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「エヴェレスト-神々の山嶺」と遭難予防

 夢枕獏さん作「エヴェレスト 神々の山嶺」という本を読みました。角川文庫の文庫本で、本編1058ページ。いや、活字が苦手な僕が良く読んだぁ~と自画自賛。
 お話の内容は…まぁ読んでいただくか映画をご覧いただくとして…(笑)フィクションとリアルなストーリーが交錯する世界が面白かったです。
 1058ページの超大作で考えさせられたことは、一貫したテーマ「なぜ山に登るのか」。そして、「作中で『一番死に近い』と言われた男が、最後まで帰ることを諦めなかった」ということでした。
 なぜ、人は山に登るのでしょうか…あんなに辛くて、長い道のりをただ原始的にひたすら歩き、攀じらなければいけない…。このご時世にです。
 エベレストの初登頂目前で力尽きたといわれる、ジョージ・マロリーは「そこに山があるから」と言い、作中のクライマー羽生丈二は「ここにおれがいるから」と言っています。改めてみなさんは、「なぜ、山に登るのでしょうか…」

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 それぞれに山に通う理由があるにせよ、やはり誰しもが「無事に帰りたい」と願って山に入ることは共通のテーマにあるように思います。一見無謀そうな冒険をする先鋭的なクライマーも、過酷なことに挑むひとほど、実は「無事に帰る」ことをしっかりと念頭に置いて計画しているわけです。作中の羽生もしかり。

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 ところで、縁あって僕は山岳遭難の捜索活動に参加することがあります。そこで実際に捜索の現場を体験し、改めてわかってきたことがありました。
 よく、「山が生きがいそのものだから、山で死んだら本望だ…」という論調を耳にしますが、どうもそう簡単にいかないところもあるようです。

 山岳遭難で帰ってこなかった人は「行方不明者」になります。届け出があってからまずは警察消防などの公的機関を中心に大規模な捜索活動が展開されますが、この期間は数週間で見つからないと打ち切られることが多いようです。
 その後は、家族の希望によって民間の機関や有志になどによって捜索が続けられますが、この期間は1日当たり数万円~数十万円の費用がかかります。これでもすぐに発見されれば、まだ御の字。
もし、さらに発見されないと、なんと行方不明から最長で7年間経たないと法的に「死亡認定」もされないのだそうです。
 この行方不明の間は、他にも家族親族に経済的な負担がのしかかります。
保険。保険金は死亡認定されないとおりないそうです。
ローン。こちらも死亡認定されないとチャラにならない。
給料。ほとんどのケースで7年間失踪している間に解雇されてしまうでしょう。
 つまり、収入ないのに払い続ける義務が生じる。。耐えられず自己破産に追い込まれるケースもあるのだとか。1日の楽しいハイキングの結末にこういう悲しい現状もあります。

 山岳遭難の要因第一位で4割ほどは「道迷い」という統計もあり、「山で行方不明になる」ことは是が非でも避けたいですね。
 そのために事前の準備でできることもあります。

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✓登山計画書を提出する。
 登山計画書は、遭難発生時に捜索する側が探すエリアを絞るためにとても有効な書類です。例えば「八ヶ岳に行った」だけでは、全長30km、登山道だけで50種類以上もある山を全部調べきることは不可能に近いです。最近はWebからでも提出できる便利な機能もあります。

✓GPSを携行する
 最近はGPS発信機を携行し、万が一の時にGPS探知によって位置を特定してくれる便利なサービスもあります。この手のギアを手に入れておくのもいいですね。

✓携帯電話の電波をこまめに入れる。
 最近の携帯電話は、電源が入ったときに最寄りの基地局から電波をキャッチする機能があるんだそうです。つまり、電波の入るところでたまに電源を入れておけば、その都度基地局でトラッキングされて捜索範囲が絞れます。
 一番は誰かに通信をすることですが、山頂や尾根上での休憩時など、電源を入れるだけでもやらないよりはマシです。使わないときはフライトモードか電源Offで。

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✓山岳保険に加入する。
  通常の傷害保険ではなく、「山専用」の保険です。遭難捜索に関する費用など高額に請求される可能性の高いものをカバーできます。

 他にも細かいテクニックはありますが、ひとまずこの4つを実行できるだけで「行方不明」捜索は格段に効率が上がるものと思われます。
 かの有名な冒険家、植村直己さんは、「冒険とは生きて帰ること」と明言を遺しています。
 まずは、無事に家に帰り楽しい旅を終えることが大事。そのために遭難しない準備と、これからは遭難してしまったときに「帰してもらう準備」も心がけていきたいですね。

大切な人たちのためにも。

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