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LISTEN【読書感想文】

57日目。

悩み、というほどでもないが、自分ってこういう人間なんだなぁ、こういう特性を持っているんだなぁ、まぁこういう特性を持っているからしかたないかぁ、と常々感じていることがあった。

人と話すと疲れる、ということだ。
どんなに仲が良くて、どんなに大好きな人とでも、ある一定程度の時間、会話していると疲れてくる。
仲のいい友達なのにな、わたしってば無意識に気をつかっているのかしら?なんて、思ったこともあったけれど、大人になってからは、自分のこの特性を、あかるいあきらめのような気持ちで眺めていた。

真剣に人の話を聞いているから疲れるのだな、と気づいてからは、いい意味で「人の話を真剣に聞きすぎるのはやめよう」などと思ったりもしていた。

昨年秋に人生初の読書会に参加して『LISTEN』を読んだ。

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ぶ、ぶ厚い…。
500ページ超えの本なんて、大学生のときでさえ読まなかったかも…。
読書会という、いい意味での圧がなければ、この分厚さに怖気付いて読まなかったと思う。

読んでみて…。
ほんとうによかった。
癒やされた。

本書は「聴く」ということについて、いろーんな角度から語っているのだけれど、わたしをもっとも癒してくれたのは、「聴くことは贈り物だ」という言葉だった。

そして、その贈り物は、誰にどう授けるかは自分で決められる、とか、優れた聴き手は、自分の限界を知っていて無理をしない、などという言葉にもハッとさせられた。

わたしは、完全に、自分の能力以上のことをしようとしていたのだと思う。

「聴く」ことは、相手に対する礼儀正しさを示すもので、人として必ずやらなければならないことで、マナーだと思っていた。
(もちろん、そういう側面もありますね)
おっとりして内向的な子どもだったから、話すことは得意じゃなかった。今も得意じゃない。
だから、わたしは聴き手にまわることが多くて、上手に話せる人のことがまぶしく見えて、いつもうらやましかった。
「話せないわたし」は、自分の中ではカッコ悪い存在だった。

だから、「聴くことは贈り物」だなんて言われて、なんだかびっくりしたのだった。

この本を読んでいて、こんなことに思いを馳せていたある日、幼い頃の記憶が蘇ってきた。
小学校に入学する前、ランドセルを買ってもらって、ドキドキウキウキしているわたしに、母が言った一言。

「学校に行ったらね、先生のおはなしを、先生の目を見てよーく聴くんだよ」

わたしは、この言葉を、母の目を見てよーく聴いていて、こころに刻んだのだと思う。

子どもの頃、ただただ素直に聴いた母の言葉に、わたしは縛られていたんだ、ということに、この本を読んで初めて気がついた。
「聴く」ことは、わたしにとっては、この世界を生き延びるために「しなければいけないこと」で、生存戦略のひとつだったのだ。

「ねばならない」と必要に迫られて(と思い込んでいただけだけど)磨いてきた能力は、生存戦略としての役目を終えていいんだ、と、わたしはわたし自身に許可を出してあげることができた。
今度はそれを、自分の状態に合わせて、人のために「贈り物」として使うことができるんだ、と考えたら、癒やされて、あかるい気持ちになった。

聴くことは、話すことよりもパワフルで、それはアートだ、
聴く能力は磨いていくことができるし、それは芸術の域に持っていくこともできる、という言葉にも、とても励まされた。

「ねばならない」を卒業して、今度は「贈り物」として、「アート」として、聴くことを磨いていきたい。

わたしは、出会う人の、そして、自分自身の、たましいの響きに耳を澄ませて、それを聴いていたい。

最後に、本書の中で、わたしがもっとも好きな箇所を引用して、終わりにします。

銃乱射事件やテロ攻撃があると、犯人を知っていた人が犯人について「殻に閉じこもっていた」と口にするのは珍しくありません。家族はたいてい、連絡が途絶えていたとか、その人物が今どうしているか知らないなどといいます。
コロンバイン高校での銃乱射事件を扱ったドキュメンタリー映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』で、ヘビーメタル・ミュージシャンのマリリン・マンソン(この事件は、彼の音楽からの影響だという説もありました)は、銃乱射が発生した学校の生徒たちや、その地域の人たちにどんな言葉をかけるかと問われ、こう答えました。
「一言たりとも言葉をかけない。彼らが話したいことに耳を傾ける。それは誰もしていなかったことだから」
※『LISTEN』より引用

ただただ、まっさらな気持ちになって、耳を澄ます。
それが、誰かの人生を力強く支える贈り物になるのだとしたら、なんてすばらしく美しいことなのだろう。

***

ライティング・ライフ・プロジェクト(第4期)、満席にて受付終了いたしました。ありがとうございました。



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