあったら、これが生命保険の契約書。受取人はあなたの夫。お葬式を出せるくらいはあると思うから、絶対にトレイシーには渡さないで。そして絶対に火葬にしてちょうだい。土葬は絶対に嫌だから。あなただけは信用できる」
 保険会社から連絡があり、契約書のある私たちが保険金を受け取ることとなった。斎場でもトレイシーが主導権を握ろうとしてきた。あろうことか、彼女は土葬の手続きを始めようとしていたので、それだけは阻止した。どんなスピーチをしようが、どんな音楽を流そうが構わなかったが、土葬だけは彼女の意思に反すので、譲れなかった。
 葬式が終わり、私達は極力連れの母方の親戚とは距離を置くようにした。
 トレイシーの四人の子供達の消息は、ほとんど不明だ。
 長男は二十歳くらいだと思う。高校をドロップアウトして、二人の子供のお父さんだ。彼女とは別れたらしく、私の働くラーメン屋に新しい彼女を連れてやってきた。元気そうだった。もう一年近く会っていない。
 次男は十九歳くらい。高校にも行かず、家出してギャングに入り刑務所を出たり入ったり。最後に会ったのはもうずいぶん前で、道端で偶然見かけ声をかけてくれた。相変わらず優しく、顔に入れたタトゥーが痛々しかった。身長も体格もよくなり、しっかりしている感じがした。父親と暮らしたり、彼女と暮らしたりしているようだ。
 三男は十八歳くらい。彼は聡明で気も効き、一番しっかり者だった。でも、性的マイノリティーであり、それを受け入れてくれなかったトレイシーに追い出されることとなったようだ。いろいろな場所を転々としていたようで、私も彼には比較的多く会っている。でも決まって自分に良いような事を言って、強がって見せる。本当はホームレス同然だと思う。好きでもない男の人と暮らしていた事もある。年のいった危険そうな男女のカップルと行動していた事もあった。久しぶりに会った時、彼はまあまあうまくやっているようで、好きな人とアパートを借りたと言っていた。着ているものは安物だが、おしゃれだった。身長もすごく伸び、三歳だった彼を思い出して、大きくなったなあ、と思った。
 いい親であろうと、悪い親であろうと、いずれ別れの時は来る。
 少年は、母親に置き去りにされた期間があって、そのトラウマからか、また置き去りにされるかもしれないことに極端に怯えていた。だから、母親に必死に縋り付いた。捨てられないように、必死に言うことを聞いた。お金を親戚から借りて回った。足りそうになかったら、もっと必要だと嘘をついた。逃げ出した母親の恋人の代わりに働き始めた。そこでも、給料の前借をした。母親に裏切られないように、沢山の人を裏切った。母親に置いて行かれないように、言われた事をきちんとこなした。母親は、良い親戚達の悪口を言い、少年を疑心暗鬼に陥れさせた。母親に言われたから、もうきっと感覚がおかしくなっていたんだと思う、善悪の判断が鈍っていたんだと思う。普通って何?お金が欲しい。お母さんには、お金が必要だから、殺してでも手に入れなくちゃいけない。少年はついに超えてはいけない一線を越えてしまった。逃げようと思えば逃げられたのではないか?そうであろうか?言うのはすごく簡単だが、あなたは当てもないのに、逃げることができるであろうか?私も子供を連れて逃げる事だってできたかもしれない。でも、未知の境遇への恐怖というものがあったし、感覚が麻痺していたし、何よりその生活が心地よいと言ったら変だけれど、そういう感覚もあった。逃げる事は、すごく勇気がいるし、行動力も必要だ。
 そして、赤の他人が少年を救うことは可能だったのであろうか?私は、結婚により、親戚となったトレイシーの四人の子供たちを救えなかった。手を差し伸べる事が出来なかった。口出しをしたこともあったけれど、警察を呼ばれ不利な立場に立たされた。弱い立場にいる私は、彼らを救えなかったし連れの母親さえ説得できなかった。少年の母親も、黙って行方をくらます事はなく、わざわざ学校の先生に一言言って、放浪をはじめた。ずる賢いんだと思う。自分を守る事には長けているんだと思う。気を付けないと、助けようとしたあなたが不利な立場になるかもしれない。未成年を助けるのは、私の住む国では本当に慎重にしないと、性犯罪者になって死ぬまで記録が残る。行政や学校はいい加減だ。他人の生活には極力踏み込まないようにするが、運よく通報で子供が保護されたとしても、グループホームやフォスターケアで二次被害にあう子供達も多い。もう、何が子供達によいなんて、本当にわからない。自分の生活や人生を顧みないのだったら、正義感だけで子供達を救えるのかもしれない。しかし、救ったら救った後の事も考えてほしい。その救った子供達にも人生があるのだから。長く見守ってあげて欲しいし、興味本位だけで関わろうとするのはやめた方がいいと思う。
 本来守るはずの母親が、突き放してしまったひとりの人間。
 「誰もボクを見ていない」
 母親でさえ、少年を見ていなかった。少年は彼女にとって、ただの金づるだったのか?
