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「さみしい」の代わりに「ママ大好き」としか、子どもは言わない

「とにかくママが~だいす~き♪」という幼い声が聞こえた。子どもたちを保育園に送った後、立ち寄ったスーパーの駐輪場での出来事だ。


ああ、うちの子もそう言うわぁ、と微笑んで、声の持ち主を探す。3歳くらいの男の子と、生後半年にも満たない赤ちゃんを抱っこしたお母さんの姿があった。


あ……。


暗転。さっきまでの朗らかな気持ちはどこに行ってしまったのだろう。わたしは、その男の子と、わたしの娘と、自分を重ねて見てしまった。


男の子のお母さんは、一切反応がなかった。
男の子を先に自転車から降ろして、やっとの思いでスタンドを立てて、抱っこで前が見えない状態の中、カゴからバッグを取り出した。

一連の動きが、疲れている。男の子は、お母さんの反応を待たずしつこく歌い続ける。とにかくマ~マがだいす~き、とにかくマ~マがだいす~き……。


ああ、この子は、さみしいんだな。



わたしの母は、忙しい人だった。義理の両親と同居して、家業を営みながら3人の子どもを育てた。

小さいころのわたしは、絵を描くのが好きだった。母に「一緒に絵を描こう」と言った、母は描いてはくれなかった。こんなことの繰り返しだ。

わたしは、母はわたしのことが嫌いなんだとずっと信じて疑わなかった。それは思春期が明けるまで続いた。

今ならわかる、母は、余裕がなかったのだ。あの頃を逡巡して彼女は言う、「ママは、おかしかった」。

あれは本当の母ではないのだ。それがわかるようになったから、今は、仲良くやっている。
銀座に出かけたり、美術館やクラシックのコンサートに赴いたり、劇団四季も観に行ったし、海外旅行もした。

だけど、あの男の子を見て、はっきりとわかってしまった。わたしは、さみしかった。構ってほしかった。もっとゆったりした気持ちで、わたしに接してほしかった。一緒に絵を描いてほしかった。ピアノを聴いてほしかった。お菓子を作りたかった。



わたしの娘は、勘が良い方だ。まだ6歳なのに、空気もよく読む。

夫が単身赴任になって、娘は「これからはみんなで一緒にがんばろうね!」と言った。
彼女は義実家からも、「太郎くん(息子)はまだ赤ちゃんだからね、花ちゃん(娘)はお姉ちゃんだからね、ママの言うこと聞いてあげてね」と声をかけられていた。

しかし娘は、わたしのことが大好きなのだ。ことあるごとに言う、「ママ大好き」「ママごめんね」「ねーねーママ、見て!!!!」

それに対し、わたしはどう反応しただろうか。息子のお世話にてんてこ舞いで、無下にしていなかったか。
娘が、ママ大好きという時、どんな声色だった? どんな状況だった? わたしがイライラしていた時ではなかったか。あるいは、息子ばかりに手がかかって、娘に構ってあげられてない時ではなかったか。



その晩、わたしは布団で娘に声をかけた。

「ママ今日さぁ、花ちゃんたち送った後スーパー行ってさぁ、」

娘はウンウンと一生懸命うなづいて、「えー、その子もママ好きなんだねぇ! 花ちゃんと同じじゃん!」と笑いながら言った。わたしは続ける。

「きっとその子、さみしかったんだねぇ。だから、ママに構ってほしくて、ママに元気になってほしくて、ママが大好きって、ずっと言ってたんだろうねぇ」


娘は静かになった。


「ママもさ、一番上だから気持ちわかるよ。ママに構ってもらいたいよね。花ちゃんもそうだよね。ママ、花ちゃんにあまり構ってあげられなくて、イライラしちゃって、ごめんね。」


娘は、うわぁあんと泣き出した。声と涙が、痛いほどにわたしに語り掛けてくる。
わたしは何をやっているんだろう。こんなに小さな子どもの震える胸は、愛情を求めて精一杯だったのに、それをひた隠しにして「どうにか可愛く思ってもらいたい」「どうにか伝えたい」「どうにかこの状況を好転させたい」と一生懸命に振る舞っていたんだ。そんなことを、6歳の子にさせるなんて。

わたしは、娘の頬をつたる涙をなぞって、やわらかな髪を撫でた。落ち着くまで抱きしめて、共に眠る。わたしの宝物だ、2人とも。命を差し出しても惜しくないほどの、この2人のためなら自分の人生はどうなってもいいと言えるほどの、わたしの宝物なのに。なのにどうして、こんな想いをさせてしまう。


わたしは、常に考える。この家の大人はわたし一人、わたしが法律。だからこそ、厳しく自分を律する必要がある。子どもたちを守る。優先順位をつける。
わたしの多少のこだわりを捨てるぐらいで、子どもたちが安心できる家になるなら、その方がよっぽど良いに決まってる。


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