 トレイシーもそうだ。子供はただの金づるだ。政府からお金をもらえなくなる年齢を過ぎると、子供達を突き放すように家から追い出している。いま彼女は十三歳の長女と各地を転々としているらしい。
 少年にも妹がいた。育児のできない母親に代わり、年の離れた妹の面倒をよく見ていたそうだ。父親の違う妹を本来なら憎んだり、虐めたりしそうだが、母親に命令され折檻した時でさえも優しく加減したり、少年は妹をすごく大切に育てた。逮捕された後もすごく妹の事を気に掛けていたみたいだし、自分よりも先に釈放される事になるであろう母親が、妹を良いように利用するのではないかという心配までしている。私も、イザベラが心配でたまらない。
 少年は居所不明児童というマイノリティーでありながら、性別違和というセクシャルマイノリティーの問題も抱えているみたいで、小さなころから外でスポーツをするよりも、インドアで絵を描いたりお話を作ったりすることのほうが好きだったらしい。男性的な仕事に就いた後、少年は奇抜なファッションに身を包みあてもなく街を歩くことが唯一の楽しみだったそうで、生物学上は男性だが、心は女性だという。
 もしそれが本当なら、女性が男性刑務所に収容されていることと同じになる。少年は性的虐待も受けているので、そういうトラウマから男性に嫌悪しているかもしれない、ということもあり得るそうだが、私は少年が虐待を受ける前から、女の子であったんだと思う。女の子の友達が多く、セーラームーンが好きで、髪の毛も長く伸ばしたがり、妹を守ろうという、母性本能のようなものがある。男だらけの職場で、心が落ち着かなかっただろう。本当はもっとかわいい洋服を着たかったかもしれないのに、殴られた時に折れてしまった歯。諦めのような、悲観。もう、私は女じゃない。
 少年は越えてはならない一線を越えてしまった。大切な、人間の命を奪ってしまった。優しかった祖父母を殺めてしまった。しかし最低な事をした人間にでさえ、人権はあるのだ。
 少年が望むなら、治療をさせて欲しいし、男性に対して嫌悪感があるのなら、それも克服させて欲しい。そして何よりも、彼女が他人との健全な関係を築けれるようになってほしい。
 裏切られることや別れに対して、強くなってほしい。偽善者ばかりの世の中では、決してないということを知ってほしい。信頼できる人や、心を受け止めてくれる人間はきっとどこかに存在するし、たとえ存在しなくても人間は生きていける。逆にあなたが守ってあげることだってできる。妹を必死に守ったように、そういう存在が現れるかもしれない。
 そしてあなたのお母さんは変わる事はないと思うので、全力で回避してほしい。血の繋がりが無くても、信頼できる人間は存在するし、普遍的な愛情を注いでくれる人だって存在する。
 あなたを待ってくれている人間は、きっと沢山いると思うし、強くなってほしい。あなたが残りの人生、人を裏切らない事が一番の償いになると思う。
 最後に、この事件は本当に特殊で、被害者と加害者は血の繋がりがあり、親族同士となる。もしも自分の甥っ子が自分の両親をこういう事情で殺害したら、あなたならどう感じるであろうか?私には、よくわからない。あまりにも悲しすぎる事件である事は確かである。切っても切れない、縁。それが血縁である。少年の母親には姉がいたそうだが、被害者の親族でもあり、加害者の親族でもある彼女はもしかしたら色々な事の板挟みになっているのかもしれない。甥っ子を助けてあげる事は出来なかったの?なんて言われているかもしれない。一つの事件が起きるたびに、沢山の人間の人生が狂ってしまう。取り返しのつかなくなる前に、どうにか出来る事もあるはずだ。一人が不安なら、仲間を作ればいい。そして救った命には、責任をもって接してあげて欲しい。
 少しでも、透明な子供たちが安心して過ごせる世の中に近付きますように。

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